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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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101/110

101・穿て、真眼の少年!

(――来た!)


 黒騎士が大剣を振り被り、僕らに迫る。


 瞬間、


 タッ


 黒獅子公と呼ばれる王国屈指の女冒険者が前に出た。


 戦斧を下段に構え、


 ガギィン


 漆黒の大剣と激突、火花を散らす。


(うわっ?)


 衝撃波の風圧が僕の髪を揺らす。


 見れば、アルタミナさんの周囲にはキラキラと黄金色の輝きが散っている。



 ――『英霊の黄金光』だ。



 近代魔法との併用で、最大50倍まで身体強化する古代魔法。


 だというのに、


「ぐっ」


 ギギィ


 アルタミナさんの方が力負けしている!?


 黒騎士の大剣と戦斧で鍔迫り合いながら、けれど、上から少しずつ押し込まれて、黒い刃が彼女の首に近づいていく。


 や、やばっ。


 と、


「アルっ!」


 ボパァン


 美しい金髪を後方になびかせ、クレフィーンお母様を右手を突き出して『白き炎霊』を放った。


 狙いを絞ったのか、黒騎士のみに命中。


(直撃……!)


 純白の神々しい炎の奔流が、黒い騎士の姿を飲み込む。


 その隙に、


 タン


 アルタミナさんは後方に下がり、戦斧を構え直す。


 白い炎が消える。


(あ……)


 高温で陽炎が昇る景色の中、


 ジ、ジジ……ッ


 黒い大剣の周囲に青白い放電が散り、それがバリアのように黒騎士を包み込んでいた。


 内側の黒騎士は――無傷。


 マジか……。


 クレフィーンさん、レイアさんも驚きの表情だ。


 黒髪のアルタミナさんは、厳しい表情を崩さない。


 と、その時、


 ヒィン


 真眼が発動する。




【青き落雷の大剣】


・邪竜の黒騎士の武器。


・黒雷岩を加工して作られた、強力な雷の魔力を宿した魔法剣。


・任意に雷を放てる。


・帯電した刃により裂傷、熱傷を当時に与え、たまに感電状態を起こさせ一時的に行動を麻痺させる。


・攻撃力、500。




(げげ……っ!?)


 めっちゃ強武器じゃん!


 僕は叫ぶ。


「それ、帯電した魔法の武器です! 雷も飛ばせます、気をつけて!」


 3人は頷く。


 レイアさんが呟く。


「魔法武器……パルディオン魔法王国期の古代遺産の1つね。あれだけでも古代魔法と同等の脅威だわ」


「ええ、厄介ですね」


 頷くクレフィーンさん。


 そんなに?


 ゴクッ


 僕は、唾を飲む。


 黒獅子公は短く息を吐き、


 タン


 再び、邪竜の黒騎士に挑む。


 魔法武器が相手だろうと怯まず、果敢に戦斧を叩きつけていく。


 ガッ ギッ ゴン


 黒騎士も大剣で受ける。


 速い。


 余裕で受けてる。


 黒獅子公の攻撃も容易くはなく、1撃1撃が重く強烈で、その証拠に黒騎士の足元の地面は軋むように沈んでいる。


 でも、当たらない。


 当たる気配がない。


(アイツ……技術も高い)


 確かな剣技。


 それによる防御だと、素人目でもわかる程の。


 ギィン


 青き落雷の大剣が強く振られ、アルタミナさんの身体が後方へと弾かれる。


 何とか、着地。


 でも、顔色が悪い。


(ああ、くそ)


 先の多脚型ゴーレム戦から、24時間経ってない。


 黒獅子公のもう1つの古代魔法『神霊の天罰』も、僕の『不死霊の奇跡』も1日1回しか使えないから、この戦いでは使えない。


 こんな戦いがあるとわかってれば、温存したのに……。


 今更、後悔。


 でも、こんなの予想できないじゃん。


 嘆く間にも、黒騎士がアルタミナさんに迫る。


 ガッ ギギン


 黒い風のように2人が動き回り、青い放電と白い火花を散らしていく。


 辛うじて……。


 辛うじて、黒獅子公が動きについていき、抗っている感じ。


 と、


(ん?)


 レイアさんが前方に両手を伸ばし、悔しげな表情だ。


 手の甲には、光る魔法陣。


 え……?


「くそ……アイツ、私の古代魔法で重力の負荷かけているのに、何であんなに動けるのよ!?」


 思わず、漏れた悪態。


(ええっ!?)


 重力魔法『魔霊の力場』を受けて、あの動き……!?


 んな、馬鹿な。


 クレフィーンさんも驚きの表情だ。


 でも、すぐに決意の表情で、


「私も参戦します」


「フィン」


「攻める隙はありませんが、防御に徹すればしばらく持つでしょう。その間に、アルが倒してくれれば……」


「……わかったわ」


 唇を噛むレイアさん。


 ク、クレフィーンさん……。


 彼女は、


 ガシャッ


 幅広の両刃剣を1度、額に当て、そして、構える。


 と、僕を見て、


「行ってきます」


 と、微笑む。


(!)


 あまりに場違いな笑顔に、心臓が跳ねた。


 真っ直ぐな微笑。


 まるで、己の死を受け入れた敬虔な殉教者のように見えて……。


(ち、違うよね!?)


 フラグじゃないよね?


 咄嗟に言葉の出ない僕から視線を外し、彼女は前を向く。


 タッ


 黒髪の友人が奮戦する戦場へと走り出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ――戦闘が過熱する。



 クレフィーンさんが参戦し、防御に回る。


 その分、アルタミナさんが攻撃の密度を増やし、レイアさんも古代魔法を発動したまま、隙を見て大弓を射かけている。


 でも、


 ガギギィン


 青い放電と火花を散らし、奴は全てを防ぐ。


 逆に、


 ヒュパッ サキュン


 漆黒の大剣の刃が、2人の美女の鎧と肌を傷つけていく。


 炎の森林に、赤き血が舞う。


 黒獅子公と雪火剣聖は、隙を見て回復魔法で傷を癒しながら、何度も黒騎士に挑む。


 でも、届かない。


 時々、


 ギャアアン


 大剣から青白い雷が迸り、お母様が必死に白い炎で防いでいた。


 ああ、


(本当、強い……!)


 あの3人でも歯が立たない。


 マジか?


 と、思う。


 呪詛の影響なのか、黒騎士の動きに鈍りも見えない。


 3人の方が呼吸が荒い。


 魔法を使い続けているため、消耗が激しいんだ。


 でも、このままじゃ、


(……魔力が尽きる)


 ど、どうする?


 僕も何かしたい。


 でも、このレベルの戦いに、僕はついて行けない。


 真眼君……?


 僕にも、何かできることはないのかな?


 心の中で問いかけると、


 ヒィン


 空中に文字が浮かぶ。




【今は耐えよ】


・時を待て。


・現状、できることはないので、3人を信じて任せるべし。




(…………)


 そう、なの?


 真眼君を信じてる。


 だから、きっと正しいとわかるけど、でも、苦しいよ。


 弱いって、


(こんなに苦しいのか)


 自分の無力が初めて憎い。


 パッ


 また、鮮血が散る。


 クレフィーンさんの脇腹に大剣の刃が当たり、皮膚を裂き、肉を焼いていた。


(……っっ)


 僕は、歯を食い縛る。


 何も考えず、前に出たい。


 でも、それは悪手。


 辛うじて拮抗している現在の状況を僕が崩して、3人を危険に晒すかもしれない。


 だから、耐える。


 耐えなきゃ……!


 うう……っ。


 ほんの数分……きっと、まだ10分ほどの時間しか経っていない。


 でも、何時間にも感じる。


 息が苦しい。


 心が痛い。


 畜生……!


 と、その時だ。


 邪竜の黒騎士の動きが少しだけ変化した。


 大剣を片手で持ち、左手を自由にしている。


 その状態で、3人と戦っている。


(???)


 何だ……?


 怪訝に思い、僕は目を細める。


 瞬間、


 ヒィン




【時は今!】


・邪竜の黒騎士は、魔法を使おうとしている。


・古代魔法【黒霊の虚空刃】と呼ばれる広範囲殲滅型の切断系魔法である。対象は、半径周囲500メートル圏内。


・発動後に隙多し。


・今こそ、前に出ろ!




(!?)


 驚きながら、走り出す。


 真眼君、唐突すぎ!


 でも、前もって知ってたら、緊張と恐怖ですぐに動けなかったかもしれない。


 だけど、今なら。


 我慢し続けた今なら、走れる!


 全力で走れ、僕!


 タタタッ


 身体強化された足は、小柄な僕を軽々と運ぶ。


 途中、横を通り抜けた時、レイアさんの「シンイチ!?」と驚く声が聞こえた。


 でも、今は無視。


(あ……)


 黒騎士の左手に、黒い風が渦巻く。


 魔法の発動に、アルタミナさん、クレフィーンさんも気づき、それを止めようと更に攻撃を重ねていく。


 でも、


 ガキッ ギギン


 右手1本の大剣に防がれ、届かない。


 魔力が溜まる。


 圧が高まる。


 ああ……これ、やばい。


 発動したら、この周囲一帯が破壊されてしまうとわかる危険な気配だ。


 美女2人の顔も強張る。


 そして、


 タン


 僕は跳躍し、その2人の頭上を飛び越えた。


 落下地点には、



 ――邪竜の黒騎士の左手がある。



 ヒィン


 文字が見える。


(うむ)


 それに従い、



「――土霊の岩槍」




 ドン


 僕は、輝く黒曜石のような岩の槍を放った。


 渦巻く魔力に衝突。


 黒騎士の兜の奥で、驚きの気配がした。


 次の瞬間、



 ドパァアアアアン



 魔力同士が干渉し、強烈な魔力爆発が発生した。


 黒獅子公と雪火剣聖を吹き飛ばし、周囲の森の木々が根から抉れ、炎の葉が嵐のように夜空に舞い上がり、衝撃波で地面が陥没しながら弾け飛ぶ。


 後ろの赤羽妖精も地面を転がる。


 更に後方では、爆風にあおられた竜車も地面に横転してしまう。


 ゴゴゴッ ガガァン


 抉れた地面が、折れた木々が、周囲にぶつかり音を立てる。


 やがて、


 ズズズゥ……ン


 爆風が通り抜ける。


 土煙が流され、小石がバラバラと空から落ちてくる。


 その中で、


 ヒィィン


 爆心地にいた僕は『王霊の盾』の中で無傷。


 5秒が経ち、魔力障壁が消える。


 その目の前には、



『……ガ……ァ』



 地面にめり込む、黒騎士の姿があった。


 その巨体は大量の土砂に埋もれ、爆発の衝撃で左手は吹き飛び、両足も逆関節の方向に捻じれている。


 漆黒の鎧も、あちこちにひび割れが起きていた。


 その兜が、


 パキッ


 音を立て、砕ける。


 その内側から現れたのは、


(う……?)


 頭髪が抜け落ち、まるでミイラのように干乾びた骸骨みたいな風貌だった。


 白く濁った眼球。


 それが、


 ギロッ


 僕を見る。


 僕の黒い瞳も、彼を見返す。


 目が合い、


 ヒィン


 瞬間、真眼の文字が見えた。


 反射的に、僕は従う。


 ピクッ


 ほぼ同時に、奴の右手が握る大剣が僕に振られようと動き、


 トスン


 直前、僕の『初心の短剣』が奴の額を貫いた。


 乾燥した肌。


 そして、脆い骨。


 刃は、簡単に奥の脳まで刺さる。


 青き落雷の大剣は、僕に当たる数センチ手前で止まり、右腕ごと再び地面の上に落ちた。


 ガシャン


 重い音が響く。


 僕は、短剣を抜く。


 額の刺し傷から、一筋……赤い血が流れた。


 人間の、血。


 それを見つめる。


 額から流れた血は、目元を流れ、涙のように鼻の横を通り、乾いた唇に触れた。


 と、その唇が動き、



「ア、ぁ……貴様、ハ……め、女神マトゥの使徒……だっタ、の……か」



(……?)


 使徒?


 女神の……?


 僕は小首をかしげ、奴の顔を見つめる。


 でも、その時には、邪竜の黒騎士だった男の白く濁った瞳から生命の輝きは消えていた。


 ヒィン


 真眼が発動する。




【邪竜の黒騎士】


・死亡している。




(…………)


 僕は無言。


 思うことは多々ある。


 けれど、今は1番、安堵を強く感じる。


 ふぅ……。


 息を吐き、


「シンイチ君……!」


(ん?)


 背後から、お母様の声がした。


 僕は、振り返る。


(あ……)


 吹き飛ばされた時に負傷したのか、アルタミナさんに肩を借り、剣を杖にしながら立つクレフィーンさん――その青い瞳が、僕のことを真っ直ぐに見ていた。


 炎の葉の燃える森を背景に、長い金髪が風になびく。


 ……うん。


 生きてる。


 その姿に、胸が熱くなり、


(よかった)


 僕は、笑う。


 クレフィーンさんは泣きそうな顔。


 2人でこちらに歩いてくる。


 同じように、少し離れていたレイアさんもこちらに駆けてきていた。


(……ん)


 僕も立ち上がる。


 重い足を引き摺りながら、大好きな3人の方へと歩き出したんだ。

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― 新着の感想 ―
無事に勝利する事が出来たが、「女神マトゥの使徒」という気になるワードが出ましたね・・・やはりシンイチは、女神マトゥに選ばれて転移した?
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