百パーセント姑息な手段がある……!
この後の展開が、短編版と大きく異なります。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
そして、ギル様率いる魔王軍は城を出発した。ザインさんは参戦したがったけど、ギル様に言われ、渋々私のおもりとして城に残ることになった。
「本当にいいんでしょうか。私なんかのために……」
魔法で映し出された映像を見つめながら、私は呟く。
「勘違いするな。魔王様は、別に貴様のために戦われるのではない」
ザインさんは仏頂面で言う。
「エレアールとて、聖女奪還はあくまで名目。貴様が戻ったところで、どうせ軍は撤退しない。よって、貴様が責任を感じて出ていく理由も、意味も、そこにはない。それなのに、みんなのために私が犠牲に、などとのたまいおって。貴様はヒロインか」
それって、さっきのムーブ全体が私の勘違いだったってこと……? え、それ、ものすっごく恥ずかしいんだけど……。
「貴様にできることなど何もない。せいぜい魔王様を信じているのだな」
「……分かりました」
その日の正午、魔王城近郊のナージャ平原で、両軍は向かい合った。両軍とも強固な防護結界を張ったまま、まるで動こうとしない。
「しかし、聖女を失ったというのに、強気に出てくるとは……。エレアールには、いったいどのような策があるのだ?」
ザインさんが言った、その時——
「待て、魔物共よ! 我らの目的は、同胞たる聖女の奪還のみ! 血を流す意味はない! 聖女を返すのならば、我が軍は撤退しよう!」
めちゃくちゃ芝居くさい声と一緒に、一人の男が結界の外に歩み出る。この姿、見間違うはずがない。聖騎士長、レオンハルトだ……! 美男子の姿をした、内面はどろっどろぐっちょぐちょのくそ野郎、レオンハルトだ……!
「魔王よ、姿を現せ! 私と話し合おうではないか! 姑息な手段などない! 我らの愛する聖女の名にかけて誓おう!」
うわあ、これ、百パーセント姑息な手段がある……! だってあの人、私の名前なんて覚えてないもん。
「もちろん、聖女をただで返せとは言わない! 交換条件を出そう!」
レオンハルトが指を鳴らすと、エレアール兵たちが十数人の魔族たちを引きずってきた。見るからに非戦闘員の老人や子供ばかりが並べられたその光景に、私は唇をかむ。
ああ、このためだったんだ。いきなり始まったギークスでの討伐。あそこには、人間の脅威になるような強い魔物なんていなかったのに。全部、魔王軍攻略のための人質を生け捕るためだったんだ。
「魔王自ら現れないのであれば、こやつらが自由を手にする機会は永遠に失われる! さあ、今すぐに姿を現せ!」
レオンハルトが叫んだその時、結界から黒い影が飛び出した。ギル様だ。
「ああ、魔王よ、よくぞ応じてくれた!」
レオンハルトは両手を広げ、歓迎するかのようなポーズをとる。その前にギル様が降り立った、その瞬間。突如として現れた魔法陣が、ギル様を取り囲んだ。そして、そこから放たれた光線がその胸を貫いたのだった。
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