第十話 ディベリアス湖のエルニーニョ
カルヴァリー平原には、巨大な都市の遺跡が残っていた。
廃墟と化していたが、その遺跡は、僕の目から見ても『近未来の都市』のようだ。ほとんどが倒壊していたが、複雑な形状の高層建物が、整然と並んでいた跡が残る。
この廃墟の都市の所々に、三百匹を超える鬼が棲んでいるらしい。
あの『月にまで行ける』高い塔は、都市の中心にあった。
遠征軍は、ここでエルニーニョを捕縛するために二十人の捕縛隊を選抜する。部隊の指揮官はイヌ千代だ。僕も、この捕縛隊に編入された。
夜が明ける前、カルヴァリー平原の鬼が、まだ寝静っている頃に、捕縛隊はイスカリオを案内人にして出発した。
部隊は、カルヴァリー平原の都市を迂回して進み、ディベリアス湖を目指す。そして、ちょうど朝日が昇る頃に、ディベリアス湖の湖畔に到着した。
湖面がキラキラと日の光を反射する。
その湖の岸に、漁船を係留している場所があり、湖岸に質素な漁師小屋があった。この漁師小屋に、エルニーニョは弟子たちと棲んでいるらしい。
イスカリオも、かつては、その弟子の一匹であったという。
「お前、本当に信用していいのか」
と、イヌ千代がイスカリオの目を見る。
「私ヲ信ジテ下サイ」
「よし、わかった」
イヌ千代は、そう言った後、真っ先に走って、漁師小屋に向かった。
ドカン!
小屋のドアを蹴り開け、突入するイヌ千代。
捕縛隊の二十人が続く。
ダダッ。
と、小屋の中に、なだれ込むと、鬼たちは朝食の準備をしているようだった。
奥に、一見して『神々しい』鬼が座していた。あれが『エルニーニョ』なのだろうか?
僕は、そのエルニーニョを64式小銃で狙った。
ババババッ、ババアーン!
連射する。
二匹の鬼が、エルニーニョの盾になり、弾丸を浴びて、倒れた。
小屋の中にいる鬼は、全部で十匹くらいか。他の鬼は銃撃に驚き、エルニーニョをおいて、小屋の外へと逃げ出した。
だが、一匹の鬼が残り、調理用の包丁を手に、向かって来る。
「グオォーッ」
吠える鬼。
ザシュ。
一人の兵を、包丁で斬りつけた。
「止メナサイ」
エルニーニョが制止する。
「武器ニ頼ル者ハ武器ニ滅ビル」
「シカシ」
「良イノデス」
包丁を持った鬼は、今度はイスカリオを睨み付け言った。
「裏切ッタノカ」
イスカリオは視線を反らして、黙している。
「ソレモ、良イノデス。彼ハ『成スベキ事』ヲ成シタ」
エルニーニョは、そう言ってから、僕たちの方へと視線を向けて言葉を発した。
「サア、私ヲ捕ラエナサイ」
エルニーニョを捕らえた捕縛隊は、カルヴァリー平原の都市の中心部へと向かう。あの高い塔のある場所だ。
そこでエルニーニョを処刑する計画である。
エルニーニョを処刑すれば、カルヴァリー平原に集まった鬼たちは、戦わずして屈服すだろうと、イスカリオは言っているのだが。果たして、どうなるか。