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第三話 人類の起源について語る藤キチ郎

未来城の周辺には、農耕を営む村落が点在していて、水田や畑が広がっていた。


この世界の人々は、九割以上が農耕に従事している。その農耕社会を統治するのが『未来城』の城主・織田ナナ緒であった。


統治者の主な役割は、村落間の争いの調停と、地域の治水管理、そして鬼からの防衛である。


このためナナ緒は、未来城に多くの人を集め、兵士として養っていた。


城内の兵士は、夜になると酒盛りをする。それが大きな楽しみだった。


この夜。僕は木下藤キチ郎に誘われて、酒盛り場で酒を飲んだ。


酒盛り場では、今夜も多くの兵士が酒を飲んでいる。


藤キチ郎は小柄のためか、武力は、あまり強くない。だが、知力の高い武者であった。彼は知識が豊富で、それに加えて頭の回転が早い。


その藤キチ郎が酒を飲みながら、鬼と人間の歴史について語ってくれた。


「あまり認めたくない事実なのだが、我々、人類の起源は、鬼の手によって作られた家畜なのだよ」


「人類が家畜!」

異世界のことであっても、これはショッキングな話だ。


「太古の鬼が、繁殖力の強いオスの猿人『アダムロピテクス』と、体の大きなメスの原人『イブエレクトゥス』を掛け合わせて、食用の家畜として『人類』を造り出した」


「食用として、ですか」

これも衝撃的な内容である。


「そう、食肉を安定的に確保するために、鬼は『人類の牧畜』を始めたようだ」


「酷い話ですね」


「牧畜を可能にするためには、限られた場所で、大量に飼育する必要がある。だから鬼は、人類のなかでも『穏やかで協調的な個体』を選別し、繁殖させて家畜化した」


「あまりにも酷すぎますよ。それは」


「しかし、そのお蔭で、我々人類は協調性が高く、大規模な集団を形成することが可能になったのだが」


「それが人類の社会性の始まりですね」


「まあ、内容が内容なだけに、信じない者が多い。イヌ千代なんかは、全く信じようとしかったしな」


「でも、それは事実であると」


「そうだ。学者の間では、これは常識だよ。鬼は元々、あのような蛮族ではなく、優れた知能と高い身体能力を持つ『世界の支配者』だったのだ」


「それが、なぜ?」


「理由は解らないが、約三万年前から、鬼は無気力になっていったようだ。それまでの鬼は、知的で勤勉だったらしい」


「鬼は無気力になり、衰退した?」


「そうだ。最盛期の鬼が『高度な文明』を有していたことは、遺跡からも解明されている」


「鬼は文明を放棄したのですか?」


「正しく言えば、文明を維持することを放棄したらしい。無気力な個体が増えて、大多数が働かなくなれば、高度な文明は維持できない」


「それは、そうですね」


「鬼の社会では、家族を持たない個体が増えたので、子供の数も急激に減った。極端な人口減少が起こったようだな」


「それで生き残ったのが、今の鬼ですか?」


「文明を棄てれば、必然的に野蛮で攻撃的な個体が生き残る。そうした個体は互いに争い、殺しあう。だから、より野蛮で攻撃的な個体が、後世に残るのだ」


「悪循環ですね」


「そして鬼は、人類を家畜として飼育することも止めて、野に放ち野生化させた。そして、それを捕らえて食うようになる」


「その野生化した人類が、つまり、あなた方の祖先というわけですか」


「そうだ。人類は、自分を補食する鬼から、身を守るために知能を発達させ、弓、槍、刀などの武器を開発して、今では鬼を討伐するようになった」


「それが、鬼と人類の戦いの歴史ですね」


「そうなのだが、まあ、今さら討伐などしなくても、やがて鬼は絶滅する」


「そうなのですか」


「鬼の寿命は120歳くらいだが、今の鬼の平均年齢は百歳を超えている。個体数も千匹以下だ」


「鬼の数は、僕が思っていたより、かなり少ないですね」


「人が鬼に補食される件数も、年間で百人以下だしな」


「では、なぜ討伐を続けるのですか?」


「やはり、少数とはいえ、補食されることには恐怖を覚える。人は鬼が絶滅するまで、安心することはできない。だから全ての鬼が死に絶えるまで、討伐を続けるだろう」

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