私はストーカーじゃない、決して
その時、
「あれ? 初めまして……ですよね?」
と、ネビュラさんが私に顔を向ける。
「僕、ネビュラです。どうぞよろしくお願いします」
僕、だと……⁉ 私はさらに戦慄した。
そういえば、噂で聞いたことがある。「僕」という一人称を使う少女の存在を。もしや、これがあの伝説の生物——僕っ娘、なのか⁉
「は、初めまして。私はライザです。よろしくお願いします」
「ところで、お仕事は何をされてるんですか? ザインさんの隣にいるなんて、かなり高い役職なのは分かるんですが……」
「ええと、一応聖女やってます」
「せいじょ? そんな仕事、魔王軍にあったんですね。せいじょ……え、聖女?」
あ、多分今、頭の中でせいじょが聖女に変換されたな。ネビュラさんがぷるぷるし始める。
「ど、どうして聖女が魔王城にいるんですか……」
「くっくっく。先日、我がエレアールからさらってきたのだ。その後、なんやかんやあって、我が魔王軍の聖女となった」
と、ギル様。
「エレアールって……。まさか、エレアールの聖女なんですか?」
ネビュラさんは、もはや涙目で私のことを見てくる。
「そのことについては、また後でゆっくり説明しよう。とにかく今は、そなたらを労わせてくれ。長期にわたる出征、誠にご苦労だった。しばらくはこの城で休むといい」
ギル様は、落ち着かせるように、ネビュラさんの肩を優しく叩く。
「ところで、ネビュラよ。相変わらず、そなたはかなり消耗しているようだ。我の目は誤魔化せぬぞ」
「いえ、魔王様にお気にかけていただくことのほどでは……」
「くっくっく。ライザよ、ここは一つ頼めぬだろうか」
急に振られ、
「あっ、はい。分かりました」
と、私は飛び上がる。
「あ、あの、頼むって何をです?」
ネビュラさんは目を白黒させる。
「聖女の癒しの魔力で……」
「いえ、僕、大丈夫です!」
ギル様が言い終わるより先に、ネビュラさんは逃げ出した。
「待ってください! ネビュラさん!」
私は反射的に追いかける。
「こ、来ないでくださああい……!」
ネビュラさんは大広間を駆け抜け、廊下に飛び出すと、そのまま走り続ける。こうなったらもう意地だ! 絶対捕まえる! 私はネビュラさんを全力で追いかける。
「ストーカーだわ!」
「ストーカーがネビュラちゃん様を追いかけてる!」
「誰か、あの人を止めて!」
廊下ですれ違う面々は、みんなドン引きした顔で私を見て——って、誰がストーカーじゃ! こんな堂々と追いかけてるストーカー、いるわけないでしょうが! いるとしたら、それはストーカーより厄介な何かだよ!
「きゃっ」
ネビュラさんが躓いて転倒する。よっしゃああ! 私はすかさず倒れ込んだネビュラさんに飛びかかった。
「はあ、はあ……ついに捕まえましたよ、ネビュラさん!」
全力で走ってたせいで、めちゃくちゃ息が荒くなってる。
「今、治しますからね!」
私はネビュラさんに覆いかぶさって、手を伸ばす。
「いやああああ!」




