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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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117/128

117・未亡人からのキス

「――予約取れたよ」


 と、アルタミナさんが僕らに笑いかけた。


 その白い手には、


 ヒラヒラ


 と、4枚の長方形の黄色い紙が揺れている。



 ――転移門の許可証だ。



 ここは、南都の転移門管理支局前だった。


 南都の中心部にある立派な建物で、僕らは帰りの転移門使用のために、この支局まで許可証をもらいにやって来たんだ。


 行きは、外務大臣が手配してくれた。


 でも、帰りはクエスト完了がいつになるか正確にわからなかったから、手配されてなかったらしいんだよね。


 で、今、使用予約を取り、許可証をもらったんだ。


 僕は、許可証を見る。


(午後9時の転移で……か)


 指定時間がそう書いてあった。


 約7時間後。


 待ち時間、長いね……。


 でも、黒髪の美女曰く、


「本来、予約を取るのは、数週間から2ヶ月待ちなんだよ。即日発行は、珍しいんだからね?」


「え、そうなんですか?」


「そうだよ」


「へ~?」


「ま、外務大臣からの書状と『黒獅子公』の名声のおかげだね、えっへん」


 と、胸を張る。


(そうなんだ?)


 僕は頷き、


「うん、さすがです、偉いです!」


「えへへ」


「何なら、頭いい子いい子しましょうか?」


 と、笑って褒めた。


 彼女は「え?」と猫っぽい金色の瞳をパチパチする。


 もちろん、冗談。


 ただの軽口だ。


 だけど、彼女は、


「そ、そう? なら、してもらおうかなぁ……?」


「え?」


「言い出したのは君だよ、少年」


「あ、はい」


 別にいいですが。


 驚く僕に、黒髪の頭が差し出される。


(はいはい)


 猫ちゃんを撫でるように、いつもがんばってくれているお姉さんの髪を撫でてやる。


 ナデナデ


「いつもありがとうございます、アルタミナさん」


「うん……えへへ」


 なんか嬉しそう。


 でも、友人2人は呆れ顔で、


「ア、アル……」


「何やってるのよ、全く」


 と、1人は何だか慌てた様子で、もう1人はため息をこぼしていた。


(ま、たまにはね?)


 こういうのも、いいじゃん?


 僕も、美人のお姉さんの髪を触れて役得。


 ええ、もちろん?


 黒髪の中に生えてる獣耳も、しっかり触らせてもらいましたよ。


 やっぱり、手触り最高……!


 ケモミミっていいね?


 満喫し、手を離す。


「はふぅ……」


 と、黒髪の美人さんは、どこか色っぽい吐息をこぼす。


 頬も少し赤い。


(……?)


 何だろう?


 南国の暑さに、少しやられたのかな?


 僕は、小首をかしげる。


 と、その時、


「……シンイチ君は、悪い子ですね」


(え?)


 見れば、クレフィーンさんが少し拗ねたような表情をしていた。


 え、お母様?


 僕の視線に、


 ツン


 と、顔を逸らす。


(ええ~っ?)


 焦った僕は、


「え、あ、あの、ごめんなさい?」


 と、反射的に謝る。


 でも、彼女は顔を背けたままで……うわぁああ?


 やばい。


 僕、何かした?


 混乱する僕を、お母様はしばらく横目で見る。


 息を吐き、


「すみません」


「え?」


「少し意地悪をしました」


「え……あ、はい」


「ごめんなさい。だから、その……お詫びの代わりに、このあと、私と南都を歩きませんか?」


「え?」


 突然の提案に驚く。


 友人2人も驚いた顔だ。


 でも、クレフィーンさんの青い瞳は真剣で、僕に言う。


「9時まで、まだ時間もあります」


「…………」


「せっかく南都に来たのだし、シンイチ君も観光したいでしょう? ですが、1人歩きも危険ですから、もしよろしければ、私と一緒に……」


「…………」


「駄目、ですか?」


「いえ、行きたいです」


 不安そうな表情を見て、僕、即答。


 いや、うん。


(むしろ、願ったりじゃない?)


 僕は笑い、


「クレフィーンさんとのデート、嬉しいです」


「よかった……」


 彼女も安心したようにはにかんだ。


 そんな僕らと対照的に、友人2人は顔を見合わせる。


 黒髪の美女が、


「……あれ、当て馬?」


「フィンの嫉妬を煽るからよ、馬鹿ね」


「むぅ」


「大人しそうに見えて、1番情熱的なのは知ってるでしょう。――ま、いいんじゃないかしら?」


「はぁ……そだね」


「ええ」


 と、赤毛の美女も頷く。


 それから、


「フィン」


「はい?」


「相手はまだ子供なんだから、大人の女として節度は守るのよ?」


「な、何の話ですか」


「さてね」


「…………」


 友人の忠告に、お母様は黙り込む。


(???)


 何のこと?


 僕は、再び首をかしげる。


 まぁ、いいか。


 何はともあれ、僕とクレフィーンお母様の南国デートはこうして決まったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、南国の街へと繰り出した。


 時刻は、午後4時前ぐらい?


 少し日が傾き、気温も涼しくなるタイミングだ。


 ちなみに残るお2人は、大亀の返却手続きをしたり、あとは転移門近くの喫茶店で時間を潰しているとのこと。


「ま、ごゆっくり」


「転移の1時間前には戻るのよ?」


「はい」


「うん、いってきます」


 と、言葉を交わし、僕とお母様は出発したのである。


 街中を歩く。


 王国第2の都市らしく、人も多い。


 現地の人は日焼けして、日焼けしてない人は王都アークロッドからの転移者かもしれない。


 商人や旅人だけでなく、観光客もいそうだね。


(う~ん、賑やか)


 同じ王国内なのに、街の雰囲気は違う。


 何だろう?


 王都も活気はあるんだけど、南都フレイロッドは更に南国特有に明るさと開放的な空気がある感じ?


 落ち着きより、熱気。


 前向きな情熱に満ちた感じかなぁ?


 なんて、クレフィーンさんに話すと、


「ふふっ、なるほど。シンイチ君の感性は素敵ですね。ええ、確かにそんな感じがいたします」


 と、共感してくれた。


(えへ)


 なんか、嬉しい。


 今の彼女は帯剣しているけれど、防具はなく、結構、薄着だ。


 お胸様の大きさが、うん、よくわかる。


 …………。


 い、いや、そんなじっくり見てないよ?


 チラッと。


 チラッとだけだから……!


 下手な言い訳してしまうけれど、でも、綺麗な長い金髪を揺らして歩く姿は本当にお美しくて、自然と目を奪われてしまうのは本当なんだけどさ。


 すれ違う南都の人も、結構、彼女を見てる。


(……本当、女神)


 と、彼女が僕の視線に気づく。


 微笑み、


「シンイチ君?」


「あ、いえ……その、ど、どこ行きましょうか?」


「ふふ、どこでも」


「え?」


「シンイチ君の行きたい所が、今の私の行きたい所です。どこにでも一緒に参りますよ」


「…………」


 お、お母様……!


 ドキン


 と、胸が高鳴っちゃったよ。


 感動しつつ、じゃあ、適当に大通りを歩いてみましょう――という行き当たりばったり計画プランに落ち着いた。


 で、大通りを歩いていく。


 椰子の並木道。


 街灯が並び、歩道沿いには水路が流れている。


 人も多く、離れ離れにならないよう、お互いの手を握った。


(へへ、役得)


 通りでは、象みたいな生き物の大道芸やナイフ投げのような路上パフォーマンスもやっていた。


 結構、楽しい。


 見終わったあとは、チップを投げ入れる。


(僕も……えい)


 と、5リド――約500円を投げる。


 大人なクレフィーンさんは10リド硬貨を投げていた。


 凄かったね、と感想を言い合いながら、再び移動を開始する。


 道中、屋台もあり、


「それ、2つください」


「毎度!」


 と、見たことのない果物とお肉の串焼きを買った。


 一応、『南都名物クーパー』と看板にある。


 クーパー?


 何だろうね?


 でも、せっかくの見知らぬ土地だし、『真眼』で詳しく視るのも野暮かと思うので、事前情報なしに食べてみた。


(いざ……!)


 アムッ


 ん、甘くてしょっぱくて美味い!


 え、凄い、果物が天然のソースみたいで肉の旨味を引き出してる。


 うわ、いい意味で驚き。


 クレフィーンさんも青い目を丸くし、「これは美味しいですね」と呟いている。


 目が合い、一緒に笑う。


 そして、


 アムッ


 と、また2人で串焼きを口に運んだんだ。


 で、食べたあと、真眼チェック。


 ヒィン




【クーパーとは?】


・南部地方の料理。


・南国の果実パームと、クーという羊の肉を合わせた串焼きである。串焼き以外にも、皿に盛りつけたものもある。


・手軽に食べれると、観光客に人気。




(へ~?)


 クーの肉と果実のパームで、クーパーか。


 うん、美味しかったね。



 ――そのあとも、お母様との散策デートは続く。



 冒険者用の武器店でこの地方の武具を見たり、公園の花壇を眺めたり、聖マトゥ教会神殿の女神像に参拝したり、楽しい時間を過ごした。


 気づけば、夕暮れだ。


 通りの街灯が点灯し、建物の照明も輝きだす。


 紫色の空には、星々の瞬きが……。


 東の方角の低い位置には、3色の月も顔を出していらっしゃる。


(なんか、いいな……)


 異邦の地の夕景。


 そこに無数に灯る、人々の生きる証の光の輝き。


 とても幻想的だ。


 何よりそれを、大好きなクレフィーンお母様と一緒に目にしている――その事実が、妙に心に響く。


 公園の遊歩道。


 そこに設置されたベンチに僕らは座る。


 何もせず、ただ2人で夜を迎えようとする南都の景色を眺めていた。


「…………」


「…………」


 不思議な、心地好い沈黙の時間。


 すると、その時、



「……何だか、ファナに申し訳ないですね……」



 不意にお母様が呟いた。


(え?)


 僕は、彼女を見る。


 すると、彼女自身も少し驚いた表情をしていた。


 ……ああ、うん。


 何となく、思わず自分の口から出た言葉に自分で驚いている様子に見える。


 お母様は苦笑し、


「2人きりの時に、すみません」


「ううん」


「その……今があまりに幸せなので、こんな素敵な時間を自分1人が味わっていいのか、不安になってしまって……」


「…………」


 そっか。


 この美しい未亡人さんは、ずっと苦労してきたんだもんね。


 夫を亡くし、村で孤立して。


 だから、幸せなことに慣れていないのかもしれない。


 だとしても、


(デートの時も、娘さんを忘れないんだから……本当、『お母様』なんだなぁ)


 と、心の中で微笑む。


 でも、それが彼女らしい。


 それもクレフィーンさんの魅力なんだと、僕には思えた。


 僕は頷き、


「じゃあ、今度はファナちゃんも一緒に3人で来ましょう」


「え?」


「この南都には、まだ見てない素敵な場所、いっぱいあると思うんです。だから、今度はそれを3人で見に来ましょうね」


「……シンイチ君」


 彼女の青い瞳が、僕を見つめる。


 僕は、


 ニコッ


 と、笑顔で未来を願う。


 クレフィーンさんも微笑み、「はい」と静かに頷いてくれた。


 それから、また景色を眺める。


 しばらくして、


「……シンイチ君は」


「?」


「シンイチ君は、ファナが好きですか?」


「え、はい」


 僕は即、頷く。


(そんなの、当たり前じゃないか)


 お母様は、前を向いたまま、少し黙り込む。


 そして、紅い唇が開き、


「では……将来、ファナと結婚したいと思ったりはしますか?」


「へ……?」


「…………」


「えと……」


「もしもの話です。その……もし、ファナが大きくなり、シンイチ君と結婚したいと言ったら、シンイチ君はどうしますか?」


「…………」


 彼女は、こちらを見ない。


 でも、耳は、僕の次の言葉に集中している――そう感じた。


(結婚……)


 僕は、考える。


 何となく、真剣に悩み、


「――無理です」


 と、答えた。


 ファナちゃんのお母様は「え……?」と僕を振り返った。


 長い金髪が躍る。


 驚く彼女に、僕は言う。


「ごめんなさい。今のファナちゃんがあまりに幼くて、全然、現実的に想像できないものだから……」


「あ……」


「だから、今は答えるの、無理です」


 ペコッ


 と、頭を下げる。


 彼女は呆けたように僕を見つめ、


「あ、そ、そうですか」


「…………」


「いえ、そうですよね。こちらこそごめんなさい。変な質問をしてしまいましたね」


 と、謝ってくる。


 でも、


(……?)


 どことなく、安心した表情にも見える。


 気にせい?


 僕の視線に、彼女は「どうか気にしないでください」と微笑んだ。


 僕は頷く。


 そして、ふと思いつく。


「あ、でも」


「?」


「もし結婚するなら、クレフィーンさんとしたいです」


「え?」


「そっちの方が想像できます」


 と、僕は笑った。


 ちょっと大胆だったかな?


 でも、幻想的な空気に後押しされて、僕は素直に自分が思ったことを口にしていた。


「……っ」


 彼女は青い瞳を丸くし、呆けたように口を開けている。


 あれ……?


 お母様?


 なんか、固まっていらっしゃる……?


 パタパタ


 白い美貌の前で手を動かすけど、反応しない。


 肩に触れ、


「あの……?」


「はっ」


 軽く揺らすと、我に返った様子。


 僕を見て、


「シ、シンイチ君……何を……」


「え?」


「その、私と結婚……」


「あ、はい。もしするなら、クレフィーンさんの方がいいなって」


「…………」


「美人だし、優しいし、素敵ですし」


 と、僕は理由を重ねる。


 でも、彼女は無反応。


(……?)


 僕は首をかしげ、


「クレフィーンさん?」


「…………」


 ジッ


 彼女は不安そうに、そして、少し怒ったように僕を見つめる。


 そして、


「……本気に、しますよ?」


 と、低い声で呟く。


(え?)


「はい」


 僕は、素直に頷く。


 だって、


(嘘じゃないし)


 あっさり頷く僕に、彼女は何だか言葉を失った様子である。


 何か言いたそうで、でも、何も言えない。


 そんな、もどかしそうな表情。


(んん?)


 本当、どうしたのかしら?


 僕は不思議に思いつつ、ふと彼女の後ろの露店に目が向いた。


 装飾品の店だ。


(……あ)


 商品が目に入る。


 僕は、顔を赤くし複雑そうな表情のお母様を残して、ベンチから立ち上がる。


「シンイチ君?」


「すぐ戻ります」


 と、言葉を残して、露店へ。


 遠目に見えた商品を、


 チャリン


 と、購入。


 座っているお母様の前に戻る。


 しゃがみ、


「失礼します」


 と断り、彼女の左手を取って、購入した品を白い手首に通した。


 腕輪ブレスレットである。


 金と銀の輪が重なるような、シンプルで綺麗な腕輪。


(うん、似合う)


 僕は頷く。


 クレフィーンさんは青い目を見開き、自分の左手首を見る。


「これ、は……」


「僕からプレゼントです」


「え?」


「今日、クレフィーンさんと2人でここに来た記念にいいかなって。僕もほら、同じのを……じゃん」


 チャラッ


 自分の左手首を見せる。


 同じ腕輪。


 うん、お揃いです。


 クレフィーンさんは、僕の顔を見つめる。


 それから僕の手首を見て、そして、自分の手首へと視線を落とす。


(あれ?)


 表情に喜びがない。


 え、えっと……?


「その……嫌なら、外しても大丈夫なので……」


「いえ」


 フルフル


 長い金髪を散らし、彼女は首を左右に振った。


 僕を見る。


 真っ直ぐ向けられた青い瞳には、熱っぽい光が宿っている。


 少し震えた声で、



「――大切にします」



 と、呟いた。


(……あ)


 よかった。


 僕は安心し、頷いた。


 と、そんな僕の頬に、クレフィーンさんの白い左手が添えられる。


(……?)


 チリン


 金と銀の腕輪が小さな音色を響かせ、周囲の光に淡く煌めく。


 彼女は軽く身を乗り出し、



 ――僕の唇に、自身の紅い唇を軽く触れさせた。



(……え?)


 突然の不意打ち。


 濡れたような弾力。


 柔らかな羽根が撫でたようにすぐに離れ、甘い残り香がただよう。


 …………。


 ……今、キス、され……た?


 僕、思考停止。


 すぐ正面に、彼女の白い美貌がある。


 恥ずかしそうな表情。


 その頬全体が赤いのは、決して夕焼けのせいではないと思う。


 そして、



「……今の私にできる、精一杯のお返しです。ありがとう、シンイチ君。――私も、シンイチ君のことが大好きですよ」



 と、熱っぽい声が告げる。


 茫然としている僕に、


 ニコッ


 その美しい未亡人さんは、甘やかな大人の微笑みを向けてくれたんだ。

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― 新着の感想 ―
おお、ついに告白した上にキスまで踏み込んだぞ・・・!お互い本気か分からない(クレフィーン側は本気だと思う)けど、これは大きな進展!クレフィーンさんと結婚すればファナちゃんのパパになるし、絶対良いよね?
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