021 プロポーズ
「死んだんじゃないのか?」
「死んだよ、でも未練がまし〜ぃ人が居たから化けて出ちゃった」
普段着の実千代が微笑みかけてくれた
矢部は夢だと気付いたけどそのまま夢枕を楽しむことにした
「ヒロ」
「大好きだ、もうずっと前から
最初から一目惚れしてたんじゃないかって思うくらいに」
「それは無かったなぁ〜
多分だけど好きになったのって昔の彼女の話をして私がリハビリしてあげるって言った頃だと思うよ?」
「もっと早い、俺の描いた食事の絵に色を塗ったのを見たときだと思う
俺のイメージより美味しそうだったんだ、その時かな、あぁこの娘と一緒にご飯食べたいなって本気で思ったんだ」
「そんな前なの!?えぇ〜逆にちょっと引いたわ」
「引かないでぇ」
「そういう抜けてるところはイマイチ」
「すみません」
「よろしい」
矢部は尻に敷かれるタイプだ、むしろ心理的にも物理的にも敷かれたいとすら思っている
「あとはなんと言っても焼きそばだな、大事に育てて貰ったんだなって、愛情が溢れてたんだ
ずっと一緒に居たい、俺も幸せになりたい、幸せにしたいって思ったよ
でも中々にね、医療職の枷と年齢差がさ」
「うーん、まぁねぇ分かるよ?
患者と治療者で、32歳と17歳で手出したら犯罪だからね」
「そこ!」
「でもさ、すでに入院中から手出してたわけじゃん?証拠写真も撮ってたし、犯行現場のさ!」
「現行犯だからな」
「そう、もうそんな壁なんて取っ払ってるのかと思ってたわけよ」
「うん」
大変に申し訳ないとも思っている、色んな意味で
「ギャル友達がギュッとしてムチューはサイコーって言ってくれたのにな」
「まぁね、それは100点
最後の一言よく聞き取った!120点
でも意気地なしマイナス20点」
「厳しい」
「厳しくねえわ!こっちは死んでんだぞ!」
「すみません」
「デートしてキスしてお泊りで初めてを済ませて友達に「やっぱり初めては痛かった」って送る妄想までしてたんだから!」
「痛くないかもしれないよ?」
「それでも送る」
「ウソじゃーん」
「だって最初人はヒロって決めてたから」
「それはごめん、今からじゃダメかな?」
「死んでっぜ?キンキンに冷えてるけど凍らん?」
「凍るだろうな」
「だからさ、私のことは忘れないで欲しいけど新しい人ちゃんと見つけてよ?それでヒロが死んだらちゃんと私に報告すること!前の彼女見つけといてやるからさ」
「絶対愚痴大会になるわ」
「だとしてもよ、嫁になるはずだった2人が待ってるなんて最高でしょ?あの世で一夫多妻するかもよ?」
「それは大歓迎!いやいやそうじゃなくて」
「お土産話なしで来ないでね、絶対だよ
このくらいの約束は守れるよね!」
「おう、分かった、守る
守るからもう少し、もう少し話を続けられないか?」
「もうそろそろかな、お迎えまではずっと一緒にいるからね」
「ずっと一緒だぞ!」
涙が溢れて拭き取ったときには笑顔の実千代は白無垢姿になっていた
寝ているだけ、でも微笑んだまま、矢部の涙が実千代の目に落ちてまるで今泣いたかのように跡をつけた
「ミッチー、ごめん、ありがとう、ずっと大好きだよ」
と、目が覚めた場所には棺と両親の寝ている布団があった
「ん?どこ?」
見渡せば棺には保冷の機械が繋がっており、夜通しの線香を焚いている家族控室だった
自分の寝ている頭元のテーブルには4・5人前のお寿司の箱とオードブルが置いてあり『矢部さん起きたらご自由に食べて』と書いて置いてあった
スマホを見れば4時、朝飯かなと思いながら食べ始めると意外と食べられた
6時になると両親も起きて葬儀場で用意された簡単な食事を食べて告別式の準備を始めた
「お邪魔してすみません」
「ビックリしたわぁ、ビール半分で寝るんだもの」
「すみません」
「良いのよ、下戸なのに飲まされたんだもの
今日は最後まで付き合ってくださいね」
「はい」
葬儀、告別式、出棺と時間が過ぎ昼食時には住職と両親に混じり4人目として気まずい参加
拾骨に行くと驚くほどに骨が砕けていて癌の転移の辛さを実感した
しっかりと残っていたのは右膝から下と顎、右腕程度で背骨も骨盤もスが空いていて脆かった
両親は小さい骨壺に納まった実千代を抱えて帰宅、矢部も自分のアパートにタクシーで戻ってきた
いつもの部屋
いつもの生活
またいつもの仕事
彼女の居ない世界はつまらないみたいだ
「デートでも行こうか」
ポストに投げられていたチラシを見てそう呟き、心の中のミッチーとドライブデートをするために車に乗り込んだ
連続短編
恋が実ってハッピーエンド、死が二人を分かつまででした




