生徒会に一存!!
ラブコメに限らず物語の生徒会というものはなぜか権力を持ちすぎていることが多々ある気がする。
その最たる例が学校の運営権を持っているという、世間知らずの高校生に背負わせるにしては荷が重すぎる設定だ。
そもそも学校側も与えんなよそんな権限。勝手に教師をクビにしたり、生徒を退学させたりするなよ、とかいろいろ思うところはあれど、そのほうが物語を組み立てやすいからという理由なのだろう。だがしかし、そんな理由で倫理観皆無な生徒会を作ってしまうのはいかがなものかと思う。
だが、ここで忘れてはいけないのが学校の種類だ。
といってもだいたいの学校というものは、私立なんちゃら学園だの学院だのといった治外法権的な潜り抜け方をして読者を完全催眠によって「いつから女子高校生だと錯覚していた?」状態にしてしまうのだ。女子校生、私立、学園、学院、これらはエロゲの「全員18歳以上だからセーフだよお兄ちゃん(18)」と同じなのだろう。
このようにそもそも高校じゃないからセーフです理論によって18禁な表現まで可能にするのだ。
―――悔しい……!
悔しい……!
―――悔しい……!
悔しい……!
だが……これでいいっ……!
とかなんとか考えているうちに、わが校の生徒会室に来た。
福岡県立辺津宮高等学校生徒会は公立の学校なだけあって、普通の生徒会をしていた気がする。
なんであやふやなのかと聞かれたら、生徒会活動なんて一般生徒からしてみれば興味の対象になることの方が少ないからだ。そもそも、生徒会長の名前すらうろ覚えだし。
……やはり緊張するものだな生徒会室というものは。
「し、失礼しまぁす。あの、部活動の申請をしたくて来たのですが、えーと、対応お願いしてもよろしいですか?」
「なんでドアを開ける前に要件を言ってるの?」
そんな声とともに生徒会室のドアが開く。
「やっぱり君だと思ったよ亜久谷くん。久しぶりだね、私のこと覚えてる?」
「記憶の片隅にもございませんよ、氷室生徒会長」
「わあ、名前は憶えてたんですね」
「ええ、名前だけですね」
そんな軽口をたたきながら俺は生徒会室へと招かれた。
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「それで、新しい部活動を作りたいんですね?」
生徒会長席に座った氷室さんは自身の顔の前で手を組み少し前かがみになって言った。席の後ろに窓がある構造上、傍から見るとそこには碇ゲンドウがいるような錯覚すらある。というか会長、若干超え寄せてないか?
「はい、一応ここに部活動申請があるので、目を通していただけると」
「はいはい、いただきますね」
そういってニコニコしながらさっき書いた申請書(製作時間10分)に目を通していく。
瞬間、生徒会室の温度が急激に下がった。
こんなところで妙な設定を持ってくるなと言いたいところだが、これが現実。背けたくても何故か目の前の生徒会長は確かな冷気を放っている。
しばらく目を通して、氷室さんが顔を上げる。
「なるほど面白いですね、名づけに関しては私にはない発想です」
「ここまでいろいろと冷やしておいて、普通過ぎませんかね?」
本当に肝が冷えた。
「言いたいことは多々あります。この活動内容で先生たちに紹介する私の身にもなってほしい。とか、よくもこんな二番煎じ的な発想で部活動名を決めたな、とか。……しかし、そもそも論、このままではこの部活動を認めることはできませんね」
「え?めっちゃ通りそうな感じでしたよね今?」
急に刺してくる。テンションの乱高下がえぐい。しかもさっきほめてくれてた気がするけどあれは皮肉だったらしい。私には(これを活動名として命名する勇気が)ないってことだったのか?福岡県民にあるまじき陰湿さだ。
「えっと理由を聞いてもいいですか?」
「簡単です。たった一つのシンプルな答えです。活動内容と部活動名が一致していないように感じます。このままでは何を行う部活なのかがよくわからないのが私個人としての意見です。確かに生徒会には部活動結成の権限があります。が、あくまでも教師陣たちの指導の下で自主的に行っているにすぎません。つまり、新しい部活動ができた際には教師陣に報告し認可させなければいけないということです。このままでは私が100%本気のプレゼンをしたとしても認可は難しいと思います」
なるほど、確かに人間観察という体で本読んだり映画を観たり、漫画を読み漁っていたとして、それは部活動なのかといわれてみれば違うのだろう。
「つまり、内容に名前を寄せるか、名前に合った活動内容を今ここで考えるか、この二つになってきます。ちなみにわが校には文芸部もなければ映像研究部もありませんのでそれにするというのも一つの手ですよ?」
「えーと、それは、なんというか芸がないというか、創作っぽさに欠けるというか……」
やっぱりこの創作っぽさは人生にハリを持たせてくれる、ハズなのでないがしろにはしたくない。
「創作っぽさが欲しいのなら『帰宅し○い部』とか『現代通信電子遊○部』とかでいいのでは?」
「別に部室を占拠する予定もなければ、ネトゲの嫁とネトゲ部しないですし。と言うか、他の作品と被るのはもっとだめな気がしますけど!?」
なるほど。つまり人間観察しつつ、何かしらの活動報告がなせるものであり、かつ創作らしさというか特殊さを必要とする、そんな活動内容を考えなければならないわけなのだろう。
であれば、一つある。学校が認めそうな画期的な活動内容が。
「なら、奉仕部的な感じでどうでしょうか?」
「なるほど。つまるところ生徒の相談を聞いてくれる等身大の相談相手を担うというわけですね。そして、その相談者の悩みを解決する際に行われるのが人間観察ということですね。そして、亜久谷くんは俺ガイルが好きなんですね。その腐った性根と歪んだ思想にぴったりだと思いますよ。」
なぜだろう。全く褒めていない。当たり前田のクラッカーなのか?
「とりあえず了解です。その方向で職員室を口説き落としてきます。それに、日向先生も手伝ってくれるんでしょう?」
「一応その手はずです。あの人が奇天烈こいてなければ」
「では明日の放課後、また生徒会室に来て下さい。活動許可証をお渡しするので、それを大切に保管してて下さいね」
「確定事項なんですね」
「私を誰だと思っているんですか?」
ただの生徒会長ですよ。と思ったが、なんかフンスしてたので黙っておくことにした。やる気大事。
ちなみに氷室さんは「自らを演出する乙女の会」が名前的に好きだそう。あの人らしくていいなとテキトーに思った。
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次の日、放課後ティータイム。
「ということで、私の手腕で無事に獲得してきました!!」
デーン!!っと小ぶりな胸を張りフンスしている氷室生徒会長は活動許可証を突き出してくる。
「ほんとにいけたんですね。さすがと言うかなんというか」
心底驚いた。この人の手腕と、何よりも職員室のちょろさに。
「いやぁ、日向先生が顧問しますよって話しを出したら一発ですよ。あの人、有能なのに部活動とかに関わらなさすぎてPTAから苦情あったらしいからいい感じの隠れ蓑ができるってむしろ喜ばれましたよ」
「あの人PTAに目をつけられてたんだ」
地元に根付くそこそこの歴史のある学校というものはこういう事があるから先生たちは大変だよな。
そんなことを考えていると、氷室さんがにこにこしながら活動許可証を手渡してきた。
「まずは認定おめでとうございます。私の力があったとは言え、一度認められてしまえば途中で投げ出すことはできませんし私が許しません。いいですか?部費がでている以上は一定の成果を出してもらいますよ」
「わあ、急に生徒会長らしいこと言ってるよ」
「当たり前です。生徒会長ですから。まあ、ここまで脅しましたけど安心して下さい。あなたたち人間観察部(仮)は生徒会直轄の部活動として位置づけましたので、何かと仕事を斡旋する予定です」
……?今、生徒会直轄って言った?仕事の斡旋?
「え?どういうことですか?それってもしかして」
「はい。私の手駒が増えたということです。これからもよろしくお願いしますね亜久谷くん♡」
この人のこと少し尊敬して損した気分になった。
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「で?この部室に時々生徒会長がやってきて、生徒のお悩み相談を斡旋されるということ?」
「はい、そういう運びになりました。何の相談もなしに話を進めてしまったことは謝ります。」
さすがに筋が通らないし、あとは女を怒らせるとろくなことにならないのは妹で学んだ知識。
「まあ、面白そうだしいいんじゃないかしら」
意外とあっけらかんとした返事に一瞬ぽかんとしたが、月ノ瀬も少しノリノリなのかもしれない。
「生徒会直轄なら内申点稼ぎやすそうね」
訂正、こいつは何食わぬ顔で損得勘定するやつだ。
「とにかく。これで正式に部活動として活動することになった以上は真面目に不真面目にいこうな?足並み揃えて沈んでいこうな?」
そして、俺はそれ以上のクズだから足を引っ張ることを大目に見て欲しい。
ーーーそうして、俺のワクワク高校生活(現在高2の春)が始まったわけである。