Round.3 ”交渉”
拓也「母さん!!」
試合後、すぐに拓也は母のいるリビングへと直行していた。
拓也・母(以降、母)「そんな大急ぎでどうしたの?」
母はリビングで横になってテレビを見ていた。
しかしお笑い番組を見ているようなので、先程の試合は見ていないようである。
拓也「俺、ボクシングやりたい!!!」
母「・・・・・・えっ?」
母は息子のいきなりの発言に驚きを隠せなかった。
母「いきなりどうしたの?」
拓也「俺、ボクシングやりたいんだ!!」
母「・・・・・・ダメよ」
しかし、意外にも母は認めなかった。
拓也「・・・・・・えっ?な、なんで?」
母「ボクシングとか、格闘技とか・・・殴りあうようなスポーツはダメ。」
拓也「だから、なんで!?」
母「母さんは・・・人を殴ったりとか、人から殴られたりする為にアンタを産んだんじゃない!!」
拓也「だって・・・」
母「だって、じゃない!この話はもう終わり!!・・・じゃ、母さんは洗物してくるから。」
そう言うと、母はキッチンへ行って洗物をし始めた。
拓也「なんで・・・」
翌朝
拓也「おはよう、母さん。・・・母さん、俺ボクシング」
母「その話は終わりって言ったでしょ。」
拓也「でも・・・」
母「ほら、早くしないと学校遅刻するわよ。それとも・・・今日も休むの?」
拓也「・・・・・・うん。今日は行く気になれないし。」
母「今日も、でしょ?まったく・・・学校には何て連絡すればいいの?」
拓也「テキトーにしといて。熱があるとか・・・」
母「じゃ、熱が出ましたって連絡しとくね。」
そう言って、母は電話でどこかへ掛け始めた。話の流れから言って学校だろう。
拓也はイスに座り、テーブルに出ている朝食に手をつけた。ご飯に味噌汁、焼き魚と一般的な家庭の和風朝食だ。
拓也「はぁ・・・」
しかし、思うように箸が進まない。
やはりボクシングをやれないことがショックなのだ。
拓也「(せっかく変われると思ったのに・・・・・・)」
拓也「はぁ・・・」
母「朝からため息ばっかりついてると、ろくなことないわよ。」
気付くと向かいの席で母も朝食をとっていた。
母「学校には連絡しといたから。」
拓也「うん、ありがとう。」
母「・・・・・・」
拓也「・・・・・・」
その会話からしばらくの間、沈黙が続いた。
拓也「ごちそうさま。じゃ、俺自分の部屋で勉強するから・・・」
そう言って自分の部屋の向かおうとしたとき・・・
母「待ちなさい。」
母に呼び止められた。
母「どうしてボクシングなんかやりたいの?他にスポーツはいっぱいあるじゃない?」
拓也「なんでって・・・・・・」
拓也自身もそれを不思議に思った。母の言うとおり、スポーツは他に腐るほどたくさんある。
何故、ボクシングか?
拓也「それは・・・」
しかし、その答えは一瞬で出た。
拓也「かっこよかったから」
母「・・・・・・え?」
拓也「母さん、昨日のボクシングの試合見た?見てないよね。」
母「見てないわ。」
拓也「凄かったんだよ。世界タイトルマッチだったんだけどね、チャンピオンが元ヤンで、挑戦者が元イジメられっ子。普通ならヤンキーが勝つよね?でも・・・イジメられっ子が勝ったんだよ!!それも一瞬で!!!」
母「・・・・・・」
拓也「で、試合後のインタビューでその人が言ったんだ。『相手が誰でも自分のやってきたことを相手にぶつける、それだけを意識してた』『そんなの吹っ切るくらい練習したから、全く怖くなかった』『どんなもんじゃい!!!』って。その人はイジメられてて辛い思いをいっぱいしたんだと思う。でも・・・それを乗り越えてきたんだよ!!」
母「・・・・・・」
拓也「俺は身体が震えたよ。そして思ったんだ。『この人のようになりたい。この人のように強くなりたい』って。だから・・・」
母「わかったわ。」
拓也「・・・え?」
母「ボクシングでも何でも・・・やりなさい。」
拓也「な、なんでいきなり?」
母「アンタのそんな・・・そんな顔、初めて見たからよ。」
拓也「顔?」
母「わからない?アンタ今すごくいい顔してるのよ?今まで15年間、アンタを育ててきたけど・・・そんな顔見たのは本当に初めて。」
拓也「そうなの?」
母「やってもいいけど・・・その代わり、精一杯やりなさい。途中で投げ出したりしないこと!!これが条件よ。」
拓也「母さん・・・ありがとう。本当にありがとう!!じゃあ俺、ジムとか探してみる!!」
母「・・・勉強もやりなさいよ?」
拓也「うん!!」
そういって拓也はインターネットでボクシングジムを探し始めた。
その顔は、母親が言うようにとても”いい顔”だった・・・。
すみません・・・予告通りにいかななくなってしまいました。
・・・・・・次です!次こそホントに拓也がジムに入ります!!
2度あることは3度ある・・・?
まだ1回目です!!
でも・・・気をつけます(汗)
以上、安息香酸の謝罪会見(?)でしたー!!