Round.2 ”きっかけ”
2年後・・・
拓也は中学3年生になっていた。
あれから2年間、イジメは時が経つごとに酷くなった。
放課後だけでなく昼休憩や授業の合間の休憩、さらには授業中でも容赦なくイジメられた。
しかし誰もそれを注意しようとしなかった。
それどころか、イジメに参加するヤツもいた。
教師でさえ注意せず、”見て見ぬフリ”をした。
もはや、クラスに拓也の居場所はなかった・・・
それでも拓也は誰にも相談しなかった。
”迷惑をかけられない”という信念は依然貫いていた。
若干学校を休むようにはなったが、それだけ。
パッと見は普通の中学生だった。
しかし、拓也の心は日に日に荒んでいっていた。
ある日、拓也は学校から帰宅後に自室でふと考えた。
拓也「(みんな・・・どうして俺をイジめるんだ?俺が何かしたか?俺はただ・・・楽しく毎日を過ごしたい。それだけなのに・・・)」
そして、その時はやってきた・・・。
拓也「(どうすれば楽になれる?・・・・・・・・・殺せばいい)」
それは・・・
拓也「(そうだ、みんな殺せばいい)」
生まれて初めて
拓也「(みんなみんな、殺してやる!!!)」
本物の殺意が芽生えた瞬間だった。
次の日・・・
拓也「でも殺すといっても・・・どうやろう?」
朝起きてからずっと、そんなことを考えていた。(ちなみに今日はサボり)
拓也「(爆弾でも作って・・・いや、カンケー無い人まで巻き込んだらいけないよな。第一作り方知らないし・・・。)」
色々と考えてはみたが、いい案は浮かんでこなかった。
時刻は午前10時45分。
拓也「テレビでも見るか・・・」
ポチッ
拓也「面白そうなのやってねぇ~・・・・・・ん?」
チャンネルを替えるのをやめ、拓也はCMに目を向けた。
テレビ『元イジメられっ子が元ヤンキーに挑む!ボクシング世界タイトルマッチ、今夜7時58分!!』
拓也「イジメられっ子がボクシングやって強くなりましたってか?そんなうまくいかないでしょ。」
そう言って再びチャンネルを替え始めた。
拓也「でも・・・・・・どうなるのかな?」
時間は跳んで、夜の7時50分。
拓也「ボクシングなんて今まで見たことなんかほとんど無いのに・・・ってか時間ビミョ~。」
あれからずっと気になっていた。
何故か?・・・正直わからない。
ボクシングなんてほとんど見た事が無い。しかし、その試合だけは見ておきたかった。
理由は分らないが、どうしても見たかった。
テレビ『これより、ボクシング世界タイトルマッチを行ないます!』
CMからリングとその試合を見に来たであろう観客たちの映像に切り替わった。
そして・・・
拓也「いよいよ、か・・・」
テレビ『選手入場です!!』
2人のボクサーが軽快な音楽とともに入場してきた。
選手入場後、選手はそれぞれリングに入って中央で審判のルール説明を受けている。
チャンピオンは元ヤンキーとあってか、ガラが悪そうで挑戦者の方をずっと睨んでいる。ちなみにアメリカ出身の黒人だ。それに対し、挑戦者はそれに臆することなく真剣に審判の指示を聞いていた。こっちは日本人のようだ。。
しばらくすると、選手は各セコンドのいるコーナーに戻り、臨戦態勢に入った。
テレビ『さぁ、いよいよ世紀の決戦が始まります』
拓也「・・・・・・」
テレビ『Round.1 Fight!!』
"カーン!"
ゴングの音とともに2人はリングの中を動き出した。
どうやら、チャンピオンはオーソドックス(右利き)で挑戦者はサウスポー(左利き)のようだ。
チャンピオン《ジャブ ジャブ ジャブ》
チャンピオンは”ジャブ”を巧みに使い、攻めながらも相手の様子をうかがっている。
それとは対照的に挑戦者のほうはおとなしく、パンチを避けてはいるものの自分では出さずにいる。
・・・・・・そう、”全て”避けているのである。
そのとき、
チャンピオン《ジャブ 右ストレート!!》
業を煮やしたチャンピオンが豪快に攻めた!!
拓也「・・・・・・え?」
一瞬の事だった。
テレビを見ると、チャンピオンは倒れ、挑戦者はガッツポーズをしている。
審判『ニュートラルコーナーへ!!』
審判が挑戦者にそういうと、挑戦者はゆっくりとコーナーへ向かった。
審判『・・・・・・』
チャンピオンは動き出す様子が無い。
”カンカンカーン”
テレビ『チャンピオン立てない!ゴングが鳴りました!!開始わずか1分12秒、挑戦者がKOで下しました!!そして・・・』
テレビ『新チャンピオンの誕生です!!!』
何が起こったか?
簡単なことだ。チャンピオンが”右ストレート”を放った瞬間に挑戦者が”左ストレート”を放ったのだ。それも相手のパンチの上を”這う”ようにして・・・・・・
”クロスカウンター”
俗に言う、これである(単に”クロス”ともいわれる)。
テレビ『いや~、すばらしい”クロス”でしたねぇ~。あのパンチは見えませんよ~』
テレビで解説者が何か言っているが、拓也には全く聞こえていない。
拓也「スゲェ・・・」
KOの瞬間のスローモーション映像を見ながら、拓也は思わず呟いた。
テレビ『では、新チャンピオンにお話しを伺いたいと思います。』
新チャンピオンへのインタビューのようだ。
拓也はテレビに近づいて、一言も聞き逃さないよう集中して聞いた。
テレビ『おめでとうございます!今のお気持ちはどうですか?』
挑戦者(以降、新王者)『ありがとうございます。いや~、うれしいの一言ですね。』
テレビ『1分12秒で1ラウンドKOという結果でしたが、試合内容についてはどうですか?』
新王者『まぁ時間が時間なんで、自分のやってきたことが全て出せたって訳じゃないんですけど(苦笑)でも自分ではかなりいい感じで出来たと思うんですけど・・・どうでした?』
テレビ『素晴らしかったですよ!!では、このあと最初に何をしたいですか?』
新王者『そうですねぇ~・・・最初はまずジムの仲間たちと祝勝会ですね。ボコボコならゆっくり休めたんですが・・・(苦笑)でも減量苦しかったんで、そのときに食いたいもの食いまくります!!(笑)』
テレビ『そうですか。”イジメられっ子”と”ヤンキー”の対決というので世間の注目を集めましたが・・・それについてはどうですか?』
新王者『あんまり意識してませんでしたね。相手が誰でも自分のやってきたことを相手にぶつける、それだけを意識してましたから。』
テレビ『怖い、とか無かったですか?』
新王者『そんなの吹っ切るくらい練習したんで、全く怖くなかったですよ(笑)』
テレビ『そうですか~。ありがとうございました!おめでとうございます!!』
新王者『あ、ちょっとマイクいいですか?せっかくなんで、一言言いたいんですが・・・』
テレビ『もちろんです!では一言どうぞ!!』
新王者『応援に来てくださった皆様、ありがとうございました!そして学生時代の友人に一言・・・・・・』
一呼吸おいて、新王者は叫んだ。
『どんなもんじゃい!!!』
拓也「かっこいい・・・・・・」
その言葉を聴いた瞬間、拓也は小さな声で呟いた。
そして同時に・・・
拓也「(俺もあんなふうになりたい!!)」
新王者への憧れの気持ちが生まれた。
”相手が誰でも自分のやってきたことを相手にぶつける、それだけを意識してましたから”
”そんなの吹っ切るくらい練習したんで、全く怖くなかったですよ”
”どんなもんじゃい!!!”
これらの言葉が拓也の心の中に響いていた。
そしてこの試合が
拓也「俺も・・・俺も!!!」
格闘家”小林 拓也”誕生の”きっかけ”となったのだ。
ども!安息香酸です!!
今回は自分では結構長く書けたと思ったんですが・・・
普通くらいですよねぇ・・・もっと良く書けるよう日々精進します!!
では次回!
”拓也”がとうとうジムに入ります!!
・・・かも(苦笑)