#9 結びの時に和解と花束を。
〈どうなった!?〉〈生きてる!?〉〈こんなので妖精伝説終わったりしないよね!?〉〈死んじゃやだあああああああああああ!!!!〉
閃光と阿鼻叫喚に包まれた配信画面。
煙と別の白で覆われた事態に、コメント欄が不安で満たされる。
しばしの沈黙。二つほど前の時代なら放送事故だ。
しかしやがて、視界が晴れていくにつれ…………
「……………………ケホケホッ。あー、しんど」
爆発アフロで黒い煙を吐いてみる、あたしの姿が映し出される。
当然だけど、あたしも道連れの技を撃ったワケじゃない。予定どおりに敢えて炎に巻き込まれたのだ。
逃げるためだけの火薬でも、自分で大ダメージで苦しんだのだ。神獣を倒すほどの爆発なんてした日には、鎧の上からでも衝撃で潰れてしまう。
だからさっきのは、言ってしまえば。
『……おワラいブタイの バクハツオチか…………ての、クソッタレ……』
そう返すは、同じく黒くを被った神獣エゴイズムさまだ。
取り巻きはまるっと焼けきったけど……やっぱり本体サマは無事だ。
そりゃあそうだ。最後の一撃はド派手なクラッカーみたいなもの。密度からっぽの薄い炎で、仮にも神みたいとされる獣が負ける道理はない。
あたし達はただ、苦労して発見した安全地帯で、取り巻き達が燃え尽きるまで頑張ってしがみつき続けただけだ。
あたしと同じく煙を吐きながら、むくり気だるげに起き上がり睨む……主にあたしの胸らへんを恨めしそうに。
『とんだウソつきめ。 くずれかけたハズのそのいしょう いちごうクンののうりょくでヌイなおしたな……?』
「にゃっはは……まあね。あたしも放送事故は嫌だし? みえそで見えないのが良いってもんでしょ」
『そりゃドウイしかないが…… トウジシャになるとなァ……』
きっちりあつらえ治してゴキゲンのあたしに対し、不満タラタラのエゴイズム。
さっきので決着だと思ってたのに、思い切り肩透かしを食らってるのだろう。
『んで? たちあがったケドまだまだやるってのか? どーすんのおじいちゃんまだ ピンピンしてるけど。 どうしてくれるんだよ このクウキをよォ』
「あたしももーちょいやれるけど、もうキメ技がね。実をいうと『必勝の技』なんてものはハナから持ってないんだよね、あたし」
『えぇ……そーいやスカカースくんを ぶったおしたときも 水場のステージギミックみてぇなので たおしてたっけな……』
観ると戦うは大違いなのか、ドン引きしまくるエゴイズム。
まあ、狙ってそう思わせてるのだけど。
とここで、騎馬役をやってくれてる一号サマから小声の指摘が入る。
(二号、登録者数を見ろ)
へ? と手元のカメラ花を見やる。
そこには。
〈生きてて良かったぁあああああ……!〉〈やっぱ妖精騎兵サマ最強よ!〉〈でもコレこの後何やんの……?〉〈まだ手のバケモンと戦うとかアニメ版ドラ○ンボールかな……?〉〈いやまじ……大丈夫???〉
視聴登録者数……98700
「あ…………ありがとねぇ、でももーちょい待っててね?」
ちょっと雑に返事してしまいつつ辟易。
復帰を喜ぶ声とともに、目標に僅かに届かない登録者数が表示されている。
金の装備獲得を賭けた目標が、おっしい所でカウントが止まってる。
(ここを逃すと、落胆したヤツらが登録を外すのは確実だ。一度しくじれば、次のチャンスはかなり先かもしれない。
……もう一押しのための脚本、さぞ良いのを持ってきたんだろうな?)
(ないよ脚本なんて。人聞きのワルいコト言わないでよね?)
(オイオイ……しくじるなよ?)
答えるだけ答え、改めてエゴイズムに向き直る。
あたしはいつだってアドリブ主義だ。
「あーのさぁ……」
『なんだい ?』
「空気がうまくないんだったら、もう停戦しちゃわない?」
二ッと微笑んで提案するが、当然エゴイズムは頷かない。
『………… まーたそれか。だからダレがそんなコト……』
「だってもう、戦う気も残ってないでしょ? さっきから襲ってこないし」
ぐっ、とエゴイズムの顔が悔しげに歪む。
最初に予定外の相手と会ったから荒れてただけで……そもそも最初から、サツバツとする予定では無かったのだ。
「ずっと、ずーっと思ったんだ。バカくさいコトやってるなーって。せっかく話せるのに。話が通じるのにこんな事……ずっとココで倒し倒されなんでしょ神獣サマ?」
『だからここらでテウチにしようってか? ムチャいうなっての…… オマエらにはおじいちゃんをかるリユウがあるだろ』
言って、軽く右腕……薬指にあたる部位を振り、戦闘での汚れを払う。
そこだけ。他の部位の煤けがウソみたいに、キラキラ輝く純白が戻ってる。
『みろよ……このまっしろフワフワのけなみをよ。トクジョウでユウヨウ。そのフクだって おじいちゃんのそざいから できてるカモなんだぜ? それがナンドでも ナンドでもよみがえるときた」
「…………」
『そりゃみんなねらうわな。イドのミズくみにくる みたいなもんだよ ここにカりにくるのは…… キミらにとってそれが『アタリマエ』なんだ』
まあ、わかってたことだ。
みーんなゲーム感覚なんだ。
最初に迷宮ができた時から30年くらい。理解を超えた現実を、ずっと頑張ってゲームにあてがってきた。
みんながみんな、壺を割り宝を奪い敵をミナゴロシにする、大昔のゲームの主人公のつもりだった。
それで何とか気を保っていたんだ。
じゃないと、名も無きMOBのように自分が狩られて終わりだったから。
……あたし自身、それが頭から抜け切ってるとは口が裂けても言えない。
「…………だとしても、うまくない」
それでもいい加減やめ時だ。
少しは余裕が生まれ、新時代の文化も定着し、情報共有のインフラも整って来た。
会話が通じると「分かりきってる」相手を絞り続けていい段階は、もう終わらせていいはずだ。
「いっくらなんでも、さ。もーちょい上手くやれるでしょ。あなたに得が無さすぎるし、こっちは損失が多すぎる。
だから……今からでも話あわない? で、お互いが欲しいモノを安全に渡し合う。方法はあると思うんだ……あたしが偉いヒトに掛け合ってもいいしさ」
『フン。みんなのヒーロー、フェアリーライダーズっつっても ハイシンシャとしちゃまだハエヌキていどだろ? そんなケンリ……』
「生え抜きなんてとんでもない。コレでももうすぐ登録者10万人行くんだけど?」
『え、マジで? ……あっホントじゃんスッゲーな オイ!!』
めっちゃ俗っぽく喜ぶエゴイズムに、しっとりと続ける。
「そしたら、自治政府サマから金の装備が貰える。信頼の証……キラキラした所に入れたり、自治政府の上のほうと話せたり、色々できるようになるんだよ……?」
『なるほど? ……だからおじいちゃんの あつかいもカエていけるカモ ってか……だが』
まだエゴイズムの目は冷めたままだ。
『コッチにはセイフなんてない。なのにどこのダレがほしょうするって? おじいちゃんがイキナリ キレないってダレがいえる』
気だるげな問い詰めが迫る。
でも諦めない。
「そうなっても……さ。また何度でも来るよ。条件を変えて、別の交渉を用意して。それでも倒しきることはしない」
『…………』
「何度だって、諦めないんだから……あたしが、アナタの保証になるよ」
『……………………わからない な』
かすかに揺らいだが、ぜんぜん足りない。
『それでキミに ナニがてにはいるんだ、にごうチャン? おじいちゃんもからず ホネおりぞんのクタビレもうけ なんじゃないか?』
「それでもいいんだ」
『……え?』
少し、響いた。
目先の損得勘定……そんなことで折れはしない。
「あたしはさ、世界ってヤツが大好きだから」
『え………………?』
「仕組みがどうとかじゃなくて、有るだけで好きなんだ。あたしがお酒飲んで美味しいって思ったり、友達と話してタノシイって思えるのを……できる限りみんなでやりたいんだよ」
ぐらり、傾く気配にひと押し。
「だから……そこにある楽しさが少しでも増えるなら、あたしは全力であたしを使う」
『────────』
息を飲む音がした。
そこに活路があると信じて。
続ける。
「だからさ。折れないよゼッタイ。たとえここで永遠に戦う事になっても……あたしは諦めない」
行動する。
「何度でも」
『……………………』
行動する。
「何度でも」
『………………………………』
行動する。
「何度でも……あたしはあなたと語り合うよ」
『……………………………………………………………………………………』
いくらなんでも、とばかりに、エゴイズムへぐらぐら響く。
損得くらいは考えただろう。
何度もくしゃくしゃ顔になって。
頭を抱えるようになって。
きっと考えて、考えて考えて考えて…………。
『…………………………………………ハァーーーーァ…………』
やがて。
肩の力が抜けたように脱力し。
『まいった。おじいちゃんの マケだよ』
「ありがと、神獣エゴイズムさま」
ふにゃっとした笑顔が溢れる。
『とんだヒーローだよマッタク。キミのナカミをウタガイたくなるが…… あいにくキミのことはよくしってる』
「えへへー……いつもありがとねっリスナーさま♪」
『よせやい』
照れるエゴイズムさまに、さらにひと押し。
「じゃー……ナカナオリの握手!!」
『ちょっ、マッタクズケズケと……』
こういうのを省くとあとが怖い。
後でオモチャにされないためにも。
『チョウシがイイったらありゃしない。……ホラよ』
「えへー、握手会♪」
すっと差し出される右腕……綺麗に輝く薬指の部位。
『ヤクソクだからな。つぎなんかヤなコトになったら またキテもらうぜ?』
「もちろん! 何度でもドーンと来いだよ♪」
重なる両者の影。
堅く。
堅く、握手がかわされるのだ。
〈すげぇよフェアリーライダーズ!!!〉〈二号ちゃん最高ォ!!!!!〉〈一生推します着いてきます!!!〉〈歴史的瞬間!!!!〉〈フェアリーライダーズ最強! フェアリーライダーズ最強!!〉
「…………おお?」
少なくとも公的には、前人未到の大偉業のハズ。
コメントの盛り上がりとともに、登録者数も伸びて、
伸びて……
伸びて……!!
『……………………おめっとさん、にごうチャン』
視聴登録者数……98700→100000↑!!!!
〈届いた?〉〈やったやった!!〉〈ついにここまで来たぁああああああああああああぁぁぁ!!〉
(やったな、二号……)
くぅぅぅううう……! と、心がウレシイで溢れかえる。
「ありがとう…………ありがとう! みんなのおかげだよっ!!」
心よりの感謝を。
頼もしい仲間たちに贈るのだった。
本日ここにまた一人。
強い決意と信頼を持つ、誉れ高き戦士が完成したのだ。