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「空を飛部」があるなら「部」が付きゃ部活が成立してもいいはず

高校生活で頑張りたいこと             


1年5組1番 亜久谷久遠


高校生活で頑張りたいこと、これ以上に返答に困るものはない。

おそらくこの紙は1年おきに見返すことを強要され、自身のこれまでを振り返り、そして絶望しなければならないことが確定しているからだ。

だからといって、ここで無難なことを書いておくのは面白みに欠けていると思うし、友人らと「お前なに書いたんだよ(笑)」ができなくなってしまうので、かなりよくないと考える。

そこで、長期間で達成しやすくかつ面白みがある目標を設定することが求められるだろう。

では、それは何だろうか。例えば受験勉強は長期的な目標であり細かな目標を設定しやすく、何かと扱いやすい目標だと思う。何より「おいおい、1年のころから東大目指すなよ(笑)」とかができるかもしれない。

しかし、面白いかといえば全くであるし、そもそもそんなこと言うやつが面白い奴の様には思えない。


ここで1ついい目標がある。

それは、青春ラブコメをこの身で体現することである。


青春ラブコメ、大好物である、聞かれてもいないのに勝手に評論してしまうくらいには。

先輩後輩同窓と恋愛したり、友情を育んだり、様々な要素をもっているため達成できなかった際に言い訳がしやすい。

なので、青春ラブコメ主人公を目指します。


ーーーーーーーーーーーーーー


「――と、ここまで私が音読してきたわけだが、どうだ?少しは恥ずかしくなっただろう?」

夕暮れの職員室、担任の日向先生に呼び出された俺、亜久谷久遠は職員室にて1年のころに書いた決意表明書らしきものを読み上げられていた。

「よよ、ひどいわ先生。そんなことするなんて私思わなくてよ」

「何で、昭和の映画みたいなしゃべり方してるんだ?」

「いや、先生の年齢的にこれかna―」

「フンッ!!」

「ヘブッ」

腹を殴られた、ひどい。

「殴ったね…!」

「殴って何が悪いか。……てか私まだアラサーなんだけど。」

いや、これに返事で来てる時点でどうかと思いますよ。とは言わずに俺は今更ながら疑問を投げかける。

「そもそも、1年のころに書いたそれをいまさらになって引っ張り出してきたんですか?」

本当に単純な疑問である。それに対して日向先生はニィっと悪い笑みを浮かべて

「ただの嫌がらせ」

とかぬかしやがった。

「えっ、ひど」

「シンプル悪口やめな。確かに半分はいやがらせなんだけどな、もう半分はやさしさだよ」

「新手のパブロンかよ」

じゃあ効かねえよ新手のパブロンは。

「なら、その残り半分のやさしさって何ですか?先生の妹さんとかくれるんですか?あ、でも僕ロリコンじゃないんで遠慮しときます。では、失礼しました―」

と、職員室から脱出しようと歩を進めた瞬間

「ちょまてよ」と肩をグイっとされた。やだ、イケメン。

「なんですか、僕は青春ラブコメ主人公になるために忙しんですよ?」

「はい、ダウト!!亜久谷、おまえ帰っても漫画読んでゲラゲラ笑ってるだけだし、勉強机に向かって勉強しているかと思いきや魔法の詠唱考えてただろ?」

「な、なぜそれを!!」

「ふふふ、お母様に聞いたのさ!!」

「ダニィ!?」

ひどいよ母さん、勝手に部屋を掃除して人の黒歴史の発掘調査しないでよ。

俺が運命を呪っていると、日向先生がしれっと肩を回してきて耳元でささやく

「どうせ、暇なんだろ?だったら付き合えよ、亜久谷お前にとってもいいことだと思うぞ?」

歯神経を直接撫でられたようなゾクゾクっとした感覚が全身を支配する。あ、ヤバイなこれと思った瞬間にはもう遅かった。

「お前には部活を作ってもらう」

多分ラブコメ主人公らしいことができそうな予感がした。


ーーーーーーーーーーーーー


「何で、俺は右腕を固められているんですか?」

俺は日向先生に関節を極められながら廊下を歩いていた。リノリウムに先生の革靴の音がこだまする。

時間帯的に部活動が始まっているのか高校球児たちの野太い声がかなり離れたここまで聞こえてくる。

「いや、おまえ口だけは達者だからな。下手にしゃべらせるよりは武力行使したほうが楽だからかな」

「ほんとにあんたアラサーかよ」

考え方が昭和すぎる。いやどちらかといえばサイヤ人だな。だが、スーツの中にある柔らかなものがフニフニと当たっているからいいや(脳死)。

まあ、とにもかくにも、さっき先生が言ったあの言葉がのどに引っかかる。

「部活動を作れですか?入れじゃなくて」

俺の疑問に先生は「ああ」と短く返事して、たどり着いた教室のドアをガラガラっと豪快に開け、

「オラッ催眠!」

といって教室内に投げ込んだ。

「あべし!催眠解除!!」

とだけ言えたが、正直俺はこの先生が怖い。

俺が恨みのこもった視線を日向先生に向けるが、先生はどこ吹く風。俺の方は一切見向きもせずに、視線は俺の頭の奥、きれいに並べられている机に座っている……。そこには、普通にかわいい少女がいた。

「読書の邪魔したな月ノ瀬」そう、先生が彼女に話しかける。月ノ瀬と呼ばれた彼女がこちらを向いたのですかさず先生は俺のことを紹介する。

「この人生他責思考してそうなやつは亜久谷だ、ほら挨拶」

そういって先生は俺に挨拶を促す。

「どうも皆さんこんにちは!!いつもニコニコあなたの隣に這いよる男子高校生、亜久谷久遠です」

きゅるん、と紹介したら先生からすかさずツッコミが入る。

「名状しがたい自己紹介をするな」

そんな、一連の流れを横目で見ていた月ノ瀬は、ぱたんと本を閉じこちらを向く。

「月ノ瀬よ」

うわー、シンプルだ。下の名前は教えてくれないのかよ、とは思うけど確かに初対面の人にいきなり下の名前で呼ばれたら、「こいつ何様だ?」とか思っちゃうよね。

……それで、すぐに読書に戻っちゃうのかよ。あまりの気まずさに先生に助けを求めるべく口を開く。

「で、俺は彼女、……月ノ瀬と一緒に部活を作ればいいんですよね?」

「そうそう、簡単な話だろ?」

「えっと、どこが?」

少なくとも意思疎通ができるとは思えないのですがそれは。

「先生、私は推薦が欲しいからこの話に乗ったんです。仲良しごっこをするつもりはないのですが」

いきなり月ノ瀬が口を開いた。てか、めっちゃクーデレの原石みたいな発言をしてる。ほんとにいるんだこんな人。てか、

「え?推薦もらえるの?そんな話聞いてないんですけど」

「お前は別の条件だから関係ないぞ」

あれ?レスポンス早くない?もしかして俺って連れてこられ損?

「まあ、あれだ月ノ瀬。そもそも部活を作るには最低限、教員1人と生徒2人が必要になる。月ノ瀬はいろいろと実績が欲しい、そして亜久谷に関しては私が弱みを握れたから都合がよくて、えへっ」

「えへっ」てなんだよ……!!あんた絶対猫アレルギーだろ。あと条件が緩すぎて怖い。

―――って、

「……え?弱み?何それ、いつの間にそんな恐ろしいものを握ったんですか?」

「ああ、おまえの部屋の発掘調査の成果物すべてを私が持っているから安心しろ、これで心置きなく部活ができるな?」

やばい、安心できない。いつなんどき掘り起こされ音読されるかわかったもんじゃない。

しかも母ちゃん何してくれるんだよ。

いつか小説で有名になったときに資料として博物館作れなくなちゃうじゃん。

そんでもって、さっきから月ノ瀬はぢっとこっち見てくるし。あんたは啄木かよ。

まあとにかく、と先生は話を続ける。

「とにかく、私が顧問で君たち二人で部活を作る。そして私は幽霊顧問として存在することによりほかの部活の顧問に誘われなくて済む。月ノ瀬は推薦に使えるし、亜久谷は黒歴史の流出が怖いから絶対にやめない。これでみんなwinwinってやつだね♡」

まあ、かわいい

「―とはならないよ?え、それが目的なんですか?あと、俺だけかなり受動的ですよね?ねえ!?」

なぁにそれぇ。

「でもそれだけじゃない。亜久谷、君は青春ラブコメの主人公みたいなことができるじゃないか。」

「いや、ヒロイン不在ですが?」

「そうですよ、彼に主人公は荷が重すぎます。せいぜい歩行人Hあたりですよ」

「いや、Aですらないのかよ。先生俺こいつと仲良くできる気がしません」

「あら奇遇、私もごめんこうむりたいわよ」

ひっどいなこの女。とか思っていると先生は少ししわの入った紙をスーツのポケットから取り出して、って雑だな。

「じゃあ、今日中に部活の名前と活動内容とかそこいらへんをこの紙に書いて生徒会室にもっていってくれ」

それだけ言い残すと、手のひらをひらひらしながら教室から出ていった。

はあっとため息1つ。俺は月ノ瀬の方を向いた。

少しだけ憂鬱な放課後が始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあ、まずは部活の名前を決めよう」

俺は、緊張半分いらだち半分で月ノ瀬に話しかける。

「有名どころで行けば、空を●部、G●部、奉●部、ゲーム開発部(●)、そして『キ●スト教の精神に則り、同じ学校に通う仲間の良き隣人となり友誼を深めるべく、精神誠意、臨機応変に切磋琢磨する』部活動、とかいろいろあるけど?」

「それって本当に有名どころなの?」

あれ?知らないのかな?アニメとかあまり見ない感じの人なのかもしれない。

「えっと、なら月ノ瀬?お前ならどうする?いいアイデアとかあったりするのか?」

「そうね、無難に文学部とかどうかしら。……あからさまにつまらなさそうな顔するのはやめたら、出てるわよ」

はわっ、やばい出てたのか。

「ならあなたが決めたら?」

それはなんか違うというか、何だろう。というか本来、人間は何がしたくて部活を作るのだろうか。

……あっそうだ。

「なら、自分の趣味を反映すれば楽しいのでは?月ノ瀬、ご趣味は?」

「え、いきなり何?……しいて言うなら、読書かしら?あとは、…何でもないわ」

何でもない、が気になるところだけど。

「なるほどね、俺も読書はするし、なんだったらアニメとか、あとはASMR買いあさってます、性感帯は耳です」

「聞いてないわよそんなこと」

冷たいなぁ。いや、この反応が正常だよな。なんか妹もこんな表情するもんね。ひどいよね。

「じゃあこの趣味の共通項を探そう、強いて言うなら文学系?」

「あまり知らないから一応聞くけど、アニメは文学なの?」

「……多分?何をもって文学と呼ぶかは人それぞれだけだと思うけど、ガ●ダムとかはロボットアニメの皮をかぶった戦争文学だと思うから文学だろ」

それこそラブコメだって青春群像劇だし。

「なるほど、そういう考えなのね。……なら、こういうのはどうかしら」

そういって彼女が書き出した名前は「人間観察部」。

「これだと様々な媒体で物語が見れるから幅広く文学に触れられると思うのだけど」

どうかしら?と少し鼻を高くしているように思える月ノ瀬に俺は素直に尊敬した。

「お前、案外話が分かるやつなのかもな」

「あら、今更気づいたの?」

でも、もう少し奇をてらいたいので。

「なあ、本当に意味はないんですけど(仮)をつけたいのですがいいですか?」

ダメもとで月ノ瀬に尋ねると、少しあきれたようにため息をついて

「あなたも難儀な性格しているのね。いいわよ、それこそあなたの感性では好みなのよね?」

もちろんそうだ。未完成こそココロオドルのが男の子。というか、少し引っかかる言葉遣いだが今は置いていおこう。

「まあ、どれだけあがいたところで卒業までは一緒に活動をするんだよな。不束者ですがよろしくお願いします」

「何で貰われる前提で話をしているのかしら。まあ、よろしく」

そうして書面上での人間観察部(仮)が完成した。

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