#3 騎兵の自覚と行くべき道。
────ばきゅーん。
『────グエエエエ エエエエ エエエエ!!』
「ナイスしょーーーーっと! 飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事よっ!」
「違う違う。……ったく、酔っ払い面でバードシューティング誘うかフツー」
「いいでしょー? 街はこのぶん安全になるし、いい風浴びて酔いも覚ませるしさー。……っともういっちょ、ばきゅんっ!」
また一羽、グエエエと叫びを上げて鳥さんが落ちた。
気の抜けた会話も、ほかの人から見たら正気じゃなく聞こえるのかもしれない……もっとも、辺りはあたし達以外誰も居ないケド。
ここは捨てられたバリケードの端っこ。ダンジョンの裂け目から溢れた獣達を食い止めるために作られたのだが、さっきみたいな空を飛ぶ獣もいるせいであっけなく突破された。
今はこの一段奥のバリケードを、獣避けのアロマと組み合わせて死守しているようだ。立ち上る煙の壁が鳥さん達を弾いてくれるという寸法だ……もっとも限界はあるから、越えられる度に撃ち落としてるみたいだけど。
その外…………アロマも味方もない夜に二人出歩くのは、自殺行為ってやつだ。
────この世界にダンジョンとやらが産まれてから、だいたい三十年くらい経つらしい。
最初は地盤沈下とかと疑われたけど、すぐにおかしな生き物達が掘った『巣』だとわかった。
原因不明の外敵、それが作り出す未知のセカイ。
中はそれまでの常識が通じない様々な現象が起こる上、かつて国が誇った地中インフラをもズタボロに貫いたせいで、既存の文化的な生活も成り立たなくなったとか。
とーぜんそんな事態を相手にいきなり勝ちまくれる訳もなく、ダンジョンのカラクリは徐々に地上に進出。風景も徐々におかしくなる中で、人々はその中から少しずつ、自分たちに有益なものを見極めて行ったのだとか…………。
まあ、その結果がこの寂れ具合なのだからだいぶお察しというものだ。
当初はとんでもない不安と混乱に襲われたらしいが、そのズイブン後から産まれたあたしにとってはよく分からないことだ。
ただ、ちょっとずつ。
みんながみんな、終わりに向かってるカンジがしただけだ。
無理にでも、明るい話題を作りでもしない事には。
世の配信者たちは……そして隣の彼も、そう思って『始めた』のだろう。
「…………ねぇフィー」
「なんだ、エイル」
「あたしはさ。感謝してるんだよ?」
きっとあたしは、とろっとろに蕩けた顔で言ってるんだろう。
よく見れば綺麗な夜だ。くるり長髪ごと回って、月の光を背負うフィーに向き直る。
「あの日。あたしの前に居てくれた事。あたしを……『妖精騎兵』ってヒーローとして助けてくれたこと」
始まりの日。
噂のヒーローに憧れていたあたしは、失意のピンチにそれに出会った。
金ピカの輝きは、近づくだけで死にそうになるほどまぶしくて。
それでいて、とても暖かかった。
だから、手を伸ばした。
「だからさ。もっと前に進みたいんだ。みんなが下を向きかけてる時、希望になって勇気づけたい……そう思ってみんな、この花を握ったんだろうしさ」
「…………へへっ」
子供らしく笑う。
実年齢は知らないけど、その笑みは見た目相応の輝きに見えた。
火が灯る感触があった。
「だったらどうする? どう前に進む? 俺は付き合うぜ」
「そーさね……うむうむ」
思考を巡らせ思い考える。
考えるけど……やっぱり、前に進む方が楽しいし。
先人達が見つけた遺産……カメラの花を握り締め、遥かな目標を見据える。
そして。
「…………そろそろやっちゃう? 十万人耐久配信」
「いいんじゃねぇか? 遅いくらいだろ、俺たちの場合よ」
「……ふふっ」
大胆不敵な攻略宣言。
こちとら伝説の盾を貰ってからが本番のつもりでいるのだ。
あたし達はまだ、入口にも立っていない。
◆
「へい、らっしゃーい。……お、あんたらか」
「ピヨハロー♪ 元気してたー?」
占いの館みたいながっちりテントの奥へ、コーレスでの挨拶をしてみせる。
ここで正体を隠す必要は無い。今ここに居るのは、秘密のヒーローにはかかせない『おやっさん』だけだ。
流石に全人類に秘密にしてたらダンジョン配信者はやってられない。だからこうしてごく一部には事情を話し、メンドイ部分をやって貰うのだ。
「ぼちぼちだ。で、今日のお代は……おやおや」
「へへへっ、スゴいでしょ?」
彼への依頼は獲物の現物払いがルール。当然たんまり持ってきた。
どっさりとした荷物はさっき撃ってた鳥さん、だけじゃあもちろんない。キラキラ綺麗なサッカーボール大の貝に、黄色いギザギザ模様が幾つも入った熊みたいなのもラインナップだ。
「防犯は見直した方がいいぜ。この熊はさっきこの辺うろついてたヤツだ」
「おっとすまねぇ。こりゃズイブン寿命を伸ばして貰ったみたいだな?」
おやっさんのジョーク。テントの中は、ひと吸いで獣が酔う蒸気でいっぱいなんだ。ホントに入って来ても入口でダウンしていただろうに。
「……それで? 今度は何に挑むんだ? 最近ゴツイ獣ばっかだし、初心に帰ってハカイサツバッタの巣にでもカチ込むとかでもいい気はするが」
「ちっちっち……そんなかったるいコトしないってーの♪」
「ほう?」
見当違いに釘を刺す。
あたし達が狙うのは、そんなチャチなターゲットじゃーない。
ぐびり、コーヒーを飲み構える彼に突きつける。
「あたし達…………『神獣』に挑む事にしたんだ♪」
「ほう神獣に…………ぶーーーーーーーー!!!??」
吹き出すくらいのビッグネーム。
それらに挑むくらいじゃないと、ジャンプアップは狙えない。
【NEW MISSION!!】神獣に挑み、登録者数10万人を突破せよ!!