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#1 LIDAR TAIL~追い放つ配信者の夜明け~

『お前を! このパーティーから追放する! 何故ならクッッッッソほど役に立たねェからだ、この万年アル中千鳥足めッ! とっとと出てけッ!!』


『う、うえぇええ!?』


……いつかそんなふうに言われ、ひっくり返ってたのも今や懐かしい思い出。


だって──────────。








「ッハァ! 汚物は消毒だぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!」


────あたしは今、世界中のみんなへ元気と希望を振りまいてるんだから。


特製の火炎弾が、あたしの手から『本日のボス』に先制パンチを叩き込む。


爆炎が舞い、次いで黒く煤煙る。


薄闇と土煙の中、あたしは迫る気配に備え……跨る馬『役』に指示を仰ぐ。


「もうちょい高度出せる? 一号サマ♪」


「無茶を言う……オーライ、しっかり捕まってろ!」


妖精と騎馬、一体となって迷宮の大広間を駆ける。


石山を辿り高台へ。


びりびりと痛みを受け、土煙を抜ける。


ツンと鼻につく匂いが、巨大な標的を示す。




『おぉおおお べぇ…… ゔぇ……!!』




見上げる先は、大人十人分の丈はある巨大な動く石像……みたいな猛獣。


赤茶けた毛並と混ざった石の鎧の奥に、確かな肉の獣が潜むモンスターだ。


頭部には冠のような意匠があり、そしてその背に、そして手には…………何故か、悪臭放つ排泄物が。


〈今日のボス来たコレ!!〉


〈うわぁ……あの猿山の大将にマジで挑むって本気で言ってる!?〉


〈ムリムリムリ勝てないって!!〉



同時視聴者数……13500→15000



にわかに『コメント欄』も色めき出す。カメラ代わりの写真屋の花(フォトショップグラス)の向きを調整しつつ、不安がらせないようにこやかに切り込む。


最近一万越えが当然になってきた『視聴者』さんにもちゃんと聞こえるように、高らかにコールする。


「ピヨハローッ!! 大将、挑みに来たよ!!」


『……るぅぅぅ』


あたしこと『二号』は不敵に笑んで見せる。もっともその顔は、そして全身、乗る馬さえも……口元以外のだいたいは、光り輝く鎧で覆われてるのだけど。


あたしの方は、チラリと覗く透けた素肌と、ぴっちり目のボディスーツ部分が好評だったりする……見せればいいってもんじゃーないのだ。


もっとも目の前のお猿さんにはお気に召さないようで。


『おまえたち…… はかいのかみと よばれたおれに かつつもりか!』


「神ィ〜? 誰が読んだんだか。アナタはこの迷宮いっぱいにクッサいの投げ回る厄介者でしょ? みーんな迷惑してるんだから!!」


『なに おぉ!!』


妙に知能の低そうな声をいなすなり……業風を纏い石の拳が迫る。


馬役をやってくれてる一号が、充分な距離をとってかわしてくれる中、前提条件の確認に入る。


騒音と振動が喚き、岩の嵐が泣き叫ぶ中、負けじと睨め付け事実を突く。


「──絶望呪猿スカカース! 元はこの迷宮をキレイにするための人造生命……なーのーにー業務中、何故か排泄物を神サマみたいに崇め始めたからさ〜あ大変!」


視聴者さんにわかるように……そしてスカカース自身に自覚させるように噛み砕いて話す。


ここが意外と重要なのだ。


「……今じゃー所構わず投げまくって汚す困ったちゃんに。ま、ベースがお猿さんだからしゃーないってヤツなのかな?」


『おれを さると よぶなああああああああ!!』


逆鱗にでも触れたか、怒りを込めた横なぎの剛腕。


殺意バリ高の大縄跳びを飛び越えつつ、スカーカースの咆哮に耳を傾ける。


カラぶった空気が裂ける中、思念で飛ばす叫びが魂に響く。


『おれはかみだ このうんこだってそうだ だれよりつよいんだ! だからどれだけ のさばっても……』


「ザンネンだけど……神は崇められて成り立つものなのよん。神と呼んでくれてたヒトをみーんな追い出しちゃーおしまいよ」


『ぐっ ……!?』


「理屈捏ねても結局、アンタは暴れることしか知らなかった。そら迷惑にしかならないってワケ♪」


かるーく言い任せてしまう程度の言い分。


ある意味、無知が産んだ可哀想なモンスター。


必要に駆られ産み落とされ、働かされる苦難がいかほどかも分からない。


だとしても、だからこそ。


これ以上やらせてはいけない。


「……だから止めるよ。妖精騎兵二号の……フェアリーライダーズの名にかけて」


ここでニィッとはにかみ……事前に用意しておいたテロップを、数字を補正してドーン!!





【MISSION!!】汚物を投げ散らかす石像獣・スカーカースを追い払え! 目標視聴者数・20000人!!





条件は示された。


果たせば上等、ミスれば失笑。


自分で自分を追い込んでこその配信者。


だから、苦難を前にこそ堂々と吠え叫ぶ。


「ご観覧あれ。あたし達の乱舞を……華麗なる死闘をッ!!」




同時視聴者数15000→16500!




〈やったれ二号ちゃん!!〉


〈応援してるぜ二号ちゃんっ!!!〉


〈一号サマもサポートお願いします!!〉


期待とともに視聴者数が跳ねる。


妖精騎兵の晴れ舞台に興味津々のようだ。


期待に答えるためにも……あと3500人、死ぬ気で稼いで勝ち切る!


「行くよスカカース!」


『ほざけえ ええええ!』


怒りとともにスカカースが体表の石を毟り、砕片にして投げつける。


ゴウッ! という音は紛れもない死音だ。


「ヤバっ一号回避!」


「わかってる!」


メジャーリーガー顔負けの無駄なきフォーム。


低い姿勢で避けた端から、散弾が自然の大広間をズガングシャンと砕き抜く。


『ぬ ぬう!!』


それが二撃。


三撃!!


「……ちょっとちょっとぉ!?」


四撃!!!!!!!!!!


『こんどは あらびきだぁ!』


「ご丁寧にドーモ!!!」


宣言通り粗めの石片が荒れ狂う。


大きく跳ねたすぐ真下、柱のような鍾石が一発でぐしゃぐしゃだ。


『おれは さいきょおおおおお おおおおお!!』


手も足も出ない様子のあたし達にご満悦のスカカース。汚い手でドラミングしまくる……類人猿だったのやら。


「……アレでかすり傷だけでアウトなんだからズルいわァ……バッチぃ。みんなー、なーんか良いアドバイスあるー?」


流石に戦国御用達の猛毒(ウンコ)には敵わない。


策はいくつか練ってきたが、プランAの持久戦は分が悪そうだ。


(ちなみに一号サマならどーするぅ?)


(ぶっちゃけ逃げる。でも、お前はそうしないんだろ?)


(トーゼン♪)


こんな時は頼れる時に頼るのが良い……人手も勝手に増えるし。


〈なんかって……アレとは戦うなとしか〉


〈全身毟り終わるまで耐久戦すればいいよ!〉


〈そりゃ今やってんだろバカ! 誰か詳しい人呼んでくれ!〉



同時視聴者数……16500→17500



集合知が凄まじい勢いで対策を探る。


勝鬨を上げた僅かな隙に、スカカースを追い詰めていく。


そして。


そして。




〈その広間の下に海に繋がる地下水脈があるらしい! なんかに使える!?〉




「ビンゴォ。視聴者さんナーイス!!」


勝利への道を掴んだ。


流石に何かを感じたか、五度目の投石が来る。


『!? なんだ なにかふんいき が……』


旗色の悪化を察したぽいけど。


もう遅い。


石の握り拳をいくらばら蒔いても。


幾万の瞳に敵う術は無し。


あたし達の勝ちだ。


「一号サマッ! プランC'。『酒蒸し』行くよォ!」


「オーライッ!!」


輝く牝馬が投石を避ける。


あたしは腰の大瓶に手をかける。


かける。


駆ける。


駆ける!!!


『おのれ ちょこまかと!』


埒が明かないと直接振るわれる拳を避け、上へ。


轟音を超え上へ。


高き巨像の上へ!


『なに ッ?』


「大盤振る舞いだッ!!」


真上から大瓶を投げつける。


王冠の意匠が砕けるとともに、その中身が溢れ流れる。


普段と別種の刺激臭が彼を襲っただろう。


『がはっ この においは ……!!?』


「酔い知れなさい。アルコール度数50オーバー。……あたしのお気に入りだよ♪」


言いつつ目配せ、先刻砕けた石柱のうちのひとつに目をつけ。


「アレが使える! 一気にトドメに入るよ!!」


「へーへーっと!!」


ぴんっっとワイヤーを引っ掛ける。


スカカースが酒に戸惑う隙に、ぐりんぐりんと辺りに引っ掛け。


一気に引っ張り、デッドポイントへ牙を向ける。



………………ぐらっ。



石像の、頭上から。


背負い投げみたく。


叩き込む!


『なん だと!?』


「「────ちぇい、やああああああああああああああ!!!!」」


ゴガン、ズガガンと連続で。


脳天直撃。斜めに殴る石柱ハンマーだ。


『ぐっ がはっ!!』


流石の硬さで巨像も耐える。


それでも上から押し込んで、めいっぱい足場に負担をかけて。


信じられないほど舞台が『しなる』。


〈行けえええええええええ!!!!〉


〈押せ押せぇええええええええ!!!〉


〈負けないで、フェアリーライダーズ!!!〉


視聴者さんの声援を背負い。


その上から。


締めの火花が。


ぱちり、ぱちりと音を立て。


『………… あ』





「3……2……1……あくしょん♪」


着火する。





ドゴグググォ/ /オオオオオオオオ オオオオオオオオオオオオ/ /ッッンンンンンンンンンンン!!!!!!!





『うごおお!! あづい あづううううううい!!』


爆風伴う大引火。


石像を襲うのは熱だけじゃーない。


衝撃でついに石舞台が砕け、その下の水流渦に叩き込まれるのだ。


ざぶーーーーん、と。


灼熱からの冷水攻めはさぞ『ととのう』だろう。


あとはもう全自動だ。


『つめた!! うごおおおお!!! このおれが! おれの うんこがああああ ああああああ!!!』


「くっさい獣一名様ご退場♪ 激流の果てまでいってらっしゃーい!!」


ぎゅごごごご……! と音を立て。


地下深くの天然ダム穴に堕ちた獣に、もはや立ち上がる術はない。


『くそう! おぼえてろ!! いつかかならず おまえたちを うめごがびおうがぼ……』


じゃぼーーーーーーー……と。


正しく水洗トイレのごとく、流れ流れて過ぎ去っていく。


これより長い地下水脈に削られながら、遠い遠い海へと投げ捨てられるのだ。


「…………ふむふむ」


しっかり勝利を確認し、テロップを付け直す。


そしてアップで。





【MISSION!!】汚物を投げ散らかす獣を追い払え……達成!!


同時視聴者数17500→20500=目標人数達成!!!




「大っっっっっっっ勝利!!! ぶい♪」


〈〈〈うおおおおおおおおおおおおお!!!〉〉〉


コメント欄が歓声で埋まる中頼れる仲間を撫でじゃくる。


「グッジョブ、一号サマ!」


「撫でるなっての……お前もな、よくやったよ二号」


お互い称え合うと、きっかり配信画面にも笑み向けて。


「みんなもありがと! 神アドバイスサンキューよ……GJ!!」


〈〈〈Oh YES!!〉〉〉


レスポンスバッチリ。


訓練されたコメントさんたちに大満足しながら余韻に浸り…………


余韻、に……浸……


「……まあ、コイツどかさんとな」


「……あー」


スカカースが去った後に残されたのは……超山盛りの排泄物。


壊しまくった迷宮の壁は超鍾乳理論で割とすぐ治るが、この排泄物はあたし達でどうにかしないといけない。


「くっさぁ……。余韻もなんも無いわぁ……っとと、後始末頑張りますか♪」


「そうさな。ここを放置してたら爺さんに叱られる」


「そーそー。……あーあー、恨み言吐かれてたし再戦あるかなぁ……」


「そんときはそんときだ。辛抱強く行こうぜ」


「はーい……うぅ」


そして光る羽の箒を取り出す。どんな汚れも焼き払いながらお掃除できる逸品だ。


鼻歌交じりに準備を進めかけて……大事な事を思い出す。


「っとと。こっからはちょー単純作業なんでこの辺で! んじゃあみんな、バイッピヨー!!」


〈乙〜!!!〉〈感動した!!!〉〈お疲れ様!〉〈この後もガンバ!!〉〈一生推しましゅう!!!!!〉


レスポンスを見届け、写真屋の花(フォトショップグラス)に覆い布をかける。







「にゃっはは……使えるよねぇ、この火薬」


「最近は特にボロボロ落とすらしい。おかげで市場価格は捨て値同然だ」


「あーあー……そらあたしも切られるわ。こんなカワイーピヨちゃん出せるだけじゃーねー」


配信切って、自分のチカラで遊びながらも大掃除。


一時の華やかさの裏に、数倍ともつかない手間がかかっていたりする。


「で? 次はどうする」


「そりゃモチロン打ち上げでしょ! いつものトコに飲みいくよー♪」


「そうじゃなくて……まあいいか。飲んだらちゃんと考えろよ? な? な???」


なーんて軽口叩きながらもモップを握る手を動かす。


地味に地道に。


追放されるに至った小火(ボヤ)であたりを照らしながら、戦始末を進めるのだ。






…………とまあ、このように。


迷宮を探索し、改善し、調停する。その様をエンターテインメントとして届ける。


それが、あたし達が選んだ仕事なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!
2023/07/11 21:39 退会済み
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