#6 時代の節目と夜明けへの激突
「なにやってんのさ、リーダー」
「だから元、だっての……ああくそ。雰囲気似てるとは思ってたけど……やっぱアンタだったか……」
息も絶え絶えに、それでも毒づくのはある意味大したものだと思う。
戦いの騒音が鳴り渡る中、どうも気づいてたらしい旧知へ、問うべきを問う。
「なんで……なんでこんなことしたのさ? なんの策もナシに……死んじゃうとこだったじゃん……」
「まあ……その、なんだ…………眩しかったから来ただけだよ。明かりにたかる虫みたいにさ」
「眩しい……って、なにがさ」
干からびた女自重するように言う。
別に死んでも良かった、とでも言いたいかのように。
「……ウチらと契約してた依頼者のメンツが、みーんな新作の火薬で作った武器の部隊……そのテストと差し替えたいって言ってきてさ……おかげで現場は一斉に足切りさ。アンタは、良いタイミングでイチ抜けしたんだと思う」
新作の火薬……そういえば、そんな理由であたしも追放されたっけな……と他人事のように思う。
あたしは、今の顔を自分で見るのに耐えられないだろう。
金属音がズガンズガンと響く。石壁が削られ土塊が弾け飛ぶ。白い毛並みの奥には、誇張抜きに鋼のような肉体でも潜んでいるというのか。
「時代が、変わる」良いことなのに、そうあって欲しくなかったように。「獣共への反撃がようやく始まる……きっとただ倒すだけのパーティは終わる。ただの下働きだったアタシ達はもう、要らなくなるんだろうね……」
「…………」
「だから、さ。これからはきっと、倒すだけじゃないヤツの時代だ…………そう思った時、アンタを見つけた。アンタは、意味があるヤツになれたんだろ……それがなんかさ……まぶしくてってさ……だから、さ』
聞きたくない。
聞くべきでも。
その続きは聞きたくない。
それはあまりに、みっともない。
「アタシもさ、ちょっとでも輝きたかったんだ……アンタみたいにさ」
「……………………」
ちっとも嬉しくなかった。
むしろもっと、逞しくあって欲しかったんだろう。
それも身勝手のひとつだと自覚した。
自覚したら、向き合わなくちゃいけない。
あたしは、あたしが今ここに居る理由を改めて考えた。
考えて。
考えて。
考えて……………………
「…………それでこのザマなら、やらない方がマシだったってヤツでしょ?」
「…………ッ」
考えたあたしは、無意味な逃げを許さなかった。
「誰かに否定されても、要らない人間なんて居ない。ソレをよく知ってるハズなのに、一個の事だけ否定されたから全部ぶん投げてダンジョンに投身…………なんてメイワクだよ。……だって元から、勝てると思って来てないんだから」
「じゃあ、誰が救ってくれるって」自分が無価値でないと気が済まないみたいに。「こんなみすぼらしい馬鹿を、誰が救ってくれるってんだよ! 自分ひとりでも立てない、ロクデナシのコトを!」
「あたしだよ!!!」
「!?」
意地で切り返す。
「あたしが救う。意地でも。めっちゃ酷い目にあったケド。リーダーには色々教わってたんだ。今のあたしがある理由には、間違いなくリーダーが入ってる。だから、今度はあたしがリーダーに教える番。リーダーが知らないコト、裏技とかも込み込みでさ」
「エイ、ル……」
これが本心。
あたしの芯。
身勝手な終わりは許さない。
絶対に、許さない。
「……だから、こんな勝手にくたばるなんて許さない。きっちり生きて働いて貰うんだから」
「……………………」
意思が灯る。
自分を見つめ直す。
暗闇がみるみる小さくなっていく。
あたしは、自分がなぜここに居るのかを考えた。
そうして思考は、果てのない夢でいっぱいに満たされた。
────あとは、夢を現実にするべく戦い前に進むだけだ。
『…………どっこい しょー !!!!!』
そこでヒーローのリミットが来た。
不滅の鎧に守られていても、衝撃までは殺しきれない。
鋼の巨体の猛攻を受け、光は陰りボロボロになっていた。
「かっは…………うっげ……カッコつかないな全く」
「一号サマ…………ううん、ありがとう」
『ぼちぼち いいかなぁ? おじいちゃんもう マチきれないんだが?』
ずしん、ずしんと迫ってくる。
袖にされて怒り気味。
きっとこのままなにもしないなら、神獣サマはあたし以外をミンチにするだろう。
そうはさせない。
そのためにも。
「…………リーダ・フラトップ。取り巻き二人と一緒に、四人目を使い潰して追放すること数十人……あるいはそれ以上」
『んん?』
体験談を交えて語る。
「そこそこ美人で外面は良いケド、ある程度新入りが育つと豹変して重荷や義務を押し付け始める。
頻繁に飲みに誘って酒漬けにしていくくせに、自分もそんな強くなく誰かにおぶさって拠点に帰る日々。ついたあだ名が『子泣きダンベルおばさん』だっけ」
『はっは!! ソイツぁひどい!! ならぶんナグって セイカイなんじゃ────』
「でもその全員が前に進んだんだよ」
はァ? と言いたげなエゴイズムをほっといて進める。
「兵士に、戦士に、花屋やパン屋にだって……そりゃあそこの人はロクなヒトじゃあないカモだけどさ……だからって」
うん? とエゴイズムが小首を傾げる。
「……こーして容赦なくバカスカ倒されると、あたし達滅んじゃうんだよね。こんな人でも、ヒトを見る目育てる目はあったり……イイトコはするし。その辺どう思ってるのカナー、ねぇカミサマ」
『しらねぇよ』
あっさり吐き捨てる。
『しったこっちゃねぇってんだよ。 こちとらしんでもしなない ふじみのミソラだ。 おじいちゃんを たおすってやつは ツキるどころかドンドンわきやがる!」
諦めを込めたような叫び。
線引きが過ぎた物言い。
『いいだろうよ ひらきなおってもよ! いやならこなきゃ いいってもんだ!! どのみち ダンジョンに ルールなんてもん あるかよ!! さあさあ しきりなおしだ! おじいちゃんと アソぼうかぁ !!』
「……………………」
聞くだけ聞いて。
聞くだけ聞いて。
肩の力を抜いて微笑すら浮かべて言ってやる。
「ルールはナシ…………なら文句もナシになっちゃうじゃんさ?」
『はぁ?』
返事は待たなかった。
一撃だけ。本気の爆撃をお見舞いする。
ゴズカシャアアアアアアアアアアアアン!!!
『べぐ〔 〕っ!!?』
なにが起こったのかわからないであろう爆発。
ここまでがウソのような景気の良い音とともに、巨大手袋が壁の奥まで吹っ飛んでく。
めり込んだその隙に、すぅ…………とひと呼吸。
かちり、モードを切り替える。
「────えーっと、お騒がせの詫び代わりに。リスナーのミナサマにちょいと予告をば」
カメラの花に向かってぺこり、頭を下げる。
「────この配信終了後、追加放送としてパーティ#0981764さんことリーダ・フラトップさんとのコラボトークを追加放送いたしますので。チャンネルはそのままってヤツです。ご期待あれ」
「!? ちょっと!?」
勝手に巻き込まれたリーダを後目に二人で向き合う。
視線の先で、がらりと瓦礫を寄せながらエゴイズムが起き上がる。
『いったた……ヨユーだねぇ おじいちゃんに かつのがきまってる みたいにさ?』
「勝つだけじゃない」
もう安心だ。
決意はとっくにみなぎっている。
「あたしだけじゃなく、何倍にも勝ってみせるっての。…………足回り頼むわ、一号サマ!!」
「オーライ!!
取り急いでの策の確認。
「プランNーflat。長期戦になる、覚悟お願い!」
「オーケー、振り落とされるんじゃないぞ!!」
「らじゃ!」
輝きが増す。
右手へと光の力が集まり…………
ぱちり、
「────変形」
合図ひとこえ。
光が縁を描く。
形を成す。
鮮やかに弧を描き、無数に重なりあった果てで…………儚く散る。
その中からは。
────キィーーーーーーーーーーーン…………
きらびやかな天空馬が舞い降りる。
一号サマが馬となり。
あたしを乗せて飛び立つ。
そうして『妖精騎兵』は完成する。
その様子を見て、エゴイズムの細い目が苦笑に歪む。
『そっちがそのキってんなら ……こっちも ホンキでいくぞぉ!!!!』
咆哮とともに、エゴイズムの元へ手下の大判手袋たちが集い始める。
こちらも光を集め、光の武具を作り上げる。
そして。
「さあさここからが大本番。ご観覧あれ! あたし達の乱舞を……華麗なる死闘を!!!!」
ダンジョン最奥。
フロアは熱狂。
護る舞台で、カミサマに挑む聖戦が幕を上げる。
【MISSION!!】超超超絶強敵・神獣エゴイズムを攻略せよ!!!
同時視聴者数28500!!!(HOT!!!)
視聴登録者数91000!!!