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#4 カミサマに挑む騎兵と無謀

「ピヨハロ♪ 定刻通りにただいま放映! フェアリーライダーズだよっ!」


〈ピヨハロ!!〉 〈ピヨハロー!!!〉 〈今日もよろー!!〉




同時視聴者数……13092人


視聴登録者数……82000人




……この時代で、配信家業は貴重なエンタメだ。


なんせ目立つ建物を構えた放送局は軒並み吹っ飛んだのだ。バラエティにドラマ、アニメなんかもまともに作れない……そんな時、相対的に力を増したのが配信者だ。


モンスターは怖くない。少しでもそう思わせる為……また、倒れる自身の軌跡を無駄にしないために、配信者は自分の戦いを配信する。


戦いに挑むための『力』や情報を共有する『写真屋の花』の発見もあり、だいたいの自治政府はこれを推奨。少し前まで流行っていたパーティ制共々、民の希望となっていた。


……っと?


「……十七歩先、小型三匹横並びだ」


「りょーかーい。……ばきゅん♪」


『グエエエエ』『グエエエエ』『グエエエエ!?』


指示通り暗所へ火の玉を放つと、横並びの悲鳴が聞こえた。


近づいて確認する……までも無いが、カエルに似たゼリー状のモンスターだった。ダンジョンにはよく出る獣で、柔らかく鶏肉に似た味わい。配信者の主食と言えよう。


〈beautiful……!!〉〈ナイス!!〉〈今日もキレてるよ!!〉


「どもどもー♪ この調子で神獣サマも攻略しちゃうよ♪」




同時視聴者数……13092→14501人




時間と共に、また活躍の度に。同時視聴者数はどんどん伸びていく。


……他の娯楽がゴッソリ吹き飛んでる事もあって、視聴率は悪くない。前時代の娯楽の王様・ソシャゲとやらの穴を埋める存在は他に中々無かったのだ。


もちろん舞台とか討論会とか、その他もろもろのの放映もあるけど、やっぱりヒロイックな活躍を見せる配信者にはなかなか敵わないようだ。


当然それだけ優遇もされる。一定以上の登録者を得た者には金銀の装備が贈られたりもする。


今回目標とする十万人でもそうだが……そこまではだいぶ開きがある。


────だからこそ、神獣に挑み衆目を集める。


おやっさんはあまり乗り気ではなかったが……。







『正気じゃねぇ!』


突入前のハナシ。


『確かに目当ての『神獣』はまだ温厚な方のハズだが……そもそもオマエらには早すぎる! それにソイツの裏にもナニカが控えてるってウワサだ! まともな状態で帰ってきたヤツも言うほど多くねぇ、危険ってレベルじゃねぇぞ!?』


『へーきへーき。今回は秘密兵器もあるし♪』


不安ごと吹き出したおやっさんに見せつけたのは今の戦闘服。


スカカースより透け部分を増やした上、ニッチ層の受けにも答える自信作だ。もちろん光る鎧と合わせる事で完成する。


『じゃーん、今回のための特別衣装♪ どーよ、背中とかばーん! て開いててさ!』


『……いや、いいのかソレはヒーローとして。一号君もどうなんだその辺』


『まあ飲み込んださ。……デザイン画を見た時はちょいと頭抱えたがな』


作戦の軸は単純明快、色仕掛けだ。


『ターゲットは『神獣エゴイズム』。でっかい手みたいなモンスターだけど、中身は神獣の例に漏れず理知的で俗っぽい』


『オマケに相手の中身はスケベ爺ときた。だから普通の人間にやるようにハニトラってか? 流石に『神』の獣を舐めちゃいないか?』


『心配ご無用♪ どんな事にも対応できるように、あっと驚く仕掛けがたっぷりだもの。例えばここに水を垂らすと……』


『待て待て今それやるなよ!? それ作るの結構大変だったんだからな!?』


慌てて制止され、おっとっとと堪え抑える。サプライズは後まで取っておくべきなのだ。


『あーゴメンゴメンっ。とにかくとにかく、今回も大船を見送るつもりで安心していいから♪』


『その大船が沈んでるんだよなぁ軒並みよォ……』


『あ、アハハ……』


我ながらゴキゲンな作戦会議……だったと思う。











……という経緯で、出てきたはいいケド。


『イヤーーーーッ!』『イヤーーーーッ!』『イヤーーーーッ!』




同時視聴者数……19500→24030


視聴登録者数……82000→85000




「……………………ッ」


〈いいよいいよ!〉〈美脚が活きてるよ!〉〈やっぱいい脚してるよ二号ちゃん!!〉


20体目くらいを倒したあたりで、じわりと反応がむず痒くなってきた。


ううむ……提案しといてなんだけど案外ハズいかな……? というか、こんだけ体格見せて特定とかされたりしないだろうか……?


(てかさ一号サマ? チョロくないかな視聴者さん!? こないだはやっと二万行くかどうかだったのに!?)


(あーそこ気持ちはわかるが自業自得だ。てか集中しろ集中。次の階層行ったら、そろそろエゴイズム様とご対面だぞ?)


(わかってるけど……わかってるケドさぁ……)


他の誰にも聞こえない音量で問うも、軽くいなされてしまう。


複雑もフクザツを重ねるオトメゴコロを転がし、我ながらメンドイ奴だなーと思い始めた…………


と、そんな時。


「え」


異常事態が発生する。




『──── シャゲ エエエエエ !!』




唐突な邂逅。


軍手ひとつを子供の丈くらいにしたような化け物の強襲だ。


「あれっもうエゴイズム!?」


「違う、コイツらは取り巻きだ! 倒すぞ!」


「お、オーライ!!?」


戸惑いながらも火炎弾一発、いや二発。


「もとい三発ッ!?」


『シャゲ !?』


慌ててドカンとデカイのを叩き込んで、ようやくデカ軍手は進軍を止める。


しゃげー……と断末魔を上げる中、鎧の奥で一号サマの顔がみるみる曇る。


「おかしい」


「どったの、一号サマ?」


〈なんだ?〉〈雲行き怪しい?〉〈転入った?〉……など好き放題流れるコメントをよそに一号が推論を立てる。


「取り巻きがなんでこんなとこまで来てる? 本体のトコでなにかあったのか?」


「……えと、具体的に」


「俺にもしっかりとはわからない。探索に出された? でもなんのため? 奴は捕食が要らないハズだが……」


えも知れぬ不安が二人を包む。


こういう時は困った時のリスナー頼りだ。


「……ねぇみんな! この先になんか異常が起きてるカモなんだ! なんでもいい……関係ありそうな情報知ってる人居ない?」


〈よっしゃ見せ場や!〉〈大六階層の神域かぁ……〉〈他の人が配信してたり?〉〈でもそんな予告ぜんぜん無かったよ?〉


写真屋の花(フォトショップグラス)


ひまわりにガラスを貼っつけたような不思議ウインドウ。そこに滝のようにコメントが流れていく。


〈嘘でしょ……〉


と、一名がなにかに気付いたのかうろたえる。


〈どした?〉〈なんかあった?〉〈もしかグロ案件……?〉


〈ありえない……フェアリーライダーズが予告出したスグ後で、ゲリラ配信で突っ込んだパーティーが居る!〉


「え……!?」


〈!?〉〈なにやってんの!???〉〈絶対ロクな準備してないじゃん!〉〈グロ確定では!?〉〈強い?〉〈知らない奴らだよ!〉〈えっと名前は……デフォルトの通し番号、素人だ!〉〈配信画面は……〉


大荒れのコメント渦の中、何とか特定された配信画面にアクセスする。


ソレを見た瞬間。


「…………ッ!!」


苦いものが口に広がる幻覚。


一瞬くらみ、それでもと。


「…………一号サマ、救命道具出しといて四人分! 突っ込んだらスグ使う!!」


「オイどうした二号、顔が青……」


「知り合いが居る!!」


身バレのリスクも忘れてあたしは叫んでいた。


「ヤバい事になってる……一号サマ抜きでこんなとこ来ちゃいけないのに!」


自分がヒーローの鎧に守られていると自覚しつつ。


あたしはそれでも、他の身を案じた。








「急いで…………急いでってば!」


「待てバカ……突き当たりを曲がった広間がエゴイズムの巣だ、気をつけろ!!」


「わかってるって……くっ!!」


がしゃんがしゃんと、鎧を鳴らし息を切らして駆け抜ける。


配信者として経験を積んだ今からみると、パーティー時代はオママゴトに思えるほどヌルかった。


そんな面々がこの迷宮に来てしまったらどうなるか。


身の毛もよだつ恐怖が。


「よし、もうすぐ着く────」





────グシャガスァダグシャアアアアアアアアン!!!!


「……………………ッ かは、 がっ……?????」





現実となって襲い来る。


見せつけられたのは、凄まじい勢いで吹き飛ぶ旧知の姿だ。


「な……………………」


「リーダァアアアアアアアアアアアッ!!」


「は ぁ……? 元、だってーの……ばか?」


意味をわかってるのかいないのか。


朦朧とした目で、全身の力が抜け、ぐったりと。


簡素な鉄鎧の兜が外れ、たらり血を流す女性だった。


慌てて駆け寄る。


よくよく知ってる顔。最近シワが目立ってきたが、キレーな顔立ちには違いないヒト。


それでもこの仕打ち。


女性相手でも容赦はないのか、自分の策は無意味だったのか。


久しく覚えすらなかった暗い感情に揺さぶられる中。





『オオ? こんどは わかいコが きたっぽいねぇ』




「…………!!」


不覚にも背後を晒し、しかし不意を撃たれなかったのは、やはりあたしが若い女性だからか。


大人二人ぶん以上ある迷宮の天井……それでも所狭しと広がる真っ白な毛並み。スカカースとは正反対、神と『呼ばれる』だけある潔癖さ。


中指の腹に細い目が浮かぶ。残る指は両手両足に対応しているのか。


しかし口は手のひらだ。びっしり牙が並んだ巨大な口から、エコーがかかったような重い声が響く。


『あいにく オバサンしゅみは なくてねぇ…… どれどれ…… ちょいと おじいちゃんと あそばんかい?』


「…………エゴイズムッッッッッッ!!!!」


下手な巨大を越えた巨体。


特大な手の化け物と、決死の場面で相対する。

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