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たとえ聖女じゃなくても

「はっはっは! まんまと引っかかったな、この穢れた化け物風情が!」


 レオンハルトは、げす顔で勝ち誇った笑みを浮かべた。だけど——


「くっくっく。この程度で勝利を確信とは、考えが甘いとは思わぬのか?」


 ギル様は右手から爆炎を放つ。それを受けたレオンハルトは、他の兵士共々、後方に吹っ飛ばされる。


 そのすきを見て、ギル様は捕虜たち目掛け、腕を一振りした。途端、拘束器具が全て砕け散る。そして、次の瞬間には、転移魔法が発動し、捕虜たちの姿はこの場から消えていた。


「くっくっく。さて、聖騎士よ。話し合いと言ったか? だが、我の結論は既に出ている。聖女を貴様らのもとに帰すつもりはない。決してな」


 邪悪な笑みを浮かべるギル様に、レオンハルトは地に伏せたまま、ぎりりと歯ぎしりする。


「総攻撃だ! 魔王を狙え!」


 その合図に、エレアール兵が一気に押し寄せる。


「くっくっく。では、こちらもいかせてもらおうか」


 ギル様が拳を地面に叩き込むと、大地が割れ、エレアール兵の足元が崩れ落ちる。


 そして、戦闘が始まった。


「良かった……。あの魔法、あんまりきいてないみたいですね……!」


 胸を貫かれても、ギル様は平然と前線で戦い続けてる。ほとんど一人でエレアール軍を退ける、その戦いぶりは、流石魔王だ。


「いや、違う。あの魔法……おそらく魔封じだ」


「魔封じ……!?」


 魔封じ。体内の魔力を放出する度、肉体を削るという、対魔族のために特化した魔法。複雑な魔術を構築する必要があり、おまけに術式対象は一体という、その効率の悪さから、戦場で放たれることはほとんどない。おそらく、エレアールの聖人たちが、何十日もかけて練り上げたんだろう。


「こうして戦われている間にも、魔王様のお身体にはダメージが加えられている。このまま魔力を使われては、もはやお身体がもたない……」


「そんな……」


 私は次々に魔法を繰り出すギル様を見つめる。


「どうすれば傷を治せるんです!?」


「魔封じはもはや呪詛の類。並大抵の回復魔法では……」


「私の……聖女の力なら、解呪できるんじゃありませんか!? お願いです、今すぐ私をあそこに連れていってください!」


「しかし、貴様はもう……」


 そう。女神様はとっくに私を見放しただろう。だから、行っても何もできないのかもしれない。だけど——


「少しでも可能性があるなら、行くしかないでしょうが! ザインさんだって、今すぐ駆け付けたいくせに! つべこべ言ってないで、いいから一緒に行くぞ!」


 ここで待ってることなんてできない。


「相変わらず聖女らしからぬ物言いを……」


 ザインさんはそう呟いた後、

「全速力で飛ぶ。せいぜい吹き飛ばされないようにするのだな」

と、背中に現れた翼を広げた。

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