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013・いざ、2日目!

 ふと、目が覚める。


(……知らない天井だ)


 最初に思ったのは、これ。


 そっか。


 本当に……そう思うんだ。


 ちょっと感動です。


 そして、人間は目覚めた時の景色で、自分の『今』を思い出すのだと実感したよ。


 目に映るのは、宿屋の天井。


 うむ、異世界転移したのは夢じゃなかったぞ。


 窓からは、太陽の光が差し込む。


 もう、朝だ。


「ん、よし」


 バッ


 僕は、ベッドから起き上がる。


 窓の外の大通りでは、早起きな異世界の人々がすでに活動を始めていた。 


 うん、賑やかだね。


 僕は笑う。


(さて――) 


 異世界2日目。


 今日もがんばるぞ、お~!



 ◇◇◇◇◇◇◇



 朝の食堂で、母娘に会った。


 僕に気づき、


「おはようございます、シンイチ君」

 

 と、金髪のお母様。


 その美貌には、上品な笑顔が咲いていて、


(うん、女神)


 眼福だなぁ。


 そう思いながら、僕も「おはよう、クレフィーンさん」と挨拶する。


 西洋人形みたいな娘さんも、


「お、お兄様……おはよう」


 と、恥ずかしそうに言う。


 可愛い。


(こちらも、やはり天使)


 僕は、ほっこり。


 朝からこの2人を目にできるなんて、なんて幸せなのだろう。 


 そう思いながら、


「おはよう、ファナちゃん」


 と、笑顔で返事。


 赤くなりながら、天使ちゃんもはにかむ。


 そうして僕は、今朝も相席させてもらって、母娘と一緒に朝食を食べる。


 ちなみにメニューは、


 ヒィン




【ラキラ麦パン】【桃豚肉のベーコンと目玉焼き】【クルルの実とポワレ草のサラダ】【白角牛のミルク】




 こんな感じ。


 モグモグ


(うん、美味い!)


 昔、家族旅行で行った旅館の料理みたいなプロの味だ。


 異世界料理、最高です。


 そうして僕らは、他愛ない話をしながら3人で楽しい食事を続ける。


 と、その時、


「あの、シンイチ君」


「ん?」


「食事のあとなのですが、少しお時間よろしいですか?」


 と、金髪のお母様。


(食事のあと?)


 キョトンとする僕に、


「出かける前に、シンイチ君に渡したい物があるんです」


「僕に?」


「はい。大丈夫ですか?」


「あ、うん。大丈夫です」


 僕は頷く。 


 クレフィーンさんは、安心したように微笑む。


 何だろう?


 美人なお母様からのプレゼント……。


 ドキドキ


 わかってる。


 多分、そういうんじゃないってさ。


 でも、期待しちゃうのは、男の子として仕方ないよね、うん。


(何かなぁ?)


 モグモグ


 勝手に楽しみにしながら、僕は食事を続けたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 食事のあと、


「これをどうぞ」


 部屋の前で、彼女は『これ』を差し出した。 


(えっと……?)


 僕に渡されたのは、銀紙の包み、革袋、小瓶の3点だった。


 思わず見つめて、


 ヒィン


 僕の真眼が発動する。 




【携帯食料】


・スティック状の食べ物。


・栄養価が高く、日持ちする。長旅の必需品。


・味には、目を瞑るべし。




【革の水筒】


・魔物の革で作られた水筒。


・革自体に殺菌作用があり、中の水が傷み辛い。


・現在、汲みたての水が入っている。




【回復ポーション〈初級〉】


・魔法の薬。


・怪我、病気などの症状を緩和する。服用、塗布、どちらでも可。


・1本、1000リド。約10万円。




(え……?)


 僕は、驚く。


 思わず、目の前の美女を見つめた。


 彼女は、たおやかに微笑む。


「昨日、約束した通りに、旅の荷物をお分けします。どうか活用してくださいね?」


「え……あ」


 そう言えば、


(約束したね)


 でも、水と食料はともかく、3つ目の回復ポーションは……。


(10万円って)


 さすがに、これは……。


 昨日の入町税も返してないのに。


 僕の表情に察したのか、彼女の白い手が、荷物を持つ僕の手を押さえるように重ねられる。


 温かい手だ。


 金髪のお母様は、優しく笑う。


「いいんです」


「でも……」


「娘の命に比べたら、大した物ではありません」


「…………」


「どうか、お気になさらず。大事な娘の恩人に、その母親として少しでも恩返しをさせてください。ね、シンイチ君?」


「クレフィーンさん……」


 ニコッ


 彼女はもう1度、微笑む。


(……うん)


 その気持ちが嬉しい。


 そうした思いを無下に断るのも、何だか失礼にも思うし……。


 僕は頷き、


「ありがとう、クレフィーンさん。大事に使います」


 と、頭を下げた。


 そんな僕の頭を、


「ふふっ、はい」


 サワ……


 彼女の手が、優しく撫でる。


(……ん)


 美人なお母様のその包容力に、何だか自分が凄く幼い子供になった気がしたよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(んしょ……っと)


 僕は自分の部屋で、鞄に荷物を詰める。


 荷物の内訳は、携帯食料、水筒、回復ポーション、財布、冒険者手引書の5点だ。


 折れた剣は、刃の部分を布でくるみ腰に提げる。


 鞄を肩にかけ、


「よし」


 準備は完了だ。


 気合充分で部屋を出て、鍵をかける。


 階段を降り、宿の1階へ。


 トントン


(あ……)


 宿屋の受付前では、金髪の母娘が待っていた。


 僕を見て、2人は微笑む。


 僕も笑い、


「ごめん、お待たせ」


「いいえ」


「へ、平気」


 2人は、そう言ってくれる。


 そして、そんなお母様は、昨日見たのと同じ冒険者としての格好だ。


 全身を覆う、白い金属鎧。


 背中には、重そうなリュックが負われている。


 そのリュックの右側面には、鞘に入った幅広の両刃剣が固定されていた。


(うん、格好いい!)


 まさに、冒険者。


 つい見惚れてしまう。


 彼女は微笑み、


「では、行きましょうか、シンイチ君」


「うん」


 僕は頷く。


 それから、彼女はその場にしゃがみ、娘を抱きしめる。


 優しく髪を撫で、


「行ってきますね、ファナ」


「うん、お母様」


 金髪の幼女は、健気に答える。


 表情には、1人で留守番する寂しさや不安が滲んでいる。


 けれど、それを必死に堪えて、笑顔でお母様を安心させようとしていた。


(う……天使……!)


 僕、泣きそう。


 お母様もわかっているので、少し苦しそうだ。


 だから、僕は言う。


「夜には僕、帰るから。夕飯は一緒に食べようね?」


「あ……」


「う、うん、お兄様」


 母親は驚き、幼女はコクコク頷く。 


 うんうん。


 少しでも寂しくないように、一緒にいてあげよう。


 お母様の青い瞳が、感謝の眼差しを僕に送る。


 ペコッ


 軽く頭を下げられる。


 長い金色の髪が、サラサラと流れる。


 僕も照れ笑いで、会釈。


 僕らがいない間は、宿屋の女将さんが「なるべく見ててあげるよ」と言ってくれた。


 おお、感謝。


(人情っていいね)


 そして、出発の時間。


 宿屋を出ると、手を振る幼女に見送られながら、僕とクレフィーンさんは冒険者ギルドへの道を歩いたんだ。

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