#2 新たな予感と廃退の宴。
「かんっぱーーーーい♪」
「へーへー乾杯っと」
ぐびぐび……ぷはぁー♡♡♡♡
スカカースの後始末をし、たっぷりくたびれ夜更けも夜更け。
あたしことエイルは、相棒のフィーと地上の寂れた飲み屋で祝杯を上げていた。
至福の時。20の誕生日から今日まで半年くらい経ってるけど、飲まなかった日は一度もないかもしれない。身体の芯から機嫌がよくなる……うっま。
「くふふ……うぇへへ……っしゃーーーー!! 三度目の二万突破ァーーーー!!!」
「ハイそこ大声で言わない。そろそろ怪しまれる頃だからな?」
とか言いつつ彼もぐびぐび。流石に年齢的にマズイのか、飲んでるのはサイダーのようだけど。
いつ見てもクールな中身と一致しないけど、ふっわふわの金髪に青い瞳、白い肌に加えて、彩度低めながらちょいちょい高級感が混ざった厚着気味の組み合わせはまあ強い。お忍びで下町に混ざる王子様感たっぷりだ。
このショタチックなイケメン君があたしが憧れてた『妖精騎兵』サマの正体。名前はフィー。今は一号として、二号のあたしの相方をやってくれていたりする。
「って、誰に話してるんだか……配信中の癖かな? 飲ものも」
「いや今の発言の方が誰に言ってんだ??? ずっと思うけど大丈夫かオマエ」
「なんでもアリマセーン♪ ごくごく……しっかし、最初ん頃100人耐久とかやってたのがウソみたいねー♪」
「ん……まあな。ま、それも始める前に達成とかザラだったが。元から『妖精騎兵』はネームバリューあったし、むしろ遅いくらいだろ……」
誤魔化すように言うと正論が返る。確かに、と思わなくもないけど……。
「それはまあ……たぶん先に偽物がいっぱい出てコンテンツぱうわーを使い潰したせいでしょ。むねんッ!」
「無念で済むかよヒトの頑張りをよぉ……むしろ最初の一週間で百万人原行かなかったのムカつくんだが! だが!
なァていうか! 考えたら二号のオマエがメインておかしくない!? なぁなぁなぁ!?」
「ハイさっきの発言ブーメランなってますよー一号サマ? それにまあ、配信家業はオンナノコ有利なトコあるし? ……ぐびぐび♪」
「くそっ……わかったけど、あんま飲みすぎるなよ、マジで?」
言いながらフィーもくらくら気味。どうにも体の小さい彼は、度数の高いあたしの酒は嗅いでるだけで酔ってしまうようだ。
しれっと乾物のつまみを取り合いつつ、ちょいと思い返す。
「…………そーいやさー。初めて会った時もこんな感じだったよねー?」
「? ああ、まあな……あん時はどうなる事かと思ったぞ」
「そらイキナリ年上のおねーさんに絡まれたら困るよねー♪」
「そこじゃないだろ万年酒漬け女。いつも知らんうちに一人で飲みやがって……」
元のパーティーを追放されてから今に至るまでは、それはそれはもう長ったるい道筋がある。
それを逐一話せばとんでもない文字数になるのだけど……それもこうして報われるとわかれば気軽に歩けるというものだろうか。
「あははー、やっぱたまには飲むの控えた方がイイのかなぁ……流石のあたしも人生RTA走者になんてなる気は無……べげぶっ!?」
「?? どーした変なとこに詰まって吐きそうかぁ?」
「いやいや違くてさ……ナニコレ」
言いつつ飛んできたヨレヨレのチラシをひっぺがす。先月でっかい印刷所が吹っ飛んだ影響か、簡単な版画か何かで刷られている様子だ。
「んーとなになに?『写真屋の花群生地近郊に住宅地を建設。モンスターの被害が出にくい高台、安全です』……と。
ハァ……なーに考えてるんだか……逃げたってなんもよくならないってのに」
「……ハッ、言わせておけよ。そういうのを欲しがるヤツのお陰で配信家業が成り立ってたりするんだ」
「だよねー……はぁー…………」
二人してため息をついて辺りを見回す。
被災地のよう、とでも言うべきなのか。
行き交う人々の服はどうにもすすけており、身を守るためとにかく厚ぼったく重ねている様子。
元はとんでもなく都会的だったであろ建物もいまはボロボロ。無駄に広い車道を走る車なんてものはなく、そこに屋台みたいな簡単な街並みが続く。
街灯の代わりに灯るのは松明。油は獣達からたんまり取れるので困らない……まあ、どうにも前時代臭い匂いは収まらないが。
そしてその周りに、六等星を散りばめたみたいなちっこい輝き。獣避けのアロマを焚いた人達が雑魚寝してるのだろうか。
ふと、風上のシンボルを見上げる。
「……前見た時より、丸くなってるよねー角。やっぱ見栄はってらんないのかな」
「飾りにするよか、金使うのが上手い奴の家に使った方がいいんだろうな……」
ぶっ壊れた四つ子の逆さ三角すい。
かつては世界中のオタクさん達が集ったという聖地も、今じゃ資源を取るための遺跡でしかない。ずいぶんな賑わいだったらしいけど……あたしも体感したかった。
「……………………」
「……………………」
「…………フィー、さ」
「なんだ、エイル」
赤く寂れた明かりの中で。
隣に座る、小さく頼もしい少年を誘う。
「…………ちょーっと、歩かない?」
廃退的な雰囲気のなか。
酔いどれデートを気軽に誘えるのは……きっとあたし達くらいなのだろう。