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006 ミッチーの企み


「おはようございます!今日はジャージでお邪魔します」


「おはようございまーす、ヒロちゃん朝早くごめん、ちょっと企画手伝って」


「おうっ!何を企んでるのかな?」



 お母さんが一旦帰ったタイミングで矢部が呼ばれて部屋に行くと実千代はソファに座ったままスマホで何かを検索していた



「来月の7月10日、パパとママの結婚記念日なの

 大体パパは忘れてるし私が病気になってから祝ってないからぁ、今年は祝ってあげようと思って!でも何したらいいか浮かばないのよね」


「普段はどんなことしてたの?」


「んー、大体はパパが忘れてるからちょっと良いところでご飯食べてをパパのサイフから出してもらってママがあんまり高くないけどプレゼント渡すくらいかな」


「普通の家族で外食な感じだね」


「そう!そうなのよ、だからどうしようかなって思ってさ〜なんか良い案ない?」



 矢部はスマホを取り出してメモを開いて検索を掛けた



「例えばよ?外食をココでする

 食事は俺も手伝うからミッチーが作る、プレゼントは3人が余所行きの服で並んで写真を撮ってプリントアウトしたものをあげる

 写真のフレームはミッチーが作る、材料はリハビリ室から提供する、どう?」



 実千代はちょっと不安そうな顔をして言った



「20分でどこまで作れる?」


「そこだよな〜

 料理って慣れてないとかなり疲れるんだよ

 俺が歓迎!ってするならフレンチのフルコースくらいやるけどさ、3時間は掛かるしね」


「あの手際で3時間…私はムリ」


「でもちょっと良いとこってそんな料理でしょ?」


「まぁ確かにそうかも、サラダ、スープ、パンと魚、肉、デザートとかね」


「サラダ、スープ、パンまでは手を抜けるけど魚と肉とデザートか簡単なのでも1時間は掛かるな」


「え?マジで?そんなでできんの?」


「うん

 最初のサラダはベビーリーフの袋とスモークサーモン、ケッパーでポン酢オリーブオイルのカルパッチョ

 スープは豆乳にジャガリコ入れてレンチンしてミキサーウィーンでパセリかける

 パンは既製品トースターで焼く

 ここまで10分掛からない思う、包丁も要らないし」


「スゲ」



 実千代の中で矢部の格が上がった



「問題は魚、肉なんか買ったハンバーグでもステーキでもローストビーフでも良いけど魚は焼く、揚げるとかの工程は絶対に手を抜けないしミッチーが食べるなら生ってわけにもいかない」


「時間が掛かるね」


「そういうこと…いや待てよ、ちゃんちゃん焼きみたいにしたら出来なくもないか

 ホイルに包んでフライパンで蒸し焼きにして火が通ればいいからタイマーつけて放ったらかしにできるかも」


「あのさ、ヒロちゃんはさ何者なの?」


「リハビリの人」


「絶対に違うわ、昨日から見てればさケータリングでライブキッチンする人だよ」


「それ、たまにやる

 宅飲み女子会でご飯作って帰るやつでしょ」


「うわぁ、可哀想」


「半分女子みたいなもんだから混ざるときもあるよ」


「奥さんとか彼女とかいないの?」


「残念ながら」


「良い旦那さんになりそう」


「それ、良いように使われる旦那さんでしょ」


「それしっくりきた」


「家政夫じゃん」


「奥さんからしたら最高じゃない?」


「旦那が辛いじゃない」


「まあね、うちのママなら大喜びだと思うよ」


「喜ぶ顔を見るのは好きだけど普通になりそうで怖いかな、育児中とか離乳食どうすんのよ」


「土日に作ってもらって冷凍するとか?」


「凹むわ!」



 他愛もない会話の中で実千代は病気のことなど考えずにずっと笑っていられた

 矢部はそれに気付いていてずっと乗り気で会話を続けていたら友達と喋っているかのような気分で時間はあっという間に過ぎてしまった



『相崎さん、矢部さん、楽しいとこごめんねぇ

 5号でお待ちになってますよ』


「行きます!」


『よろしく~』



 ナースコールが詰め所側から使われ艶女な看護師長の声が壁のマイクから聞こえてきた



「やば、あっという間に20分だな

 デザートはちょっと考えといて、作れそうなら作るし無理そうなら盛り付け頑張るから」


「分かった」


「友達とか来るときあったらデザート作りの予行練習でもする?実食出来ちゃうよ?」


「やる!けど受験だからみんな来れるかな〜」


「あ、そうか〜それは難しいね

 暇があるかどうかだな」



 実千代は難しい顔をした



「ちなみに受験のときってどんなだった?」


「うーん、進学校だったから2年の夏から凄いピリピリしてたな〜」


「まぁそうだよね〜」


「じゃあまた来る、今日は楽しかった!こういう企画物大好き

 あ、そうだ!午後リハビリ室からエアロバイク持ってきておくから、2時に自主トレーニングをメニュー通りやってみて

 今日の食事から低糖質、ちょっと高タンパクになってるから頭ボーっとしないように動くこと!よろしく!」


「え!マジでトレーニングすんの?」


「うん、運動不足解消と半分は体温上げての風邪対策も兼ねてるからちょっと頑張って!30分で終わるしエアロバイクはスマホ使ってて良いからさ、明日感想教えて」


「分かった」



 サササーっと矢部は部屋を出ていってしまった


 部屋に残されたのはA4のコピー用紙に書かれたフルコースメニュー、盛り付け図に食材、調理手順もボールペンで書かれていてデザートのところには『チョコ?チーズ?プリン?肉のソース次第か?』とメモ書きが残っていた



「シェフかよ」



 と実千代は突っ込んだあと、ナースステーションに色鉛筆を借りに行き色塗りをしながら笑顔が絶えることはなかった





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