035・夕餉の昔話
――日が暮れる。
森の中だからか、太陽の光を遮るものも多くて、暗くなるのも早い。
ポッ
レイアさんがランタンを灯し、テントの軒先に引っ掛ける。
テント前には、焚火も灯され、
パチ パチチ
薪が弾けて、火の粉が幻想的に空に舞っていく。
(ええなぁ)
大自然の中、凄く綺麗じゃないの。
やがて、焚火には、組み立て式の三脚が置かれ、鍋がぶら下がった。
鍋の中身は、
ヒィン
【青毛鹿の肉と5種の野草と茸の煮込みスープ】
・全ての食材を放り込み、煮込んだ物。
・持参の乾燥したラキラ麦パンを浸しながら食べると、柔らかくなり、とても食べ易い。
・本日の夕食。
・本来、ここまでしないが、今日は貴方のために特別に作っている。
(わ、特別だって)
嬉しい。
朝昼、虚無味の携帯食料だったから、余計に……うん。
調理は、クレフィーンお母様が担当し、木製の器によそってくれる。
「はい、シンイチ君」
「あ、ありがとうございます」
受け取る。
ホカホカと湯気が上がり、柔らかそうな肉や野草、茸が浮いている。
しかも、いい匂い……。
他の2人とお母様自身の分も用意され、3人が食前の祈りを捧げたあと、「いただきます」と全員で食べ始める。
モグモグ
(ん、美味しい!)
お肉、柔らかい!
色んな野草と茸もしっかり煮込まれてて、口の中で溶け、複数の味が楽しめる。
また、真眼の言う通り、パンを浸してみると、
アムッ
(おお……いい!)
硬いパンがふやけて柔らかく、また染みたスープの旨味がする。
そして、スープの方にもパンの塩っ気が移り、また違う味わいが生まれている。
うむ、シンプルなのに奥が深い。
あとね、
(外で食べる食事は、どうしてこう美味しく感じるんだろう?)
焚火を見ながら食べる食事、最高。
モグモグ
夢中で食べちゃう。
そんな僕に、3人の女性陣も微笑ましそうな顔をしていた。
……ちょっと照れる。
やがて食事も進み、ある程度、お腹も落ち着く。
(ふぅ)
日は完全に暮れ、周囲は真っ暗だ。
焚火とランタンの光だけが、僕らの世界を照らしている。
時間の流れがゆっくりになったような、静かでまったりした空気が満ちていく。
そんな中、
「――私が冒険者になったのは、12歳の時でした」
と、金髪のお母様が呟いた。
ん……?
僕は彼女を見る。
彼女は、ニコッと僕に微笑んだ。
(あ……)
約束の昔話をしてくれるんだ、と気づく。
僕は「うん」と頷く。
友人2人も食事の手を止める。
アルタミナさんは、少し遠くを見て、
「ああ、私は14の時だったね」
と、呟く。
そして、彼女の金色の瞳は僕を見る。
「実は、私は孤児でね」
「孤児?」
「うん。赤ん坊の時に、小さな村の教会前に捨てられていたらしいんだ」
「…………」
おおぅ、
(いきなり、重い話だぁ)
驚きながら、僕は何とか頷く。
アルタミナさんはクスッと笑い、金髪の美女を見る。
そして、
「その教会の神父様がね、クレフィーンのお父上だったんだよ」
「え?」
驚き、僕も彼女を見る。
長い金髪を肩からこぼれさせながら、クレフィーンさんは頷いた。
(あ……前に、ファナちゃんが言っていたっけ)
おじい様は神父様だった、って。
僕は言う。
「じゃあ、2人は幼馴染?」
「ええ、そうですね」
「うん、だね。でも、姉妹に近いかな。昔は、少し年上の私が小さなフィンのおむつ替えもしたんだよ?」
「へ~?」
「ア、アルっ」
「はは、ごめんごめん」
赤くなる友人に、黒髪の美女は楽しそうに笑う。
なるほど。
(友人で姉妹、か)
2人の様子からも、仲の良さがわかる。
やがて、アルタミナさんの表情が少しだけ落ち着いた微笑みに代わる。
瞳を伏せて、
「私は、フィンの実家でお世話になった。本当によくしてもらったよ」
「……アル」
「ただ、15年前……私が14歳、フィンが12歳の時、教会のあった村そのものが魔物災害でなくなってしまってね」
(……え?)
魔物災害?
不穏な言葉に、僕は固まる。
多分、
(村が、魔物に襲われたってことだよね)
と、推測する。
見れば、クレフィーンさんの表情も少し辛そうな微笑みだった。
「生き残った村人は、私たち含め5人だけでした」
「……5人」
「ええ。私の父も母も、その時に……」
「…………」
ドクドク
僕の鼓動が早くなる。
黒髪の美人さんは、静かに語る。
「私は義姉だったからね。何もなくなった村から、泣いているフィンを引き摺り、何日も歩いて人の多い王都に行った。そして生きるために、2人で冒険者登録をしたんだよ」
「ええ、そうでしたね」
頷くクレフィーンさん。
姉のような友人を見て、
「彼女がいなければ、私は立ち直れなかったかもしれません」
と、信頼に満ちた眼差しで微笑む。
アルタミナさんも妹分の女性に優しく笑う。
(そ、そっかぁ)
思ったより大変な話だった。
と、その時、
「その登録した日に、私とも会ったのよ」
と、レイアさん。
(え?)
幼馴染の友人2人も頷く。
赤毛のエルフさんは、その長い真っ赤な髪を手でかき上げ、
「私は生来、好奇心が強くて、森では異端のエルフでね。その日、生まれた森を出て、初めて人間の国の首都を訪れてたの」
「そうなの?」
「ええ。で、人間社会じゃ冒険者登録しておくと色々便利みたいだったから」
「ああ……」
入町税とかかからないものね。
(うん、僕も経験済みです)
そんな僕とお仲間のエルフさんは、
「私が登録した時、2人も同じように隣で登録してたのよ。で、その時の受付嬢が、最初は新人同士でも組んだ方が安全だと推薦してきて……」
「それで、パーティーに?」
「そ」
赤い髪を揺らし、頷くレイアさん。
友人2人も頷き、
「あの時は、突然、知らない大人が仲間になったので緊張しましたよ」
「しかも、エルフだもんね」
「はい」
と言う。
レイアさんも肩を竦め、
「そうね。私も正直、いきなり子守りをするのかと思ったわ」
と応じて、3人で苦笑し合う。
なるほど、確かに。
(でも、今も一緒にいるんだから、いい御縁だったんだね)
と、僕は思ったり。
レイアさんは、
「最初は心配したけど、2人とも優秀でね。すぐにムクムク背丈も大きくなって、いつの間にか私より強くなって、今じゃ子供までもいるんだもの」
「…………」
「本当、人の子の成長は早いわね」
と、長命な種族らしく笑う。
(ふ~む)
200歳以上の彼女からしたら、人の世の移り変わりは早過ぎると感じるのかもなぁ。
10代なんて本当に赤ん坊。
なのに、クレフィーンお母様は18歳で出産してるもんね。
(あ、そう言えば……)
僕は、金髪のお母様を見る。
「クレフィーンさんの旦那様も、冒険者だったんですよね?」
「ええ、そうですね」
彼女は頷く。
優しい表情で、
「あの人とは……アレスとは、私が15の時に出会いました。彼は20歳で、私よりも先輩の冒険者で、たまたま同じ商隊の護衛クエストで知り合ったんです」
と、懐かしそうに言ったんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
先日、注目度ランキングにこっそり入っていたようで嬉しかったです♪(今はランク外ですが)
なので記念に、本日もう1話、更新します。
午後6時か7時頃になると思いますが、もしよかったら読みに来てやって下さいね。
また、いつも読んで下さる皆さん、本当にありがとうございます!
ブクマや評価も、誠に感謝です。
あ、もし、まだ押してないよという方もいらっしゃいましたら、よかったらこの機会にぜひ。
よろしくお願いします~!
ゆっくりした展開の作品ですが、これからも皆さんに少しでも楽しんで頂けるよう頑張ります。
もしよろしければ、どうかこれからも気長にお付き合い下さいね。




