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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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119/129

119・少年への想い〈※クレフィーン視点〉

(ああ……私はまた、何を言っているのか……)


 自室に入ると、自己嫌悪に陥りました。


 自らの行いが恥ずかしく、けれど、彼との短いやり取りに胸の奥が甘く焼かれたのも自覚しています。


 ……シンイチ君。


 私は、指で唇を押さえました。


 ほんの数時間前、彼と口付けを交わした唇を……。


 出張した先の南都フレイロッドで、私とシンイチ君は2人きりの時間を過ごしました。


 まだ15歳の少年。


 あどけなく、微笑ましい。


 そんな男の子との時間は、思った以上に楽しく、心地好いものでした。


 だからこそ、



『――もし結婚するなら、クレフィーンさんとしたいです』



 その言葉に、心を刺されました。


 私が、いけなかったのです。


 12歳も年下の可愛い男の子……ですが、1人の男性として、彼を思う自分も感じていました。


 こんな年上のおばさんが釣り合うはずもない。


 しかも、子持ちの未亡人です。


 相応しくないと、自覚はしています。


 ですが……これまでの日々で、彼から向けられる好意が嬉しくて、だからこそ、それを信じてしまう自分が恐ろしくて……。


 いつか、相応しい女性が隣に現れる。


 年も近く、若く可愛い子が。


 そう、わかっています。


 なのに、そのことを嫌がる自分もいて……。


 だから、私は言ってしまったんです。



「――もし、ファナが大きくなり、シンイチ君と結婚したいと言ったら、シンイチ君はどうしますか?」



 と。


 浅ましい考えです。


 娘の慕う少年。


 彼も、娘に優しくしてくれています。


 だからこそ、大事な娘を、彼の隣にあてがおうとしたのです。


 ……その言葉の内側に、娘と結婚したならば、その母である自分との繋がりも一生、途切れることはない……と、そんな身勝手な欲望があることに目を背けて……。


(あぁ……ごめんなさい)


 私は、なんと浅ましいのか。


 自分自身、己の中にこんな醜い自分がいたと知りませんでした。


 彼の答えは、当然の内容でした。


 まだ15歳の少年が、9歳の女の子との結婚を想像できる訳もありません。


 その答えに驚き……安堵もしました。


 1人の女として。


 ……まだ、娘を選んだ訳ではない……と。


 だからこそ、彼の続けた言葉に、私の心は刺されたのです。



 ――私がいいのですか?



 甘美な事実。


 選ばれたことに喜び、満たされる自分。


 あの人を亡くし、早7年……決して彼を忘れた訳ではありませんが、2度とないと思っていた感覚に眩暈がしました。


 灰色の靄の中に、光が差すように。


 私の前に、15歳の少年がいるのです。


 ただ私1人に無垢な好意を向け、素直に想いを語り、共にある未来を夢見てくれる……そんな稀有な少年が。


 チャリ


 左腕から音がします。


(……あ)


 シンイチ君がくれたブレスレット。


 彼からの贈り物。


 2人のお揃いで、きっと高くはないけれど、けれど、彼の自分への好意の証となる物品でした。


 金と銀の輝きが揺れます。


 私とシンイチ君が寄り添うように……。


 だから、


(――我慢ができませんでした)


 分別のある大人として、私がしっかりしなければいけませんでした。


 ですが、心が溢れました。


 彼への想いで……。


 そして、


 気がつけば、



 ――唇を交わしていたのです。



(ああぁあ……)


 私は、自分の顔面を両手で押さえ、心の中で悶えます。


 何ということを。


 本当に、何ということを……!


 まだ未成年の、あんないたいけな15歳の少年に、私は……。


 自覚します。


 あのキスで、私は、彼の心を縛りました。


 彼の表情を見れば、それが初めての行為であるとわかり、それが嬉しくもあり、同時に彼の心に楔を打ち込んだと感じました。


 このクレフィーンが、初めての女。


 そう、彼の心に。


 記憶に。


 この先、何があろうと、彼は私を『特別な女』と見るでしょう。


 そうわかります。


 そして、そう仕向けたのです。


 私が……。


 無意識に、けれど、女の本能に従って……。


(ごめんなさい、シンイチ君……本当にごめんなさい)


 あの子の人生を狂わせた。


 私のような年増の女に、若く、未来ある少年の心を縛り付けた。


 何てことを……。


 泣きたい感情があります。


 けれど、その事実を、暗い喜びとしている自分もいます。


(なんと浅ましい女でしょうか、クレフィーン……)


 ギュッ


 溢れる感情に、唇を噛みます。


 その時、



「――お母様?」




(あ……)


 愛しい声がしました。


 手を離し、顔を上げれば、目の前に私を心配そうに見上げる娘がいました。


 ――ファナ。


 私は、泣き笑いの顔になります。


 無意識に両手を伸ばし、


 ギュッ


 娘のことを抱き締めていました。


 娘は少し驚いた様子でしたが、抵抗はしません。


 ただ幼い両手を私の背中に回し、こんな駄目なお母様のことを精一杯に抱き締め返してくれます。


(……ファナ)


 そのお日様のような匂いと温もりに心が落ち着きます。


 しばらく、そうしていました。


 そして、私は思い出したように口にします。


「ファナ」


「ん……?」


「もし……もしですが、シンイチ君がファナのお父様になったら、嬉しいですか?」


「お兄様が、お父様?」


 娘は、青い目を丸くします。


 私は「はい」と頷きました。


 柔らかそうな金髪を揺らし、娘は首を斜めにかしげます。


 少し考え、


「お兄様は、お兄様がいい」


「…………」


 ズキッ


 その答えに、胸の奥が痛みました。


 ああ、私は何を……。


 娘の言葉に、自分が叶うはずのない夢を見ているのだと教わった気分でした。


 ですが、


「お母様、お兄様と結婚したいの?」


「!」


「……?」


「それは……」


「なら、ファナも結婚する!」


「!?」


 娘の言葉に、私は驚きました。


 けれど、愛しい娘は屈託ない笑顔で続けます。



「――私もお母様もお兄様が好きなら、2人でシンイチお兄様のお嫁さんになろう?」



 そう言いました。


 私は驚き、茫然とします。


(ああ……そうですか)


 娘の言葉に、ふと霧が晴れた気がしました。


 将来はわかりません。


 ですが今、シンイチ君は私たち母娘を好いてくれています。


 そして、私たちも……。


 ならば、私とファナは、いつか別れの来るその時まで、彼のそばで精一杯に尽くそうではありませんか。


 命を救われた母娘として。


 彼が望むなら、望みのままに……。


 私の身も心も差し出して、娘の想いも差し出して……。


 そして、


(……その日々が少しでも長く続くことを祈りましょう)


 それが、私たちにできること。


 私たちの命と心を救ってくれたシンイチ君への、唯一できる恩返しです。


 私は頷きました。


「そうですね、ファナ」


「ん」


「ええ、一緒にシンイチ君のことを愛しましょうね」


「うん」


 少し頬を赤くし、娘は頷きます。


 そこに、女の表情が滲みました。


 ……ふふっ、血は争えないものですね。


 私は目を閉じます。


 ――あなた、ごめんなさい。


 私は、弱い人間です。


 あなたを失い、あなたへの思いを胸に7年を耐えてきましたが、その苦しみの日々で心が磨り減ってしまったようです。


 忘れはしません。


 ですが、どうか、新たな人生を歩むことを許してください。


 シンイチ君の与えてくれる幸せを……。


 それを求める弱い私を、どうか……どうか……。


「お母様?」


 ピトッ


 ファナの手が、私の頬に触れました。


 心配そうな顔。


 その指が濡れています。


(あ……)


 私は、無意識に泣いていたようでした。


 娘のために、微笑みます。



「――何でもありませんよ、ファナ。大丈夫。お母様は大丈夫ですよ」



 愛する娘に囁き、


 ギュッ


 私はもう1度、娘の身体を強く、強く抱き締めたのでした。

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― 新着の感想 ―
マジでこれ親子丼フラグ来ちゃったよ……クレフィーンさんの心情が緻密に描かれており、「女としての自分」が再び目覚めている事に自覚する所が素晴らしかったです・・・!もう早く結ばれ、幸せになってほしい・・・
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