#5 神獣の威光と少女の逆光
『はいしん みてるよ ! ようせいきし ってんだよな? ファンなんだよ にごうチャン!』
「いっ…………!?」
────ズゴギャギャギャギャガギャギャギャ!!
ヒバナをあげて異形の特大手袋が迫る。
さんざんっぱら言いながら、ズガンドガンとハエでもたたくみたいに延し掛かる。
どこかを支点にしてるのか、一撃、ニ撃と続く平手打ち。
否、三撃目は握り拳で。
『どーーーーーーーーん!!』
「うぐっ!?」
ずしり、迷宮の底が悲鳴を上げる感覚。
信じられないくらい重い一撃も、一号サマの『力』で作られた鎧は耐えてくれる。
『うぉ かってぇ! ぞうがふんでも こわれない カタさってのは マジだったみたい だなァ!!』
言いつつ転がるように距離を取る。こちらもタイヤに跳ね飛ばされたようにすり飛ばされる。
感心してるが、さすがは神獣。
攻撃の容赦なさもそうだが、ただ真似ただけのスカカースとは語彙力が違う。
『だがカナシイ ねぇ! こんなジョウトウなの つかってやることが シンジュウがり だなんて! にごうチャンが タオしにくるとしって おじいちゃんは…… ガッカリしたァ!!』
「ッ!!!?」
まばたきする間にデコピンの要領の頭突き。
衝撃波を伴う吹っ飛ばしに身体が浮く中、追い討ちをかけるみたいに握り込みの空中コンボ。
「ぎゃっ…………!!」
『つーかまぁーえ たァーーーー!』
さすがに捕まり、握り潰されるかと思ったが……エゴイズムは敢えてそうしない。
どこか返答を待つような間に、あたしも必死で言葉を返す。
「倒すつもりは……なかったんだけど……!!」
『だろうさなァ! そのカッコウ みりゃわかるよ くどきにきたのかい? にあってていいねぇ!!』
「なら!」
『だが さっきの! テキいマンテンの メで ミられちゃ……なァ!!』
「……ッ」
あたしの策を看破しながらも、どこか悲しみを込めた一喝。
全身で振りかぶって、豪速球でエゴイズムの『巣』に投げ込まれる。
ずしり、ずしりと。親指と小指を足にしてエゴイズムが入場する。
『…………そりゃあ こうもするって もんだ。 そのおばさんを ボコったのに キレたのか……
まあ マもワルかったが? しょせん ツブしツブされの カンケイでしたって ワケだ!!』
「…………」
さっき、確かにあたしはエゴイズムに上限の敵意を向けてしまった。
その推測もハズレじゃないけど、それだけじゃない。
大きな声じゃ……まだ、言えない。
沈黙するあたしを不安がってか、配信モードのカメラ花に洪水のようなコメントが流れる。
〈二号ちゃん……!?〉〈大丈夫なの!?〉〈おのれ神獣エゴイズム!〉〈えっ、コレ勝てるよね……?〉
『なんだぁ やかましいなぁー…… あー シンパイするなよ しちょうしゃクン。 にごうチャンは ボコるていどで かえしてやるからさ』
どうやら神獣サマも自前の花での配信がチラつくようだ。
目障りそうに、心底目障りそうにエゴイズムが吐き捨てる。
『…………だが、いちごうクンは ケチャップにしてやる。なんかカレシみたいで ムカつくからな……!』
〈何言ってんだ!?〉〈推すならCPごと推しやがれよ!?〉〈やめてくれェ!!〉〈一号推しだって居るのに!!!〉
「…………ははは」
みんなの言葉もどこか上滑り、返せもしなけりゃココロに入ってこない。
きっとあたしは今、ひどくくだらない顔をしてるんだろう。
真っ暗な感触。
このモヤモヤを晴らさないコトには、どうにも神獣サマに敵いそうにない。
すぅ…………と、空ゲンキたっぷり蓄えて。
「…………一号サマーーーーーーーー!!!」
かるく、カメラ花をパスして頼む。
「ゴメーン…………ちょーっとカメラ任すわ」
「……オッケイ、任された」
無言の理解が助かり染みる。
返事とともに、頼れるヒーローが超特急で飛び立つ。
『おう?』
「そんなにやりたきゃ俺から狙いな。その拳、ちょいと打ち止めにして貰うぞ」
『オイオイ…… どうせなら ココロがオレるまえの にごうチャンと ふれあわさせろ よォ!!!』
怒りとともに、エゴイズムが一号サマとのタイマンを始める。
少し、間ができた。
跳躍みっつ。エゴイズムの巣の入口に戻る。
カメラが音声を拾わない位置で、あたしは旧知の相手に話しかける。
「……や、リーダ」
「…………エイル」
女の名はリーダ・フラトップ。
他でもない、あたしを追放した張本人だ。