031・勇気ある決断(かな?)
(え、僕も一緒に?)
思わぬ提案に驚いた。
でも、僕がそれに答える前に、
「何を言い出すんですか、アル!?」
ガタッ
クレフィーンさんが慌てたように、椅子から立ち上がった。
黒髪の友人に言う。
「今回の対象は『竜』ですよ!?」
「そうだね」
「シンイチ君は、登録したばかりの新人冒険者です。そんな子を同行させるなど、貴方は、彼を殺したいのですか?」
キッ
彼女は友人を睨む。
その青い瞳には、非難の色がある。
でも、アルタミナさんは落ち着いた表情で、金髪のお母様の視線を受け止める。
静かな口調で、
「危険なのはわかるよ」
「でしたら――」
「けど、彼の言う場所に『深緑の大角竜』がいなかったらどうするつもりだい?」
「え……?」
「彼の証言には、僕も一定の信頼を置いている。けれど、魔物も移動する。僕らの到着前に、また姿を隠されたら……またシンイチ君に頼りに町に戻るのかい?」
「それ……は……」
「その間、新しい被害者が出ない保証はない。そして、時間がかかればかかるほど、多くの人命が脅かされるんだよ」
「…………」
金色の瞳にあるのは、強い覚悟。
依頼を受けた冒険者としての誇りと責任が見えていた。
(……格好いいじゃん)
しかも、美人だし。
う~ん、これが王国で3人だけの『煌金級の冒険者』か。
その美貌を、少し見つめてしまう。
正当な理由を述べられ、優しいクレフィーンお母様は言葉に詰まる。
一方、赤毛エルフのレイアさんはどちらでも良さそうな表情で、2人の会話と成り行きを見守っていた。
と、その時、アルタミナさんが僕を見る。
視線が合い、
ドキッ
少し背筋が伸びる。
黒髪美人さんの唇が動き、
「安全は保証できない」
「…………」
「だけど、私たち3人で全力で少年を守ることは約束する。だから、私たちに同行し、その秘術の目の力を貸してくれないか?」
ジッ
真っ直ぐな眼差し。
(……ふ~ん?)
嘘でも『安全』とは言わなかった。
そこに、彼女の誠実さと誠意を感じる。
気づけば、隣の金髪の幼女も、その青い瞳で僕がどう答えるのか不安そうに見つめていた。
…………。
ま、確かにね?
そのなんちゃら竜が、沼地のどこに隠れていようと、他の場所に移動してようと、僕なら見つけられる。
余計な時間はかからない。
それはつまり、ファナちゃんのお留守番も短く済むということ。
それに多少の危険も、僕には『真眼』と1日2発の『土霊の岩槍』があるし……。
(――うん)
決まりだね。
僕は、アルタミナさんを見返して、
「わかりました、僕も同行します」
と、答えた。
黒髪の美女は、満足そうに頷く。
「ありがとう、シンイチ君。君のその勇気ある決断に感謝するよ」
と言い、右手を出してくる。
(あ……うん)
僕も、その白い手に自分の手を重ねて、
キュッ
と、固く握手。
細くて、けど、ゴツゴツした硬い手のひら。
でもそれは、人々を守る戦士の手。
なんか凄く熱い。
そんな僕を見て、アルタミナさんは王子様みたいに白い歯を輝かせて微笑んだ。
(おおぅ……眩しい)
本当、男前の美人さん。
やがて、僕らは手を離す。
クレフィーンさんは、
「シンイチ君……」
と、何だか複雑そうな表情で僕のことを見ていた。
僕は、少し困ったように笑う。
そして、レイアさんは軽く肩を竦め、「ま、精々死なないように気をつけなさいよね」なんて他人事のように言う。
最後に、
「お兄様……」
と、天使ちゃん。
心配そうな幼女に、僕は笑いながら、
ポム
「大丈夫。お母様と一緒に、すぐ帰るからね」
と、頭を撫でた。
金髪の感触が柔らかい。
彼女は猫みたいに青い瞳を伏せながら、「う、うん」と頷く。
(よしよし)
僕は、手を離す。
視線をあげると、
「…………」
金髪のクレフィーンお母様が僕を見つめ、長い髪を流れさせながら静かに頭を下げたんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
今話は短めなので、本日もう1話更新いたします。よかったらどうか読んでやって下さいね♪




