016・獣人&エルフのお友達
(ふぉおお……)
感動する僕。
目の前の2人も、クレフィーンさんに負けない美人である。
まるで、海外の女優さんみたい。
しかも、人間とは違う耳や尻尾なのに作り物らしい違和感もなく……うん、まさにファンタジー映画の世界に紛れた気分。
すると、その時、
「この少年かな、クレフィーン?」
と、黒髪の獣人さんが言う。
パタッ
拍子に、長い尻尾が動く。
(おお……!)
本当に動くぞ……!
当たり前だけど、生きてる尻尾。
感動です……!
そんな僕の前で、クレフィーンさんは友人に「ええ」と頷く。
僕に微笑み、
「シンイチ・トウヤマ君。私の大事な娘を助けてくれた恩人です。とても勇気のある優しい男の子なんですよ」
「へぇ、そうなのかい」
「ええ。彼はニホンという遠い島国の出身らしく、今は見聞の旅の途中だそうで」
「ふぅん……ニホン?」
獣人さんは呟き、僕の方を向く。
ジッ
縦長の瞳孔がある金色の瞳。
それが今、僕を品定めするように見つめてくる。
ドキッ
少し緊張。
でも、
(美人さんだなぁ)
見た目、クレフィーンさんと同世代。
そして、日本人には馴染み深い黒髪と、異世界らしい金色の瞳をしている。
髪は短めで、少し中性的な印象かな?
同じ女性にも、モテそうなタイプ。
全身は、両腕を出す黒い鎧。
背負う戦斧は、黒地に赤い紋様があり重そうだ。
何よりも、
ピクッ
と、僕や周囲の音に反応して動く獣耳や、
パタッ パタリ
時折動く、猫科の長い尻尾が、うん、とっても素敵です。
僕は笑って、
「こんにちは、桐山真一です」
と、右手を出した。
黒髪の美人さんは、少し驚いた表情をする。
すぐに頷き、
「私は、アルタミナ・ローゼンだよ」
グッ
僕の手を握ってくれる。
熱い手のひらだ。
そして、手は、人間のそれ。
(ふむ……?)
多分、人間に耳と尻尾が生えただけタイプの獣人さんかな。
と、その時、
ヒィン
(あ……)
真眼が発動した。
【アルタミナ・ローゼン】
・獣人、女、29歳。
・獅子の獣人種。
・王国に3人いる『煌金級の冒険者』の1人。『黒獅子公』の異名がある。
・クレフィーンの昔の仲間。
・戦闘力540。
(おお……)
なんか、凄い人みたい。
思わず、その美形な顔を凝視してしまう。
その視線に、
「どうした? 獣人は珍しいのかな?」
と、皮肉気に笑う。
とてもクールな微笑だ。
(背筋がゾクゾクッとしちゃうよ)
僕は頷き、
「うん、珍しいです」
「…………」
「実は日本には獣人さんがいなくて、直接話すのは、アルタミナさんが初めてです。だから、今、凄く嬉しくて……!」
ギュ……ッ
握った手に左手も重ね、何度も上下に揺らす。
僕の力説に、
「そ、そうかい」
彼女は目を丸くする。
よく見たら、クレフィーンさんとエルフさんも同じ表情だった。
(……?)
何、この反応?
やがて、黒髪の獣人さんは息を吐く。
苦笑し、
「なるほど、亜人種への偏見はなしか」
「え……?」
「いや、何でもないよ」
「…………」
「少年、君が悪い人間でないのはよくわかった。どうやら、クレフィーンにも、悪意や下心を持って近づいた訳ではないようだね」
「はい……?」
悪意や下心?
すると、金髪のお母様が、
「シンイチ君は、そんな子ではありませんよ」
と、不満そうに言う。
アルタミナさんは苦笑しながら、
「独り身の寂しい女は狙われ易いんだ。それに君は、時々、変な所で抜けているからね」
「まぁ……」
「けど今回は、フィンの目が正しかったよ」
彼女はそう言い、頷く。
クレフィーンさんはしばし唇を尖らせ、やがて、ため息をこぼす。
(…………)
ああ、そっか。
クレフィーンさんが僕に何か騙されてるんじゃないかって、仲間の心配してたのね、この獣人さん。
うん、友人思い。
疑われたけど、僕としては好感度が上昇だよ。
ただ、2人の様子に、
(……この世界にも、やっぱり悪い人はいるのかぁ)
と、残念に思ったり。
ま、仕方ない。
(僕も気をつけよう、うん)
と、1人頷く。
すると、
「あら、何? アルもフィンも、もう、その人間の子供にほだされちゃったの?」
と、呆れた声がした。
(ん?)
僕は、声の方を見る。
視線の先には、耳の長い美人さん――片手を腰に当てるエルフさんがいらっしゃった。
◇◇◇◇◇◇◇
僕を見る眼差し。
その薄紫の瞳には、静かな冷たさが宿る。
フン
彼女は軽く笑い、
「子供だろうと男は男よ? 特に人間なんて、あっという間に成熟する種族なんだから」
と、赤毛の豊かな髪を手で払う
(おお……)
その仕草が、凄く様になる。
誇り高そうなエルフさん……本物だ。
ジ~ッ
僕は、そんな彼女を見つめてしまう。
(うん)
見た目は、長い赤毛の美人さん。
耳以外、特に人間と変わらない。
実年齢はわからないけど、外見年齢は、他の2人と同じぐらいに見える。
服装は、赤い衣装に胸当て。
背負う大弓には、前側に接近戦用の白いブレードが装着されている。
腰の左右には、短剣。
凄く繊細な美貌で、だけど、その表情と眼差しがきつく、冷酷な印象を与えてくる。
でも、それがよく似合う。
と、その時、
ヒィン
【レイア・ロム・グレシアン】
・エルフ、女、225歳。
・グレシアンの森の出身のエルフ。
・白銀級の冒険者。黒獅子公の相棒で『赤羽妖精』の異名がある。
・クレフィーンの昔の仲間。
・若い頃、人間の男に騙されたことがあり、人間と男に対して若干の警戒感がある。
・戦闘力370。
(225歳!)
さすが、エルフさん!
でも、男性不信……なのか。
昔、何があったんだろう? 少し気になる。
と、そんな僕を、
ジッ
彼女は覗き込む。
「ねぇ、本当はあれでしょ?」
「?」
「内心じゃ、一緒にいるクレフィーンの大きなおっぱいに魅了されて、いやらしいことしてみたいとか思ってるんでしょ?」
「へ……!?」
思わぬ言葉に、僕は驚く。
クスッ
赤毛のエルフさんは、淫靡な笑みを浮かべている。
仲間2人も驚いた顔。
(……おっぱい)
チラッ
思わず、金髪のお母様を見る。
今は鎧に隠されているけれど、私服の時の彼女は……うん、確かに大きかったですね。
と、その時、
パチッ
目が合った。
(あ……)
「あ……」
金髪のお母様の頬がほんのり赤くなる。
さりげなく隠すように、その胸に腕を当てる。
(うわぁあ……)
僕も赤面。
慌てて、
「ご、ごめんなさい!」
と、謝った。
何してんだ、僕ぅ……。
ここまで築き上げた彼女との信頼関係が、ガラガラと崩壊していくのを感じる。
な、なんか、泣きそう。
そんな僕に、
「シンイチ君……」
「…………」
「だ、大丈夫ですよ。ふふっ、男の子ですから、こんなおばさんの胸でも興味はありますよね?」
と、優しく言ってくれる。
うう……フォローさせて、ごめんなさい。
(あと、おばさんじゃなくて、綺麗なお姉さんぐらいに思ってます……)
と、心の中で突っ込む。
落ち込む僕の背中を、
「よしよし」
と、女神なお母様は優しく撫でてくれる。
そんな僕らの様子に、2人の友人も少し驚いた表情をしている。
そして、黒髪の獣人さんは、
トン
隣の赤毛のエルフさんを肘でつく。
「なぁ、レイア」
「……な、何よ?」
「悪意がないのはわかってる。でも、思春期の少年の心を傷つけるのは、大人の女としてよくないよ」
「…………」
「よくないよ」
「……むぅ」
彼女は、唇を尖らせる。
やがて、ため息を1つこぼすと、僕の前へ来る。
そして、
「もう……悪かったわよ」
クシャクシャ
(わっ?)
乱暴に髪を撫でられた。
驚き、僕は顔をあげる。
プイッ
赤毛の髪を揺らし、エルフさんは顔を逸らした。
「今回は、私がからかい過ぎたわ。ごめんなさい。――もう、これでいいでしょ?」
最後は、友人たちに言う。
その長い耳の先が、少し赤い。
(…………)
ああ、うん。
冷たく見えたけど……でも、本当は……。
撫でられた髪を、僕は触る。
(考えたら、あのクレフィーンさんの友人だもの)
そっか、と納得。
そして、
「レイアさんって、いい人だね」
「は……?」
彼女は、驚きの表情で振り返る。
その友人のクレフィーンさん、アルタミナさんも目を丸くしていた。
僕は笑って、
「何となく、そう思いまして」
「……そ」
彼女は、複雑そうに僕を見る。
2人の友人は顔を見合わせ、そして、苦笑する。
赤毛のエルフさんは、
ジトッ
薄紫の瞳で、僕を見下ろす。
やがて、
「……ふん、変な子供ね」
と、また、そっぽを向いたんだ。