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018 退院


 実千代が退院する日、病棟スタッフに脳外科の川内医師、内科の田丸医師、婦人科の医師まで詰めかけての退院セレモニーとなった

 緩和ケア病棟から歩いて退院する人は極稀というより初めてかもしれないくらいの珍事だったし、それぞれに思い入れが強い患者だったこともあり盛大に見送りに家族も実千代も驚きだった


 実千代は医師と看護師に挨拶と握手をして最後の方にいた矢部のところで握手を避けて抱きつき耳元で「ドッキリ大成功」と囁いていたずらな笑顔を見せた



「ありがとう」


「頑張ったね」



 女の子の表情を見せた実千代は一歩横にズレて矢部の隣で両手を広げてハグの体勢をとっていたGGの目の前に立った



「GGさんもありがとう」


「ハ、ハ、ハ、ハグは?」



 さらっと手を握って横に一歩動き調理師さんの手を取って挨拶をしてエレベータ前に行ってしまった


 そして矢部と名残惜しそうに実千代を顔で追いかけるGGの元に両親が来た



「矢部さん、豪さん素敵なお祝いありがとうございました

 一生思い出になりました、できるなら来年も一緒にずっと一緒に…」



 お母さん涙は止まらず溢れて何故か矢部を抱き締めた


 矢部を見るGGの目がバッキバッキで圧が強い、痛い



「ごめんなさい、弱気を吐くところでした

 一秒でも長く一緒に居られるようにするつもりです、GGさんもいつでも遊びに来てください、料理男子大歓迎ですからね!」


「これからは私達の目の届かないところですのでご家族の協力が大切です、でもいつも通りの家族で過ごしてください

 家族に変に気を使われると居づらくなっちゃいますし親御さんも大変ですのでいつも通りでお願いします」


「はい」



 お父さんは両手に荷物で頭だけ下げていったが矢部には軽くメンチを切っていった


 GGのバッキバッキの目が本当に痛い



「では皆さん、お元気で」

「お世話になりました」

「ありがとうございました!」



 実千代達は深々と頭を下げてエレベータに乗り込んで帰っていった



「矢部さん、ちょっと」


「師長さん、何でしょうか?」


「奥さんに手、出してないわよね?」


「出してないです!師長さんになら」


「うん、要らない、働け?」


「はひぃ〜」



 その日は皆が上機嫌で働いた


 夕方の仕事終わり、実千代からメッセージが入っていた



『ただいま、帰りました

 いつもの家、いつもの自分の部屋

 でもヒロが居ないことが寂しいよ

 会いに来て?待ってるから』



 そんなメッセージが帰ってすぐの時間に送られてきていた

 住所は入院中に聞いていてよく通る道の近くにあることも知っていた



 行きたいけど行けない

 行く勇気が出ない

 行ってしまったら後戻り出来ない

 なによりも…



「もう何も失いたくない」



 矢部は歩いて自宅のアパートに帰ってきて部屋に入ることもなく自分の車に乗り込んだ

 車は古くなったものの高級ミニバン、空間は広く静かで振動も少なく整備も行き届いた1台だ


 車は運転席に人を乗せたが発進することなく黙ったまま止まっていた



 なにもせず、自然と離れた方が…


 でも最後の瞬間まで見届けたい



 考えるより体を動かそうととりあえず車を走らせて実千代の家の近くまで行く、高速道路のETC入り口がありよく通っている道沿いにそこはあった



『着いたよ』



 実千代の家の近くの空き地前に車を止めてメッセージを送ると2階の窓が開いて手を振る女の子が見えた



『車デカい』



 どうやら見つけてくれたらしい

 ただ家からは出てこない



『まだ出てこなくて良いよ』


『ごめんね』


『大丈夫、顔を見れただけで』


『ありがと』



 簡単なやりとりをして手を振って別れた


 矢部は帰りの車の中、距離が離れるほど心が締め付けられたが何故か気持ちは晴れていてむしろ清々しい気持ちで家に入れた


 実千代は窓から矢部の車が見えなくなるまで見送ったが胸の苦しさを自覚した



 私のわがままに応えてくれた


 来てくれた


 でも、私でいいのかな


 絶対に私の方が早く居なくなるのに


 もっと長く生きたい


 死にたくない



 窓を背に腰を下ろすと自然と涙が流れた


 溢れ出る好きの気持ちとは裏腹に悔しさと寂しさで胸が締め付けられ、声を押し殺し疲れて眠るまで涙が止まることは無かった



『ミッチー大好きだよ

 ドライブデート楽しみにしてる

 おやすみなさい』



 そのメッセージに気づかない程に実千代は眠り続けた



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