表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/61

望みと言われましても

「……そう言われても分かりません。私にはずっと聖女しかなくて、それ以外の生き方を知らなくて、だから……」


 私は言葉を詰まらせてしまう。


「すまない。今まで自由を奪われ続けてきたそなたに、いきなり自由にしろというのは酷なことだったな」


 魔王様は言う。


「それならば、まずは……そうだ。何か自分の望みを見つけ、それをかなえてみてはどうだろうか。練習に、今ここで何か一つ望みを言ってみるといい」


「望み……ですか?」


 今まで望みを持ったことなんてなかった。そんなもの、持ったってかなわないに決まってるから。ただ命令に従って、言われるまま働き続ける。そんな生活の中で、いつの間にか、私には諦める生き方が染みついてしまったみたいだった。


「くっくっく。どんなものでも良いぞ。仮に大きな望みであっても、魔王たる我がかなえてやるからな」


 力強く微笑む魔王様を前にして、私はなんだか不思議な気持ちになった。この人のことを、私は全然知らない。それなのに、この人を信じたいと、そう思ったのだ。


「それなら、私……魔王様のお名前が知りたいです」


 それは思わずこぼれた本心だったんだけど——


「貴様、無礼にもほどがあるぞ! 未だ何人たりとも、その御名を呼ぶことを許されていないというのに!」

 

 ザインさんが、怒りのあまりぶるぶる震えてる。


「そ、そうだったんですか!? ごめんな……」


「くっくっく。ギルガメルドロティアトロボロス、それが我の名だ」


 え……? あっさり教えてくれちゃったぞ、魔王様?


「その……いいんですか? お名前は隠してたんじゃ?」


「この名はひどく長いうえ、言いづらいであろう? それだと皆が困るため、魔王で統一しているのだ」


 あ……名前を呼ばせない理由、安定に優しかった。


「でも、それなら、ギル様、でいいのでは?」


 瞬間、場の雰囲気が異様になった。魔王様は俯いてるし、ザインさんはさらに激しく震え始める。いや、激しすぎて、もはやヘドバン状態だよ、これ……。


「い、いいいい、いやしくも魔王様のお名前を略すなど……」


 ザインさん、もはや涙目になってるよ!


「うああああ、ご、ごめんなさい!」


 私は頭を下げる。これは、特大の地雷を踏みぬいてしまった!

 

「くっくっく……」


 俯いていた魔王様は、

「気に入った。これからはその……ギ、ギル様で頼む」

 そう言って顔を上げた。


 あれ? なんでまたちょっと赤くなってるんだ? しかも、凄く嬉しそう……。


「素晴らしい呼び方でございますね! ギル様!」

と、途端にザインさんが華麗に手の平を返す。


「すまないが、ザイン。その呼び方はライザ限定にしようと思うのだ」


「な、なぜですか⁉」


 ザインさんは物凄く困惑した後、私を恨めしげに見つめてくる。いや、そんな顔されても、私だって理由が分からないんだけど……。


 でも、魔王様——改め、ギル様は優しい。それだけは確かに分かることだった。


 だけど、と私は思う。だけど、ギル様はどうして私にここまでしてくれるんだろう。

皆様に楽しんでいただけること第一の作品にしたいので、ご意見、ご要望をどしどしお寄せくださるとありがたいです! 全力でそれに応えさせていただきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ