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014・マトゥーンの魔法石板

 金髪の女冒険者さんと、クレタの町を歩く。


 通りには、たくさんの人がいる。


 ヒィン


 何となく、真眼が発動。




【クレタ町人】【旅の行商人】【商店の売り子】【クレタ町人】【旅人】【巡礼者】【巡礼者】【クレタ町人】【冒険者】【配達人】【スリ】【孤児】【クレタ町人】【神官】【冒険者】【冒険者】【馬車の御者】【商店の主人】【警邏隊員】【吟遊詩人】【クレタ町人】……




 色々出てくる。


 ってか、


(え、スリ……!?)


 そんなのいるの?


 あ、あの男の人か。


 僕は、肩提げ鞄をギュッと抱く。


(絶対に盗られないぞ……!)


 やはり、異世界。


 安全な日本とは違うのだと再認識である。


 ちなみに、そんな僕の様子を、隣の金髪のお母様は「?」と不思議そうに見ていたけれど……。


 …………。


 ……す、少し恥ずかしい。


(ん、んんっ)


 コホン


 僕は咳払いし、気を取り直す。


 町中の広い道には、人だけでなく、馬車も通る。


(お……?) 


 馬車の中には、馬ではなく巨大な『蜥蜴』が牽く車両もあった。


 いや……あれ、竜か?


 ヒィン




【パル竜】


・人が飼育した益竜の1種。


・卵の時から人の手で育てられ、基本、従順である。ただし、竜の本能を刺激しないような注意は必要。


・旅の最中は、車両の護衛も兼任している。




(ほほう?)


 凄い、異世界らしい。


 さながら、馬車ならぬ『竜車』といった所か。


 格好いいなぁ。


 よく見たら、馬車、竜車の他にも、巨大な亀もいる。


 体長3メートルぐらい。


 甲羅に座席があり、人が3人座っている。


 1番前の人が手綱を握り、甲羅の左右には、たくさんの荷物も吊られていた。


 ノッシ ノッシ


 大きな亀さんは、僕の横を通り過ぎる。


(う~む)


 異世界には、色々な移動手段があるんだね。


 うん、面白い!


 そんな目を輝かせる僕に、クレフィーンさんは何だか優しい表情をしていた。


 …………。


 そうして2人で道を進む。 


 道の左右には、商店が並ぶ。


 しばらく進むと道の先には、中央に噴水のある円形の広場があり、道はそこで3方向に分かれていた。


 また、広場には露店も並んでいる。


(へ~?)


 結構、人もいる。


 お店は、串焼きの肉や果実、野菜などの食べ物を売る店が多い。


 他にも、洋服、アクセサリー、食器など。


 あれは、中古の武器かな……?


 色々、扱ってるね。


(なるほど、いわゆる、フリーマーケットか)


 と、納得。


 売ってる人も人間だけでなく、獣人、ドワーフなどもいて実に異世界らしい。


 歩きながら、露店を眺めてしまう。


 その時、


(ん……?)


 なんか、石も売ってる。


 露店の1つ。


 その店先には、古そうな石片が何個も置かれていた。


 大きさも様々。


 3センチほどの小石から、漬物石みたいな物まである。


 表面には、奇妙な文字列。


 魔法陣……かな?


 石の形は歪で、ほとんどが割れたり、欠けたりしている。


(う~ん?)


 何なんだろう、この石?


 少し気になる。


(よし)


 じゃあ、真眼で……。


 と思った時、



「――おや、『マトゥーンの魔法石版』ですね」



 後ろから声がした。


 振り返ると、金髪の女冒険者さんも僕の背後から露店を覗き見ていた。


(ふむ?)


 マトゥーンの、魔法石版……とな?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕の表情に、彼女が気づく。


「あ……シンイチ君は知りませんか?」


「うん、知らないです」


 正直に頷く。


 まぁ、『真眼』で視たらわかると思う。


 けど、日本にいた時みたいに、すぐにインターネットで調べるみたいなのもつまらない。


 せっかくの異世界。


 ここは素直に、現地の人にお聞きしたい所です。


 クレフィーンさんは少し考え、


「シンイチ君は、異国の人ですものね」


 と、納得したように頷く。


 それから教えてくれる。


「実は、このアーク大陸には500年前、『マトゥ』という慈母の女神と『パルディオン魔法王国』という統一国家がありました」


「女神と魔法王国……ですか?」


「はい」


 頷く、現地人の金髪お姉さん。


 僕は、


(まさに、ファンタジーな世界……!)


 と、思ったり。 


 彼女は続ける。


「慈母の女神マトゥの加護の下、パルディオン魔法王国は栄えました。今の時代よりも、ずっと魔法の技術、知識も発達していた王国だったそうです」


「へぇ……」


「ですが、500年前に女神様はお隠れになりました」


「…………」


 お隠れ……確か、亡くなったって意味だよね?


(……何で?)


 疑問が表情に出てたのかな。


 それに、彼女は答えてくれる。


「邪竜に殺されたそうです」


「邪竜……?」


「はい。当時の別大陸から飛来した邪竜で、多くの破壊と混乱をもたらしたとか。女神様と王国の人々が協力して戦い、結果、勝利はしたものの女神様はお隠れに……」


「…………」


「女神様を失ったパルディオン魔法王国も、やがて崩壊……多くの小国に別れ、文明も退化し、500年後の今に至ります」


(はへぇ……)


 まるで、歴史の授業だ。


 金髪の美人先生は、露天の前にしゃがむ。


 カチャッ


 売り物の石を1つ、摘まみ


「マトゥーンの魔法石版……これは、その『女神と魔法王国期』の遺物なんです」


「遺物?」


「ええ、ここに古代文字が刻まれているでしょう? これは圧縮された魔法式で『古代魔法』が記されているんです」


「古代魔法……ですか?」


「はい、500年前の強力な魔法です。魔法文明の劣る『近代魔法』とは、一線を画す力を秘めています」


「へぇ……」


「そして、この石板を使うと、その古代魔法が覚えられるんですよ」


「え……魔法を!?」


 覚えられるの?


(僕でも?)


 魔法が存在しない世界出身の僕は、大いに期待してしまう。


 けど、彼女は苦笑する。


 石を戻し、


「ただ、確率は低いです」


「…………」


「どうも相性があるらしく、100回に1回、成功するぐらいで」


「……100分の1?」


 え……たった、1パーセント?


(低ぅ……)


 僕は唖然だ。


「失敗すると、石板自体が壊れます」


「わぁ……」


「魔法学者によれば、人間の魔力紋と魔法式の適合に未だ不明の法則があるそうで……現在も研究が進められています」


「…………」


「ちなみに私は――」


(?)


 金髪のお母様は、左手を僕の前に出す。


 手のひらを上に向け、


 ボッ


 その空中に、白い炎が灯った。


(おわっ?)


 驚く僕に、彼女は少しおかしそうに笑う。


 そして、



「――『白き炎霊』。私が唯一、覚えることができた古代魔法です」



 と、言う。


(へぇ……凄い)


 これ、馬車が襲われた時に、狼の魔物のボスを倒した白い炎だよね。


 白い炎の中では、


 キラキラ


 と、不思議な光が散っている。


 これが、


(魔法……か)


 初めて間近で見て、ちょっと感動だよ。


 見つめる僕に、クレフィーンさんも微笑む。


 シュウ……ッ


 あ、消えた。


 少し残念。


 僕は彼女を見上げ、


「ちなみにこれ、何回目で……?」


「確か、試したのは20回ぐらいでしたか」


「おお、20回で」


「ええ、幸運でした。ただそれ以降も、30回ほど試しましたが、1度も……」


「なるほど」


「マトゥーンの魔法石版は、1枚で最低5000リドはします。なので、なかなか多くは試せませんね」


「…………」


 ん?


(最低5000リド?)


 1リド、100円。


 5000リド、50万円。


 5000リドが50回で、2500万円!?


(はぁあああ……!?)


 僕、愕然。


 隣の金髪のお母様を、呆然と凝視します。


 ポツリと、


「お金持ち……?」


「ふふっ、白銀級だったので、若い頃はそこそこ稼げたんです」


 と、上品に苦笑される。


 その上で、


「ただ、刻まれた魔法式が解明され、特に希少な魔法だとわかった石板は、1枚100万リド以上の値がつく場合もあります」


「ひゃ……!?」


 1億円~!?


「もちろん相性が悪ければ、魔法は覚えられず、その石板も壊れるんですが……」


「……やだぁ」


「ふふっ、嫌ですよね」


「…………」


「ですが、世の中、それでも挑戦する人はいるんですよ」


 彼女は、困ったように笑う。


 いや、笑い事じゃないよ?

 

(1回1億円で、1パーセントの賭け勝負に出るって……)


 意味わかんない。


 彼女は言う。


「それだけ、古代魔法は魅力的なんです」


「…………」


「私も古代魔法が覚えられたからこそ、白銀級の冒険者になれました。言わば、人生を一変させる奇跡でもあるんです」


「……うん」


「まぁ、100万リドはさすがにアレと思いますが……」


「ですよね……!」


「はい」 


 僕の言葉に、彼女も苦笑し、頷く。


(よかった)


 僕の感覚がおかしいんではなかった。


 ちと、安心。


 金髪のお母様は、


「いつか、石板との適合を判別する方法が確立すると良いのですが……」


「ですね」


 僕も激しく同意です。


 その時、


(あれ……?)


 露店の値札に気づいた。


 石板1つ『10リド』とある。


 え……1000円?


 僕は、露天の店主さんを見る。


 中年のおじさんだ。


 たっぷり髭の悪人っぽい顔で、僕の視線に『買うかい?』と視線で問いかけてくる。


(……あ、怪しい)


 と思ったら、


「これは、お土産品です」


 と、隣の金髪お母様。


(え……?)


「砕けて使えなくなった石板をお土産として売っているんですよ。だから安価なんです」


「…………」


 な、なるほど。


(おじさん、ごめんなさい)


 詐欺への自衛は大事だけど、簡単に人を疑い過ぎるのも良くないな……反省。


 そんな僕に、


「実際、偽物の石板も多いですよ」


「…………」


「買うなら、高くても正規販売店がお勧めです。この露天は大丈夫ですが、悪質な露店も多いですからね」


(そっか)


 僕は頷き、


「うん、気をつけます」


 と、答えた。


 クレフィーンさんも「はい」と微笑み、頷いてくれる。


 でも、お土産品か。


 砕けた石版。


 もう使えないのかと思うと、勿体ない。


(遺物ってことは、現存する石板には限りがあるってことだもんね)


 大事にしないと。


 そんなことを思いながら、砕けた石片たちを眺める。

 

 ヒィン


 真眼が発動し、



【壊れた魔法石板】【壊れた魔法石板】【壊れた魔法石板】【壊れた魔法石板】【壊れた魔法石板】【無傷の魔法石版】【壊れた魔法石板】【壊れた魔法石板】……




(ん……?)


 僕は、目を瞬く。


 もう1度、浮かぶ文字を見る。


 たった1つだけ、




【無傷の魔法石板】




 は?


 無傷……? 


(1つだけ、無傷があるの!?)


 僕は驚愕する。


 ど、どれだ?


 あ、この、小さい石か。


 親指の先ぐらいの大きさで、茶色い文字が表面に刻まれている。


 石片は、上下が砕けている。


 でも、


(文字列は無事だ……)


 ギリギリ、亀裂と1ミリぐらいの隙間がある。 


 おお!


 僕は興奮。


(いや、待て)


 相性や適合の問題があるんだっけ?


 …………。


 ああ……落ち着け、僕。


 買っても、失敗する可能性大だから。


 うん、平常心。


 まぁ、期待せずにいましょう。


 と、その時、


 ヒィン


 また、真眼が発動。


 石片の表面の魔法陣の上に、文字が見え、




【土霊の岩槍】


・この石板を使うと、覚えられる魔法。


・射程30メートルで、硬い岩の槍を射出できる。


・攻撃力180。


・桐山真一の魔力紋に適合する。習得、可。




(…………)


 習得、可。


 習得、可……である。


 僕は目を閉じ、1度、深呼吸。


 そして、




「――こ、この石、買いますっ!」

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さあ、シンイチは無事に買えるのか?
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