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エレアールの聖女

「と、まあ、仕切り直しまして」


 ザインさんが、こほん、と咳払いをする。


 私たちは魔王城に戻ってきた。のはいいんだけど、なんで当り前のように、魔王様とザインさんが私の部屋にいるんだろう……。


「聖女の力は予想以上に強力なようです! それを捕らえられるとは、流石魔王様でいらっしゃる!」


 どうやら、ザインさんはかなり盛り上がってるみたい。


「しかし、エレアールの聖女については、何かと不明な点が多い。他に何ができるのか、まずは詳しく取り調べましょう。聖女を最大限利用することによって、魔王軍はより強大になるのですから」


 だけど——


「あのー、申し訳ないんですが、今のままだと、ちょっとそれは難しいかもしれないです……」


 私がおずおずと申し出ると、

「どういうことだ? 我々魔族には従えないと、そういうことか?」

と、ザインさんが眉間にしわを寄せる。


「いえ、そういうことじゃなくて。実は、聖女の力、最近はかなり弱まっていている気がするんです」


 さっき花畑を出した時、はっきりした。かつての私だったら、ここを完全なるメルヘン王国にできたはずだ。私の癒しの魔力は確実に以前より弱まってる。


「そんな道理があるか! 貴様は聖人なのだろう? その魔力が弱まるなど、ありえることではない!」


 ザインさんの言うことはもっともだ。私がきちんとした聖人——かつて女神様に選ばれた、聖なる血統に連なる者であるならば、だけど。


「……私、本当は、聖なる一族の血を引いている、いわゆる聖人じゃないんです」


 それは決して外に漏らすことの許されない、エレアール最大の秘密だった。


「どういうことだ!?」


 興奮した様子のザインさんを、魔王様は右手で制すると、

「聖女よ、そなたのことを教えてはくれぬか?」

と、静かに見つめてきた。


「わ、私は……」


 聖人とは、その祖先が女神様に選ばれた、聖なる血を引く人間のこと。だからこそ彼らは、普通の人間とは異なる、特別階級とされていた。


 それなのに、いったいどうしてなんだろう。完全に平民出身の私は、魔法を使うことができてしまったのだ。それが聖教会にばれた結果、私は処刑されることになった。聖人の威光を穢し、さらには女神様を冒涜した。それが私の罪だった。


 だけど、そんな折、エレアールは戦争で大打撃を受けた。多くの聖騎士が死に、土地は荒廃した。そこで、聖教会は考えた。私を捨てるのはあまりにももったいない。むしろ、最大限利用してやろう、と。


 エレアールでは、聖人の男は聖騎士に、女はその妻となる決まりだった。急遽作られた、私一人のための役職。それがエレアールの聖女なのだ。


 通常の聖人は、祖先が女神様と交わした契約によって、変わることなく女神様の加護が与えられる。だけど、私は違う。いつ加護を失うか分からない。だから、誰よりも女神様に敬虔でなければならなかった。


 女神様は、美しい心を持つ人間に加護を与えるとされる。それを養うためには、修行によって苦しみを抱き、魂を高尚なものにする必要がある。だから、聖女となった私には、厳しい修行が待ち受けていた。


 食べることも、眠ることも、楽しみを感じることさえ、許されない。自分という存在を削って、全てを女神様——いや、違う。エレアールに、聖教会に捧げる。死ぬよりも苛酷な環境で、あらゆるものを奪われ、心を殺しながら生きる。


 それが私——エレアールの聖女の全てだった。

皆様に楽しんでいただけること第一の作品にしたいので、ご意見、ご要望をどしどしお寄せくださるとありがたいです! 全力でそれに応えさせていただきます!

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