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003・骸骨さんと僕

(ふぅ、ふぅ)


 2時間ほど、草原を歩いた。


 ヒィン




【クレタの町】


・距離、約10・5キロ。




 現在の表示は、こんな感じ。


 ここまで、大体6・5キロほど歩いたらしい。


 着実に進んでいるのが数字として実感できるのは、精神的にもありがたいな。

 

(本当、便利)


 さすが、チートです。


 …………。


 周囲の景色も、少し変わった。


 草原の中に、低木が生え、大小の岩が転がっている。


 遥か遠くには、緑の森。


 更に先には、水色に霞む山脈が見えるようになった。


(ふ~む?)


 あの山の麓かな、クレタの町は?


 まだ遠い。


 けど、残りの距離が数字でわかっているので、気持ちは折れない。


(よし、行くぞー)


 気合充分。


 景色もいいし、天気もいい。


 気分はハイキングだ。


 そうして僕は、足を動かす。


 しばらく進み、ふと、大きな岩の近くを通りかかった。


(ん……?)


 通り抜け様、岩の裏に何か(・・)が見えた。


 足を止める。


 何気なく振り返り、



「――え?」



 岩にもたれるように、骸骨・・が転がっていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 鎧を着た人間の骸骨だ。


 よく見ると、右足の骨がない。


 僕は、ちょっと呆然。


「…………」


 見つめて、『真眼』を発動する。


 ヒィン




【人間の死体】


・生前は、冒険者。


・魔物に襲われ右足を負傷。動けなくなり、失血により死亡してしまった。


・死後、約2年が経過している。




 冒険者の死体……か。


 まさか、初めて会う異世界人が骸骨さんとは思わなかった。


(あ……剣だ)


 そばの草むらに落ちている。


 手に取り、


 ボロッ


 うわ、折れてる。


 刃の部分の長さは、15センチぐらいか。 


 でも、まだ使えそう。


 …………。


 浮かれてたけど、異世界にも危険があるんだよな。


 定番の魔物、とか。 


 現に、人、死んでるし……。


 護身用に、これ、もらおう。


 ヒィン



【折れた剣】


・量産品の安物。


・折れているため、価値は1000円ほど。


・攻撃力10。



 ほう?


(攻撃力とかあるのか)


 10……あんまり、高くなさそうだ。


 でも、ないよりマシさ。


 近くを調べると、他に『肩提げ鞄』も落ちていた。


 中を見る。 


 ガサゴソ


 真っ黒に変色したタオル、カチカチに固まった丸い物、硬貨の入った布袋が出てきた。


(――ん)


 ヒィン


 真眼、発動。




【血濡れのタオル】


・安物の布タオル。


・大量の血痕が残っている。


・不衛生。




【乾燥したパン】


・長時間放置された食用パン。


・外側を削れば、まだ食べられる。


・滅茶苦茶、硬いので、歯が折れないように注意が必要。




【財布】


・布の財布。


・315リドの硬貨が入っている。


・1リド、約100円。




(ほう?)


 パンと財布は、有益だね。


 特に、財布。


 通貨単位もわかったし、3万1500円が手に入ったぞ。


 タオルは……ポイ。


 乾燥したパンは、非常用に持っておこう。


 何あるか、わからないしね。


 …………。


 他は特にないか。


 鎧は、さすがに重そうだし、サイズも合わないからやめておく。


「よし」


 もらう物はもらった。


 肩提げ鞄をかけ、折れた剣を手に僕は立ち上がる。


(少し時間かかったかな?)


 町も遠い。


 日暮れまでに着きたいし、急がないと。


 と、思うけど、


「…………」


 僕は、骸骨さんを見る。


 ……うん。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて30分後、草原に掘った穴に、僕は、骸骨さんを埋葬した。


(ふぅ、ふぅ)


 額の汗を拭う。


 盛り上がった土の前で、手を合わせる。


 1分ほど、黙祷。


 まぁ、色々ともらったしね。


 異世界に来たからって、日本人として死者を悼む気持ちも忘れたくないしさ。


 しばらく、お墓を見つめる。


 その時、


 ヒュウ……


 ふと、草原に柔らかな風が吹く。 


 僕は、目を細めて、


「ん、よし」


 骸骨さんのお墓に背を向け、また歩き出したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「お……?」


 しばらく進むと、草原の中に道が現れた。


 土を固めただけの道。


 見てたら、真眼が発動する。


 ヒィン




【草原の街道】


・王国の一般的な街道。


・現在の目的地、クレタの町にも通じている。




(おお、クレタ行きの道なんだ?)


 これは、助かる。


 実は、草原って結構歩き辛いんだよね……。


 足に草は絡むし。


 地面は凸凹だし。


 その足元も見えないし。


 だから、日本みたいに舗装されてなくても、こうした道となった場所を歩けるのはありがたくて。


 パン パン


 靴で道を踏む。


 うむ、地面もしっかり固い。


(よし、行くか)


 僕は、街道を歩きだす。


 土の道には、轍もある。


 ふむ……。


 馬車とか、車両が通ってる証拠だ。


 もし途中で馬車が通りかかったら、乗せてもらえたりできないかな?


 結構、歩いたし……。


 実は、疲れもあるんだよね。


 クレタまでは、


 ヒィン




【クレタの町】


・距離、約8・3キロ。




(う~ん、まだあるね)


 そう思った時、


 ヒィン


 空中の文字に、更に文字が重なった。


(ん?)




【魔物に襲われている馬車】


・街道で魔物に襲われ、停車している乗合馬車。


・現在、乗員、冒険者が応戦している。


・距離、452メートル。




(え……?)


 僕は、目を見開く。


 馬車が襲われてる?


 この先で……?


 これは加勢して、現地の人と仲良くなり、この世界の常識などを教わる場面じゃなかろうか?


 定番と言えば、定番の展開だけど。


 チャキッ


 折れた剣を握る。


 ……でも、


(骸骨さん……)


 剣の前の持ち主の姿を思い出す。


 慎重に。


 僕も同じ姿にならないように、気をつけないと。


 とりあえず、現場を確認しよう。


 僕には『真眼』もある。


 きっと、何とかなるさ。


「――うん」


 僕は頷く。  


 そして、空中に浮かぶ文字を目指して足を急がせたんだ。

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