第六話 森ヨシ成とダグゥド
未来城では総勢五百名という大規模な遠征軍が編成された。城の兵士だけでは足りず、農家からも徴兵されたようだ。
当然、僕も出陣する。64式小銃を担ぎ、警備員の制服に自衛隊の半長靴。腰には銃剣として魔剣ロンギニスを下げていた。
遠征軍が向かう先は『カルヴァリー平原』である。目的は『聖なる救世主』の復活の確認と、殺害。軍の総司令は、父の跡を継ぎ『武将』となった、平手ユリ奈だった。
出陣するユリ奈は、黒い甲冑に黒い馬。肩には、あのカラスが止まっている。
そして、追放されていた前田イヌ千代も呼び戻されて、参陣していた。
この遠征軍には、森ヨシ成という『武者』がいた。ヨシ成は、大柄のイヌ千代より、さらに体躯が大きい強者だ。未来城の古参武者で、武器は巨大な十文字槍。
「我、無双の兵なり」
と、豪語するヨシ成は、青い甲冑を身に付けて『青の巨星』との異名で呼ばれている。
対抗心をむき出しにするイヌ千代は、行軍中に、僕を相手にして、
「あれは『アホの虚勢』だ」
などと言ってバカにしていた。
遠征軍が未来城を出発して三日目に『江羅の谷』で、鬼との交戦があった。
この江羅の谷の鬼は、小規模であったが、石を積み上げて『砦』を築いている。
「鬼が砦を築く事など、今までにはなかった」
と、藤キチ郎も驚いていた。そして言葉を続ける。
「だが、規模は小さい、あの砦だと鬼の数は、せいぜい二十匹か」
ユリ奈は、未来城のナナ緒に『砦』の存在を報告するためにカラスを飛ばした。カラスは伝書鳩のような役割もするようだ。
その『小さな砦』を遠征軍は大軍勢で取り囲む。
五百人対二十匹。多勢に無勢だ。
しかし、戦闘が始まると、無勢の鬼は『砦』という拠点を有効に活用して戦った。
この石の砦は、弓矢の攻撃を無力化する。砦の攻略に苦戦する遠征軍。僕の64式小銃の弾丸も、石の壁に跳ね返された。
それでも、あの『青の巨星』森ヨシ成は、果敢に大型の馬を駆り、砦の正面に躍り出る。
「我こそは、我こそは!」
騎乗での大音声。
「未来城、無双の武者、森ヨシ成!」
名乗りを挙げた。
イヌ千代が小声で、
「自分で無双とか、言うなよ」
と、言ったのを、僕は聞き逃さなかった。
「鬼どもよ。このヨシ成に、一騎討ちを挑む、勇者はおらんのか!」
その挑発で、砦から一匹の鬼が出てきた。その鬼は痩せていて、他の鬼より、一回り小さい。
「あれは、二十歳くらいの仔鬼だな」
と、藤キチ郎。
平均寿命が120歳の鬼は、人間よりも成長が遅く、三十歳くらいで成人になるらしい。
仔鬼はヨシ成の正面に立ち、
「我ノ名ハ『ダグゥド』イザ、尋常ニ勝負!」
「仔鬼の分際で、笑止な」
ヨシ成が嘲笑った、瞬間。
ダグゥドは石を投げつけた。
ガツン!
石は頭部に直撃。馬から転げ落ちるヨシ成。
冑が真っ二つに割れ、頭から大量の血が流れた。
それを合図に、砦から投石の一斉攻撃。
「うあっ」
「な、何だ!」
雨のように降り落ちる投石。
混乱する兵士。 強者のヨシ成が、一投で討ち取られたことも、兵士たちに動揺をあたえたようだ。。
ユリ奈は、一旦、兵を退いた。賢明な判断だろう。
その夜。遠征軍はエフェスの平原に野営した。
ユリ奈のカラスも戻ってきて、ナナ緒からの命令書を運んできたようだ。命令書には、
「何としてでも砦を陥落させよ」
と、記されていたという。
陣の中、かがり火の下で、イヌ千代は僕に言う。
「ヨシ成は、あのまま死んだらしいな」
そして、言葉を続けた。
「今頃、ヨシ成の肉は、鬼に喰われているだろう」
そこへ藤キチ郎が現れる。
「これを見ろよ。これは、ヨシ成を殺した投石だ」
と、一個の石をイヌ千代に渡す。
「お前、そんなもの、拾ってきたのか?」
やや呆れるイヌ千代。
「まあ、いいから良く見ろ」
その石は『円盤型』に削られているようだ。
「今までに無い形だな」
「そうだ。この形状だと、飛距離も威力も倍増する」
その石をジッと見て、イヌ千代は、
「こんな物を使う鬼は、今でいなかった」
「厄介なことになりそうだな」
と、藤キチ郎が言葉をつなけた。




