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001 死の宣告

新連載、短めです


「もう実千代さんには治療方法が有りません

 今後は痛み止めを使って苦痛を和らげながら過ごすことをお勧めします」



 脂の乗った50代前半くらいに見える川内という名札を付けた医師は頭を下げた、表情はボーカーフェイスではあったが苦々しさが滲み出ているのは誰が見ても分かるほどだ

 医師の横には病状説明の記録をする医師事務と病棟の看護師長に看護師が1人ずつ、医師の前には若い女の子とその母親と父親が座っていた

 当の本人は右の腹部を擦りつつあっけらかんとした表情をしていたがその右に座る父は下を向き涙を堪えながら親指を潰しそうなほど握る手に力を込めて押し黙った

 母親は一度放心し無意識に涙を垂れ零しながらバッグの紐を強く握り口を開いた



「それは此処ではという話ですよね?」


「当院はこの地域の中核病院でがん拠点病院です、県内では恐らくここ以上は無いと思います」


「県外ならどうですか?T大付属の病院とか!?」


「私はその病院に籍を置いておりますがそこで出来る治療も当院で実施させていただきました」


「じゃあ海外は!?」


「おそらく体力が保たないかと」


「そんな…まだ17ですよ、まだ若いし体も動くんです、もっと何かを、何でもしてください」


「抗がん剤に耐性ができてしまったこと、分子標的薬を使っても転移が抑えられず拡がったこと、肝臓に転移して薬を使用しても代謝ができなくなってくたこと、放射線は回数限界までさせていただきました、白血球も数値が落ちて風邪を引きやすい状態ですので外に出るということがオススメできません」


「この病院から出られないということですか?」


「当科に入院している間はそうなります」


「そんな…」


「そこで一つ提案があります

 当院には緩和ケア病棟というところがありましてそこでは出入り自由ですし面会の制限もありません

 馬鹿騒ぎでも起こさない限りは特に咎めることはないと思います」



 実千代は目が落ちそうになるほど大きく開いて川内をと目を合わせた

 実千代の反応を確認した川内は一拍置いて話の続きを始めた



「ですが治療しないということが前提になります

 風邪薬程度の処方や便秘の薬、痛み止め等は使用できますが病気の治療に使う強い薬は使うことができません」



 実千代はそんな苦しい薬はもう嫌と思っていたので風邪を引きやすくなっているということも何処かに置き忘れて自分の欲求に従順になった



「ねぇ先生、それって友達呼んでも良いってこと?」


「はい」


「白血球の数値が上がるまでは病院を出られないけど招くのはOKってことか…売店は?」


「緩和ケアの先生が許可してもらえればね」


「マジで?やっほー!」



 入院してから今まで一番の笑顔だった

 実千代はお腹の痛みなど何処かに行ってしまったような感じがしていた



「緩和ケア病棟の担当の先生と面談してサインを頂かなければまだ移れません、もう少しの間だけ部屋で待てますか?」


「待てる待てる〜」


「では詳しい説明をご両親に説明するので部屋に戻っても大丈夫ですよ」


「先生ありがとう

 パパ、ママ部屋で待ってるねー」



 実千代はスマホでショートメールをブラインドで打ちながら病棟のカンファレンスルームから出ていった



「では、ご両親には辛い話をさせてください」


「はい、覚悟はしてきました」



 お父さんが涙と鼻水に汚れた顔をハンカチで拭って重い口を開いた



「残された時間はあと僅かです

 この前とった全身のCTで脳へ多数の転移が見つかりました

 最も大きいもので30mm、脳幹と呼ばれる基本的な呼吸や心拍を司る部分に浸潤、圧迫して居ます

 3ヶ月前はここまで大きく有りませんでしたし本当に小さい状態でした、このままの速度で大きくなれば長くて2ヶ月程度、短ければ何日という可能性も有ります」


「そこまで?3ヶ月前は2年くらいって言ってたじゃないですか!」


「脳にこんな大きな腫瘍はありませんでした

 それに1年生存率は3割、2年となると1割未満とお話していたと記録しています」



 お父さんの大きく開いた目からは留まることなく涙が落ち続けた



「そんな時間でどうしろと言うのです?

 まだ高校3年生の夏なんですよ、卒業式は?受験は?結婚は?孫だって…」


「お母さん、残念ですが出せる手は出し尽くさせていただきました」


「あぁぁぁ…」



 お母さんはお父さんの手を強く握って力なく肩に寄りかかった



「緩和ケアというのはどういったことをしてもらえるんですか?」


「お父さん!」


「もうお互い苦しむのは終わりにしよう

 薬だって楽なものじゃないんだ、闘病という言葉になるくらいに闘わなければならないんだ

 2年闘った、先生も一緒に闘ってくれた、もう良いじゃないか、休もう」


「ううぅぅぅ」


「先生教えてください」



 お父さんは頭を下げた



「分かりました、佐藤先生呼んで待機してるはずだから」


「はい」



 看護師が院内スマホで佐藤先生をコールした



「すぐ来られます

 ご両親にお話して同意を得られたらそのままお部屋で一緒に話をしたいそうです」


「そうしてもらおう、少しお待ち下さいね」



 押しつぶされそうなほど重たい空気が部屋を支配していた




1日1話投稿 1ヶ月もせずに終わります

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