表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/61

新たなる力の概念

 くっくっく。計画通り——というのは噓なのだが、様々な要因が重なった結果、上手い具合にことが進んでいる。なんと、ライザに約束を取り付けてしまったぞ……!


「おい、今日の魔王様、なんだかひどくご機嫌が良くないか?」

「憎っくきエレアールに勝利したのだ。当然だろう」

「魔王様の喜びは我らの喜びだ……!」


 配下たちが噂するように、その日の午後、我はうきうきで会議に出て、軍の視察をして、負傷者の慰問をした。そう。我は喜びの最中にあるはずだった。それなのに、時間がたつほどに激しくなる、この震えはいったい何なのだ? まさか、恐怖……? 今までにいくつもの死線を越えてきた我が、恐怖に震えているだと?

 

 何を恐れている、魔王ギルガメルドロティアトロボロスよ。外出くらい、今までとてしてきたではないか。だが、事前に約束をして出かけるなど、まるでデー……いや、違う。意識しているとかではない。決して。


 この恐怖に打ち勝つための策。それを考えた結果、我は魔王城図書館へと向かった。


「禁書の棚に立ち入ろうと思う」


 我の言葉に、

「し、しかし、禁書はあまりにも危険! 読んだ者は精神を破壊され、二度と元には戻れないと言われております!」

と、司書は勢い良く立ち上がった。


「くっくっく。我を誰と心得るのだ。いやしくも魔王であるぞ? 禁書など恐れるに足らぬわ!」


 だが、ここは魔王力全開でいかせてもらおう。全てはライザとのパンケーキ会のためだ。


「……さすが魔王様。かしこまりました。魔王様のお心のままに」


 そして、我は禁書の書棚の前に立った。


「さあ、来るが良い! 封ぜられし禁書よ!」


 我の呼びかけに応じ、一冊の本が書棚から飛び出した。くっくっく。これだ。


『女子の本音、大公開! 男子のNG行動ぶった切り!』


 あまりの辛辣さに、読んだ男たちを次々再起不能にしたという、人間界の恐るべき禁書。我が魔王城に渡った後も、誰も手を付けられぬまま保管されているという。


 だが、知識は最大の武器たりうる。傷つくことが分かっていたとして、今こそ封印を解き、真実を知らねばならぬ。我は震える手で禁書のページをめくった。

 

 それから数刻たち、日がすっかり西の空に傾く頃。我はようやく図書館を出た。


「魔王様! 禁書の書棚に行かれたとは真ですか!?」

「まさか、封印を解かれたのですか!?」

「いったいどのようなおぞましい内容が書かれていたのです!?」


 すかさず配下たちが駆け寄ってくる。


「くっくっく。己に欠如していた新たなる力の概念を知ったぞ」


「なっ……!?」

「魔王様に欠如していた力、ですと……!?」

「それはいったい……?」


「それは言えぬ。そなたらにいらぬ心労をかけたくはない」


 ああ、知らなかった。まさかこの世界において、魔力、武力、知力の他に、モテ力という概念が存在していたとは。そして、これほどまで己にそれが欠如していたとは。


 禁書の指示に従い、モテ戦闘力診断、というものを手始めに我は行った。診断結果には、戦闘力……たったの5か……ゴミめ……、という文字。我は己の弱さに愕然とした。


 その後もこの書物は、いかに己が不甲斐ない生き物であるか、己の認識が誤りであるか、己の振舞いが痛々しいものであるか、事細かになじってきた。己の半生を、己の存在を、とことんまで否定される。読み終える頃には、我は燃え尽きていた。真っ白な灰に。


 いやはや、まっこと禁書とされるにふさわしき凶悪さであった。しかし、我はこの書物を読み切ったのだ。今の我に、もはや死角はない。この戦い、我は必ず勝利するぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今日も魔王様が可愛くてなにより
投稿感謝です^^ 魔族領って……ギャグ時空? シリアス腹黒バイオレンスな人間世界を嘆いた創造神とか(そもそもそんなモノいるのかな?)が渇望と共に召喚した癒し系概念の具現化したナニカ? 魔王様も魔族た…
その禁書は、大半の知能生物に効きそうです……興味本位でほんのちょっとだけ読んでみたい。だがダメ出しされてぐはぁっ(吐血)となる未来しか見えない……魔王様、デートのために……えらいね……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ