第一話 未来城こちら
「人は誰もが、皆、異世界への道を歩いている」
だが、それに『気づく者』と『気づかない者』がいるのだろう。
僕は24時間勤務(警備員)の仕事帰りに、梅田の地下街を歩いていた。そこで、奇妙なポスターを目にする。
『未来城 こちら →』
と、記されていた。
「未来城、なんだろう?」
僕は何だか気になり、矢印の方向へ進む。
すると、いつの間にか、この『異世界』へ、迷い込んでいた。今、ここは雑木林のなかである。
「これから僕は、どうなるのだろう」
当然、僕は不安になった。
そこへ、
ガサッ、ガサリッ。
と、林が音をたてる。
そして、突然、
グアッ!
と、一匹の怪物が飛び出し、襲いかかってきた。
「グオォーッ!」
吠える怪物。その手に持っているモノは、金属の棒か。
「な、なんだ!」
とりあえず、僕は走って逃げる。
怪物の頭には二本の角。虎柄の毛皮を纏っている。鬼か?
その時、
「鬼だョ。鬼だョ」
誰かが言った。
バサバサと一羽カラスが、目の前を飛んだ。
「鬼だョ、鬼だョ」
言っているのは、このカラスだ。
『鬼』はヒグマのような大きな体をしていたが、足が速い。追い付かれた。
僕を殺す気か。金棒を振り上げる鬼。
「やられる」
と、思った瞬間。
ヒューン。
矢が飛んできた。
「ギャアッ」
矢は鬼の額を貫き、一発で絶命させたようだ。
矢を放ったのは『黒い馬』に騎乗した『黒い鎧』の武者。
先程のカラスが、その武者の肩に止まる。
「私は、平手ユリ奈と申します」
女性の声だ。兜を外すと、眼光は鋭いが、かなりの美人だった。
「た、助かりました。ありがとうございます」
「異世界から来た方ですか?」
「はい、そうだと思います」
「では、未来城に、ご同行願います」
ユリ奈は強い口調で言う。その言葉には、拒否はできない圧力があった。
こうして僕は、まるで大阪城のような外観をした『未来城』に、連れて行かれたのだ。
未来城には多くの兵士(戦国時代の足軽風)がいる。
「あれが異世界人か」
「意外に頼りないな」
「あんな奴で大丈夫か」
皆、口々に勝手なことを言った。
それでもユリ奈は、僕を城主の御前へと案内する。
この城主も美しい女性だった。
「私は、織田ナナ緒」
きらびやかな着物を着ている。
とりあえず僕は名を名乗り、深々と頭を下げた。
「あなたは、これを使えますか?」
ナナ緒の手には『64式小銃』がある。
勿論『元自衛官』の僕には、馴染み深い銃だ。
「はい、使えます」
それ以来、僕は未来城の兵士として、64式小銃を武器に『鬼狩り』をしている。
この未来城の兵士は、司令官を『武将』
その部下の指揮官クラスを『武者』
最下級の兵卒を『足軽』と、区分していた。
僕の身分は、残念ながら『足軽』だ。
敵である『鬼』は身長三メートルほどの蛮族。人間を『補食』する恐ろしい存在である。
その日も僕たちは、鬼を狩るために『討伐隊』を編成して山に入った。
この討伐隊の指揮官は『武者』である平手ユリ奈。
武者は馬に乗り、甲冑を身につける。部下である足軽を率いて、戦闘を指揮するのが役目だ。
黒い馬に乗り、黒い甲冑姿のユリ奈の肩には、今日もカラスが止まっている。
今回の討伐隊には、二人の武者が応援として参加していた。大柄の前田イヌ千代と小柄の木下藤キチ郎だ。
率いた足軽は12名。
討伐隊は戦国時代のような格好をしていて、武器は、槍、弓、刀。
だが、僕の武器は『64式小銃』で、服装も何故か勤務先の『警備員の制服』だった(ただし靴は自衛隊の半長靴を着用)
総勢15名の討伐隊は、山中を進む。
僕は64式小銃に弾丸を装填、安全装置を外した。筒先に銃剣を着剣する。
すると、突如。
ザッ、ザザッ。
鬱蒼とした木々の間から、何かが飛び出してきた。
鬼だ。
「敵襲!」
藤キチ郎が叫んだ。
鬼の数は、五、六匹か。
「散開、応戦!」
ユリ奈が部隊に指示を出す。
足軽は槍を振り回し、戦った。
数は、こちらが多い。だが、鬼は個々が強いのだ。鬼の武器は金棒。怪力で、それを振り回す。
ガゴツッ!
と、早々に頭部を砕かれた足軽がいた。おそらく即死だ。
「ま、マジか」
「強すぎる」
足軽たちは逃げ腰になる。
「怯えるな、前へ出ろ!」
イヌ千代が怒鳴り声を上げた。
僕は銃の引き金を、引く。
ババババハアーン!
「ウガアァッ」
連射をあびて、一匹の鬼が倒れた。
その瞬間、
「グアーッ!」
別の鬼が襲い来る。金棒の攻撃。
ブオォーン。
僕は金棒の一撃をかわす。
「いやぁーっ!」
飛び込んで、銃剣で刺突した。
グサリッ!
鬼の胸を一突き。
その背後から、イヌ千代が朱色の槍で突き刺し、止めを刺した。この戦闘では二人の足軽が殺される。討ち取った鬼は三匹。あとは逃げられた。