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聖女職はブラックなんです

 エレアール聖王国、そのたった一人の聖女である私は疲れ果てていた。理由は簡単。聖女というのが、最低最悪のブラック職だったから。


 この世界には魔法が存在する。しかし、誰もがそれを扱えるわけではない。魔法を使えるのは、魔力を有する魔物と、女神様の魔力を与えられた聖人だけ。そして私は、莫大な癒しの力を持つ聖女として、祖国エレアールのために働いていた。


 魔物相手に飽き足らず、近隣諸国とまで戦争に明け暮れる祖国。それを支えるのは、並大抵の苦労じゃない。結界の保護。聖騎士の怪我の治癒。それだけでも手一杯なのに、奇跡の力を人民に見せて回れだとか、貴族たちの病気を癒せだとか、荒廃した土地を蘇らせろだとか……。上のむちゃぶりに、それでも私はずっと耐えてきた。


 だけど、そうするうち、戦争は激化し、それに比例して私の仕事も激増していった。もう私の身体は限界だった。だから、上層部に訴えた。これ以上仕事をこなすことはできない。


 さて、その結果はどうだったか。聖女なら、回復魔法を自分にかけられるよね? だったら、寝なくていいんじゃね? その分の時間を仕事にあてれば解決じゃん。的な狂ったお達しが下ったのだ。


 そして、連勤百日目を迎えた辺りで、ついに私はおかしくなった。くっ、身体が震えやがるぜ。てか、ずっと前から動悸が止まんねえんだよ……。変な汗は出っ放しだし、ずっと視界の隅が黒くかすんでるし……。


 もう疲れた。聖女やめたい。逃げたい。でも、無理か。聖教会厳しいし。


 うん。こうなったら、死ぬしかないな!


 私は決断した。だけど、私の行動は国に厳しく監視、制限されている。死ぬことなんて、絶対させてもらえない。だから、狙うのは、監視の目が緩む従軍中だ。


 そして、好機はやってきた。ギークスの森の魔物討伐。私は討伐軍と共に赴いた。魔物との戦闘が終わった夜、兵士たちは宴会を開き、盛り上がり始めた。決行するなら、今しかない! 


 私はこっそりと軍を離れ、一人で切り立った断崖の淵に佇んでいた。えへへ、ついにやっちゃいますか。よっしゃあ、来世に向かってダイブだぜ!


 私がまさにダイブしかけた、その時——


「くっくっく……」


 うん? なんだろう? 幻聴?


「見つけたぞ、エレアールの聖女。貴様は我と共に来るのだ」


 途端、私は黒い靄の中に引き込まれた。ええと、よく分からないけど、とりあえず、職場から脱出できたってこと? やったー!


 と、喜んでたのも束の間。気が付けば、私は薄暗い大広間に立っていた。ここは……城、だよな? なんか、やけにおどろおどろしい雰囲気なんだけど。あと……周りをどう見ても魔族と思われる方々が取り囲んでるし……。


 うん、認めよう。ここ、魔王城だ。


 というか、隣にいる、私をさらってきたこの人、魔王様だよな? いかにも強者感が漂うこの姿は、戦場で遠目に見たことがあるような。まあ、何より如実にそう語ってるのは、そのオーラなんだけど。さっきから、背景に、ごごごごごご、って効果音が見えるんだよなあ、この人。


「ええと……この状況は、つまり……」


「くっくっく。ついに捕らえたぞ、聖女よ」


 魔王様は笑う。流石魔王。めちゃくちゃ邪悪な笑みだ。


「これよりそなたをこの魔王城に監禁する。今までのような生活を送らせはせぬ。せいぜい覚悟を決めておくのだな」


 そして、私はその台詞通り、さっそく塔の一室に閉じ込められた。はい、終わったー。人生終了のお知らせー。来世にジャンプのはずが、この世の地獄にきちゃったよ。あーあ、これからきっと、物凄く悲惨な目にあわせられるんだろうな……。


 と思ってたら、おや? おやおやおや? ここ、案外……いや、かなーり快適なのでは?


 まず、ちゃんとした食べ物が出てくる。しかも、一日三食。付け加え、毎日お風呂に入らせてくれるし、着替えもくれる。掃除も担当の人がしてくれる。その他必要なものも、頼めば差し入れてくれるらしい。


 そして何より、働かなくていい! 大切なことだから、もう一度言う。働かなくていい!


 こうして、私の素晴らしき監禁生活が幕を開けたのだった。

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