020・魔法の習得
マトゥーンの魔法石版。
使えば、古代魔法を覚えられる石版だという。
この小石は、壊れたものと思われ、たった10リド――1000円だったけど、実際は最低50万円はする代物らしいぞ。
そして、100回に1回の割合でしか、魔法習得は成功しない。
(つまり……だ)
古代魔法を覚えるには、理論上、最低5000万円かかるのである!
高ぁ……。
まぁ、クレフィーンさん曰く、今の時代には、安く簡単に覚えられる『近代魔法』もあるらしいけどね。
ただ、性能は低いらしいけど……。
何にしろ、ソレとは違う5000万円の魔法。
それが『古代魔法』の価値だ。
……でね?
ヒィン
僕は、真眼発動。
【土霊の岩槍】
・この石板を使うと、覚えられる魔法。
・射程30メートルで、硬い岩の槍を射出できる。
・攻撃力180。
・桐山真一の魔力紋に適合する。習得、可。
空中に表示される文字。
(くっくっくっ……)
わかるかね?
そう……習得、可。
この『マトゥーンの魔法石板』は、僕――桐山真一に適合し、使えば、確定で魔法習得できるのだ!
たった1000円で!
5000万円以上もする魔法が!
(ひゃっほう!)
真眼、最高です!
幸い、ここは誰もいない草原。
高価な石板を使用し、1人で『古代魔法』を習得するのにも格好の場所だ。
「よし!」
早速、やってみるか!
確か、両手で握って、石板に30分ぐらい魔力を流すんだっけ?
ギュッ
僕は、小石を包むように握る。
岩の上に座ったまま、深呼吸し、リラックスした状態で、
(魔力ぅ、流れろ~)
と、念じる。
…………。
…………。
…………。
……で、できてるのかな?
なんか、不安。
小石を握った両手を見る。
すると、
ヒィン
【土霊の岩槍〈解凍中〉】
・適合する魔力紋を感知。
・桐山真一の魔力を吸収し、圧縮された魔法式が解凍されている。
・進行度、3/100。
・残り時間、18分52秒。
(お……?)
できてるじゃん!
やったね。
しかし、圧縮解凍中、か。
なんか、パソコンのデータみたいだね。
ある意味、科学文明の技術も、魔法文明の技術も、人間が扱うものだから、最終的に方法が似てくるのかなぁ?
(う~ん?)
なんて考察しながら、待つ。
ま、のんびり、のんびり。
…………。
…………。
…………。
草原の景色、綺麗だな。
…………。
…………。
この草原、広いよなぁ。きっと、日本じゃ見れないサイズだよ。
…………。
…………。
…………。
あ、鳥が飛んでる。
…………。
…………。
…………。
風、気持ちいいなぁ。
…………。
…………。
…………。
ふぁ……あ。
なんか、眠くなってきた。
と、その時、
ヒィン
真眼、発動。
(ん?)
【土霊の岩槍〈解凍終了〉】
・魔法式の解凍が終了。
・桐山真一の体内に、『土霊の岩槍』の魔力回路の構築を開始している。
・進行度、7/100。
・残り時間、7分30秒。
表示の文字が変わった。
(魔力回路……?)
何だ、それ?
と、疑問に思った時、自分の手に気づく。
魔法石版を握る右手の甲に、茶色い文字列がパァ……と、浮かびあがるように光っていた。
(おお……!?)
こ、これは……。
うん、小石に刻まれていた文字列にそっくりだ。
光る文字は、1文字ずつ増えていく。
そして段々と、文字列で描かれる『魔法陣』みたいな模様になっていっていた。
……凄ぉい。
まさに、魔法現象。
我が身に起きたそれに、僕の目は釘づけだ。
時間経過と共に、
ヒィン
【土霊の岩槍〈魔力回路・構築中〉】
・進行度、72/100。
・残り時間、2分11秒。
と、文字の数値も変化していく。
「…………」
ドキドキ
感動と興奮を覚えながら、見守る。
やがて、
ヒィン
【土霊の岩槍〈魔力回路・構築完了〉】
・魔力回路の構築が完了。
・進行度、100/100。
・残り時間、0秒。
(あ……)
僕は目を見開く。
同時に、右手の甲に浮かんだ魔法陣が強く光った。
パアッ
そして、手の文字が消えていく。
(え……消える?)
え? え? 何、え……?
光る文字が完全に消失し、ただの肌に戻る。
僕は、少し慌てた……けど、
ヒィン
【桐山真一の右手〈土霊の岩槍〉】
・桐山真一の右手。
・右手の内部に『土霊の岩槍』の魔力回路が構築されている。
・魔法の使用、可。
との表示。
「…………」
その文章を、しばし見つめる。
両手を開くと、握っていた小石に描かれていた文字列は完全に消えていた。
小石を脇に置く。
1度、深呼吸し、右手に軽く魔力を流すイメージ。
すると、
パァァッ
(……あ)
茶色く光る文字列――魔法陣が、手の甲に浮かんだ。
は……。
はは……。
はははっ……!
自然と笑みがこぼれた。
(魔法、覚えた!)
覚えたぞ!
きっと、間違いない。
僕が、魔法を。
くぅ……っ。
僕は、両手を握り締める。
そして、
「――よっしゃあああっ!」
バッ
青い空に向けて、光る右手の拳を高々と突き上げたんだ。




