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011・異世界初日、これにて終了!

本日、2話更新です。

どうか、ゆっくり楽しんで頂けたら幸いです。

 ふと、目が覚めた。


(あ……寝ちゃってたのか)


 部屋の中は、真っ暗だ。


 窓から、町の灯りがぼんやり差し込んでいる。


 えっと、


(照明はどこだろう……?)


 と、周囲を見る。


 薄闇の中、壁にランプらしい物が見えて、


 ヒィン




【魔光灯の照明】


・大気の魔力を吸収し、光る。


・扉の脇の魔石に触り、魔力を流すと起動する。もう1度行うと停止。




(お、スイッチは扉の脇か)


 立ち上がり、扉の横の壁を触ると、小さな石がある。


 魔力を流す……ような気持ちで、触る。


 パッ


 壁のランプが点灯した。


(うん、やった)


 思ったよりも明るい。


 室内が見渡せ、暗闇が晴れたことにも不思議と安心感があった。


 だからかな?


 グゥ


(あ……)


 お腹が鳴った。 


「あはは……」


 僕は、1人で照れ笑い。


 そう言えば、食事付きの宿泊にしたんだっけ。


 宿屋には食堂があるらしい。


 今の時間なら、ちょうど営業しているタイミングだよね。


(よし、行くか)


 頷き、僕は部屋を出た。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 宿屋の1階に食堂はあった。


 中では、7~8人の宿泊客が食事をしている。


 冒険者割引の店だからか、冒険者らしい体格の良い人が多いようで……おや?


 その中に、


(天使と女神)


 が、いらっしゃる。


 しかも、女神様の方は、鎧を脱いだシャツとズボンという普通の服装だった。


 なんか、普通に美女です。


 冒険者ではない、普通の生身の女の人……。


(そっか)


 当たり前の事実。


 だけど、少し驚いてしまった。


 こんな普通の女の人が、でも、あの恐ろしい魔物を倒してしまったんだね。  


 ドキドキ


 そのギャップに、胸が高鳴る。


 いやいや、


(どうした、僕?)


 1度、深呼吸。


 んむ……よし。


 そんな僕に、2人も気づく。


「あら、シンイチ君」


「お、お兄様……」


 女神なお母様が微笑み、天使な娘さんが恥ずかしそうな顔をする。


 僕は笑って、


「相席、いいです?」


 と、聞く。


 女神のクレフィーンさんは頷き、


「ええ、どうぞ」


「ん、ん」


「ありがとう」


 幼女もコクコク頷いてくれたので、お礼を言って、僕も2人の対面の席に座った。 


 テーブルには、料理が並んでいる。


(ほう……?)


 美味しそう。


 と、見ていると、


 ヒィン


 真眼が発動。


【赤目牛のビーフシチュー】【7種類の新鮮サラダ】【ラキラ麦パン】【オークレの実の果実水】などの文字が浮かぶ。


 異世界の食材かな。


 注文に来てくれた宿の人に、同じ物を頼む。


 待ってる間、


 ジ~ッ


 女神様を眺める。


 うむ、眼福。


 と、僕の視線に、


「あの……何か?」


 と、クレフィーンさんは不思議そうに僕を見返す。 


 僕は素直に、


「いや、美人だな~って」


「え……」


「ずっと鎧姿だったから、今のクレフィーンさん、新鮮で」


「あ、ああ、なるほど」


 彼女は、驚いた顔。


 少し頬が赤い。


 天使ちゃんも、


「うん。お母様、綺麗」


 と、頷く。


 娘の言葉に、お母様も嬉しそう。


 穏やかに微笑みながら、「ありがとう、ファナ」と娘の柔らかな金髪を撫でる。


 天使ちゃんも、気持ち良さそうに目を細める。


 僕は頷き、


「ファナちゃんも可愛いよね」


「!?」


 ビクッ


 天使ちゃんの肩が跳ねた。


 目を丸くしながら、僕を見る。


 すぐに俯き、


「あ……う……」


 と、真っ赤っか。


 お母様は驚き、苦笑する。


「ふふっ、よかったですね、ファナ」


「……ん」


 コクッ


 小さく頷く。


 そんな2人を眺め、


「うん、2人とも美人母娘です」


「……まぁ」


「はぅ」


「眼福」


 と、手を合わせる。 


 娘さんは赤くなったまま固まり、お母様は少し困ったように微笑む。


 僕を見て、


「もう……お上手ですね」


「え?」


「もしかして、シンイチ君の国の人は皆、そんな風にお世辞が上手なのですか?」


「? いいえ」


 首を振り、


「むしろ、正直と誠実を美徳とする国ですが?」


 と、真面目に答えた。


 お母様は無言になる。


(???)


 何か言いたそうな、でも、上手く言葉にできないような、複雑そうな表情をしている。


 どうしたの?


 と、彼女は嘆息。


「もう……シンイチ君は、悪い子ですね」


 キュッ


 その白い指で、僕の頬を摘ままれた。


(ほへ?)


 軽い痛みと驚きに、僕は目を丸くする。


 そんな僕の表情に、


 クスクス


 綺麗な長い金髪を揺らしながら、お母様は少女みたいに笑った。


 …………。


 うん、やっぱり女神。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、10分ほどで僕の料理が届いた。


 テーブルに、お皿が並ぶ。


(おお……いい匂い)


 立ち昇る湯気を吸い込めば、食欲をそそる香りが鼻いっぱいに広がる。


 ゴクッ


 僕は、唾を飲む。


 両手を合わせ、


「いただきます」


 と、食事の挨拶。


 そして、早速、シチューを口に運んだ。


 ハムッ


「――――」


 こ、これは、美味い!


 美食大国の日本出身の僕ですが、全然、日本に負けない美味しさに感じます。


 何てこった……。


 料理知識で無双とか、絶対無理じゃん。


 異世界料理、侮れないわ……。


 パクパク モグモグ


 僕は一心不乱に料理を食べる。


 その様子に、


「お口に合ったようですね」


 と、金髪のお母様は優しく微笑み、宿屋の給仕の人も何だか嬉しそうな表情だった。


 僕は「うん」と頷き、


 パクパク


 あっという間に完食だ。


(ふぃ~) 


 満足、満足。


 もうお腹いっぱいだ。


 気づけば、先に食事をしていた母娘よりも早く食べ終わってしまった。


 そんな僕の早食いに、天使ちゃんもポカンとしている。


 ふと目が合い、


 ニコッ


 僕は笑う。


「っ」


 彼女は、慌てて目を伏せる。


(あら?)


 恥ずかしがり屋さんですね。

 

 でも、そんな幼女も可愛くて、愛でるように眺めてしまう。


 やがて、母娘も食べ終わる。 


 食後は、


【ミレ紅葉もみじのお茶】


 という飲み物で、まったりお茶の時間。


 少し渋く、香ばしい味。


(んん……)


 それを楽しんでいると、


「シンイチ君」


「ん?」


「シンイチ君は明日、どうする予定ですか?」


 と、金髪のお母様に聞かれた。


(明日、か)


 僕は考え、答える。


「予定通り、冒険者ギルドで初クエストに挑戦してみるつもりです」


「そうですか」


「うん」


「初めてなら、薬草採取がいいかもしれませんね」


「薬草採取?」


「ええ」


 彼女は頷く。


 定番と言えば、定番だ。


 女冒険者さんは、その理由も言う。


「薬草は、町の周辺でも手に入ります」


「…………」


「そして町の近くでは、魔物も滅多に出ません。1人で、しかも『折れた剣』しか持っていないシンイチ君でも、比較的安全にできるはずです」


「……なるほど」


 安全は大事。


(さっき、慎重にやるって決めたしね) 


 彼女は微笑み、


「そうしてお金を溜め、装備を整えたら、次のクエストに挑戦してみるのが良いでしょう」


 と、続けた。


 先輩冒険者の助言だ。


 僕は頷き、


「うん、ありがとう、クレフィーンさん。そうします」


「はい」


 彼女も優しく頷いた。


 今度は僕からも、 


「クレフィーンさんたちは、明日はどうするんですか?」


 と、聞いてみる。


 金髪の女冒険者さんは僕を見る。


 それから


「前に話した通り、冒険者ギルドで知人たちに会うつもりです。そのあと魔物討伐のために4~5日程、町を離れることになるでしょう」


「4~5日も?」


「はい」


 真面目な表情で、彼女は頷く。


 魔物のいる場所まで、約1日、往復2日。


 また、潜伏している魔物を発見、討伐するまでに、推定2~3日。


 合計4~5日とのことだ。


(なるほどね)


 僕も納得。


 そして彼女は、


「その間、ファナは宿に残します」


「宿に?」


 あ、そう言えば、馬車でそんなこと言ってたっけ。


 金髪のお母様は頷き、


「はい。さすがに同行させるのは危険過ぎますから」


 と、言う。


 そして、冒険者のお母様の手は、


 ナデナデ


 幼い娘の金色の髪を撫でる。


(そっか)


 そりゃ、そうだよね。


 でも、幼女の表情は、少し寂しそう……。


 理由を理解してるから、我が儘は言わないけれど、やっぱり感情は別だものね。


 だけど、それを飲み込む。  


(いい子だね、ファナちゃん)


 本当、天使。


 もちろん、娘に我慢させるお母様も心苦しそうで、


(……うん)


 少し考え、僕は言う。


「僕は毎日、宿に帰る予定だから、お母様が帰るまでは、毎日、僕と一緒にご飯、食べよっか?」


「!」


 幼女が顔をあげる。


 おかっぱの金髪が踊り、その青い目は真ん丸だ。


 コクコク


 彼女は、2度、頷く。


 クレフィーンさんも驚き、


「シンイチ君……」


 少し申し訳なさそうに微笑み、長い金髪を肩からこぼしながら僕に頭を下げた。


 何だか、照れ臭い。


 僕は頬をかき、 


「えっと、じゃあ、明日からよろしくね?」


 と、笑った。


 ……ま、まぁ、僕も1人だと寂しいからね、うん。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後、明日、冒険者ギルドまではクレフィーンさんと一緒に行くことを約束して、僕らは食堂をあとにする。


 階段を上り、自分たちの部屋へ。


 扉の前の廊下で、


「では、また明日、シンイチ君」


 会釈するお母様。


 長く綺麗な金髪がサラリとこぼれ、廊下の照明に煌めいている。


(やっぱり美人だな~)


 と思いながら、


「うん、また明日です」


 と、僕も会釈。


 彼女は柔らかく微笑んだ。


 その隣で、 


「お、おすみなさい、シンイチお兄様……」


 と、金髪幼女も言う。


 幼い手を、僕に小さく振ってくれる。


 可愛い……。


 そんな天使な女の子に、僕も笑う。


 軽く手を振り返し、


「うん、おやすみ、ファナちゃん。また明日ね」


「……うん」


 コクッ


 恥ずかしそうに、彼女も頷く。


 金髪のお母様は娘の髪を撫で、「それでは」と2人で部屋に入っていった。


 パタン


 扉が閉まる。


(…………)


 見送り、僕も自分の部屋へ入った。


 僕1人の部屋。


 やることもないし、明日のためにももう寝るかな……。


 部屋の明かりを消し、


 ポフッ


 ベッドに横になった。


 窓の外からは、町の喧騒が聞こえる。


 時刻はまだ21時ぐらいで、大通りには飲み歩いている人もたくさんいるみたいだ。


 その雑踏の気配が、何となく心地いい。


 ふと、窓を見る。


(あ……月だ)


 夜空には、赤と青と白、3つの月が浮かんでいた。


 地球と違う。


(そっか)


 やっぱり異世界だ。


 その事実を、改めて感じる。


 …………。


 父さん、母さん、どうしてるかな?


 僕がいなくなって、心配してるだろうか?


 それとも、異世界物の定番で、僕の存在の記憶が消されたりとかあったりして……?


 突然の異世界転移。


 そりゃ、怖くもある。


 自分を知る人が誰もいない世界だ。


 孤独も感じる。


 だけど、日本でも、新しい環境で1人暮らしを始める人なんてたくさんいる訳で。


 きっと、それと同じ。


 その環境が、


(僕の場合は、異世界・・・だっただけさ)


 とも思うのだ。


 だから、この現状を楽しんでる自分も確かにいて。


 う~ん、 


(図太いのかな、僕?)


 と、首を捻る。


 その時、ふと、あの金髪の母娘が脳裏をよぎる。


 …………。


 いや、違うか。 


 僕は苦笑い。


 あの優しい母娘に出会えたから、平気だったのだろう。


 もしかしたら、すぐにお別れとなってしまうのかもしれないけれど、でも、袖すり合うも他生の縁……その日までは仲良くしたいものだね。


(ん、よし)


 パン


 僕は、頬を叩く。


 目標は、異世界を満喫すること。


 まぁ、ひょっとしたら、日本に帰れる方法もあるかもしれないし?


 だから、しっかり今を楽しもう!


 僕は息を吐き、


「じゃ、おやすみなさい」


 と、目を閉じる。 


 暖かな闇が、まぶたの中に広がる。


 ……疲れもあったのかな?


 眠気はすぐに訪れて、


(ぐぅ……)


 僕の意識は、あっという間に眠りに落ちていく。



 ――こうして僕、桐山真一の異世界転移初日は終わったのだ。

ご覧頂き、ありがとうございました。


本日、もう1話更新しますので、よかったら次話も楽しんで下さいね。

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