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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者の剣の行方

作者: たかやす

よろしくお願いします。


「な、なーーーーーーーーーいぃぃぃ!!!!!!」


 ある岩山の山頂に、響き渡る悲壮な叫び声。


 そこにあったのは勇者の剣。


 あまりにも難所のため、月に一回、変化がないか確認する仕事が山の麓に広がる街に住む神官の仕事。


 叫んだのはその神官、アドリア18歳。


 焦茶色のふわふわの髪を後ろでしばり、金にも見える、黄色の瞳が絶望に染まる。


「この剣は勇者にしか抜けないはずなのに……。どうして……。何故ないの?」



***



『勇者が抜いたんじゃなーい?』


 上司の一言で『あ、そっか』と、表面上は解決したが、その後が大変だった。


『まあ、管理上どこにあるから把握しないといけないからねー。探しに行ってね。ほら、頑張ーれ♡なんなら、君の優秀な幼馴染に手伝ってもらってもいいよ?特別手当だすからねー』


 その時の当番がアドリアだったため、彼女が勇者の剣捜索隊の隊長となってしまった。たった一人の捜索隊ではあるが。原因は神殿の慢性的な資金と人手不足のためだった。


 勇者の剣は魔王が誕生した暁には勇者の元へ行くとか、勇者の気配を察し飛んでいくとか、勇者が引き抜くとされている伝説の剣である。それは昔話よりも昔の話であり、本当にそんなことがおこるのか誰もが半信半疑ではあった。


 ただ勇者の剣の所在確認時に、アドリアがその剣を引っ張っても抜くことができず、ぴくりとも持ち上げることすらできなかった。

 

 そのような剣がなくなってしまったので、建前上、管理者である神殿が動かなくてはならない。しかし、今代の魔王はヒトであり、こちらに敵対する様子がなかった。さらには魔王と各国で不戦条約が結ばれ、お互いに干渉しない旨の協定が結ばれたのだった。


 そして勇者の剣はいつみても変化がなかったため、今代の魔王が治める間は勇者はいてもいなくてもいいかな、っていう皆の思いと、魔王様ありがとうございます、という複雑な思いが皆の中にはあった。


 ただ建前は必要なため、管理している側が紛失した、または勇者(?)が持ち去ったのであれば、所在確認をしなくてはいけない。それは勇者の剣の管理をしている神殿の仕事であり、勇者の剣の紛失を発見したアドリアの仕事になってしまった。これに関してアドリアは理不尽と嘆いたものの、上司の命令に逆らうことはなかった。


 上司からはゆっくりでいいよーと有難い言葉をもらうことはできたが、心は休まることはなかった。



***



 まず、アドリアがしたことはその森の様子を聞くことだった。そのため幼馴染の森の番人のところへと向かった。


「森に変な人は来てなさそうだけど……」

「うーん、じゃあ怪しい人は?」

「それもかなー。騎士団とか冒険者とか来てるけど……」

「その人達の誰かなのかなー」

「でも騎士団なら必ず神殿にいうだろうし、冒険者もギルドに申告義務があるはずだから….」


 その線は薄い、という一言は口には出さなかったが、アドリアには十分通じた。


 森に住むアドリアの幼馴染、ルカは、森に捨てられていた孤児である。その当時の森の番人が彼を拾い、自分の後継者へと仕立て上げた。アドリアが森へ収穫しに来ていた時に仲良くなり、今でも時々ご飯食べたり休みの日には買い物に出かけたりしていた。


「あー、やっぱりそうだよねー。確認したかったんだ。ありがとう、ルカ」

「何かあったの?あの山頂の剣に」

「……なくなってたぁ」


 アドリアは言うか言うまいか一瞬迷ったが、結局はルカに言うことにした。


「………そうか、もしかして探しに行くの?」

「ほら、勇者の剣(あれ)ってうちの神殿で管理しているでしょ?勇者が待ち逃……持っていった?のはわかってるけど、所在だけははっきりさせたほうがいいって言われ。で、勇者の剣の捜索隊隊長になってしまって!一人だけの捜索隊って……笑えるー!これはこれでよくないんだけど、今は置いておいて。行方って言っても手がかりがなくて!騎士も冒険者も違うだろうなーって思いながらルカに確認して、じゃあ木こり?狩人?麓の誰か?困るって言うか、どうしていいのかわからないって感じ」

「うーん、そうか。手伝う?」

「え?いいの!?でもでも、ルカは森番の仕事あるでしょ?駄目だよ」

「アドリアは剣を探しに行くんだよね?」

「うーん、ここら辺探してなかったらちょっと足伸ばして、上司には魔王城のほうかもっていわれてるから、そっちのほうにも足は伸ばすつもり」


 そう言ってアドリアは、先立つ物もたっぷりもらったしとじゃらっと音のする革袋をルカに見せた。


「………というか、そんな大金、アドリア一人では管理しきれないんじゃないかな?」

「んー?そうかな?意外になんとかなると思ってるんだけど……」

「残念なことに騙されて奪われる未来しか見えない」

「….そう?」

「………うん」


 アドリアだって本当は一人では心細い。とてつもなく。街から出たことさえない。言うなら神殿周囲とルカの家周辺、後は買い物でいつも決まったところしか行かない。街の外れにすら行ったことがなかった。


「……森番の仕事どうするの?」

「大丈夫、友達にしばらく留守にするって頼んでおく」

「長く留守にするかもらよ?」

「平気だよ?アドリアを一人で行かせるほうが心配だよ」


 職場では上司から『じゃ、後よろしくー』とお金と手紙を渡され、放り出され、手紙には『ここになかったら魔王城の近くまで行ってね⭐︎(意訳)』と書いてあり、そもそも魔王城ってどこなのさとか、色々聞きたかったが、それすら聞けずに放り出されてしまった。


 アドリアはこんな無茶振りをされるのは、自分が孤児だからか、それとも下っ端で何かあっても切りやすいからか、ただ上司の言うとおり自分が発見したからか、それはアドリアにはわからなかった。そしてアドリアは、神殿から放逐されれば行き場がないので必死に縋るしかなかった。それが理不尽だと思っても。


 だからルカの申し出は非常にありがたいものであった。


「ルカ、ありがとう。嬉しい」

「んんっ……僕も頼ってくれて嬉しいよ。ささ、じゃあ準備しようか」

「うん!」


 ルカは手早く準備をすると、腰に短剣を身につけた。


「あれ?そんなの持ってたっけ?」


 ルカがいつも仕事で使用するサバイバルナイフとは別に、大きめの短剣もぶら下がっていた。


「ああ、これは前にこのナイフを修理した時に必要になって買ったんだ」

「結構大きいね」

「うん、獲物にとどめ刺すときに使うんだよ。なかなか便利だよ」

「短剣の二刀流使い?かっこいい!」

「二刀流は割に合わないからやらないよ。欲しいならあげようか?」

「刃物は苦手だから遠慮しとく」


 アドリアは刃物が苦手なので、いつも家庭用の小さな包丁もどきしかもたなかった。少し不便ではあるが、ないよりはまし、これ以上大きなものは扱えないので何とか日々頑張っているのだった。


 それに対してルカは昔から器用で、何でもそつなくこなしていた。家事もそうだが、武器の扱いや薬の調合、魔法にも天賦の才があった。前任の森番には『森番じゃなくて勇者でもやっとけやー』とよく言われていた。

 

「アリー」


 ルカとアドリアの準備が整ったので、外に出ると留守番役を呼んだ。アリーとは、ルカと仲の良い森狼で、一緒に森の中を散策したり魔物を狩ったりしている仲だ。


『ルカ、出かけるのか』

「少しね。ここ任せていい?」

『早めに帰ってこい。剣は持っていけよ』

「ありがとう、助かるよ」


 準備ができ二人は旅立って行った。



***



 まずは周辺から聞き込みを始め、その範囲を広げていく。闇雲には広げずに、魔王がいると言われる方向に進んでいく。


 しかしながら、『勇者の剣』の噂はほとんど聞かず、成果は上がらなかった。


「どうしよう……。明日には魔王の拠点につきそう……」


 そこは魔王が拠点にしていると言われている、深い森の中だった。


 周りには獣と魔物避けの結界を張り、その中にテントを設営していた。簡単に夕食も済ませ、後は寝るばかりだった。


「とりあえず、外から魔王の拠点でもみてみよう?何かあれば様子もわかるだろうし……」

「そうだよね。何より魔物とか魔族が全然襲撃してこないのが不思議……。もしかして勇者がすでに?」

「……楽観視は止めよう。何があるかわからないし。アドリアに何かあったら……」

「やだ、それ私のセリフだよ!手伝ってくれているルカに何かあったら……」

「何かあったら?」

「………え?」


 アドリアは自分の言葉に気づき顔を真っ赤に染め上げた。


「ちょっと、照れるんだけど……」

「は、はぁ!?な、なーーーなんでルカが照れるのよ!!もー!何でもないからもう寝る!おやすみ!!」

「おやすみ」


 アドリアは何故か胸がドキドキしてしまうのが止められず、その夜はろくに眠れなかった。



***



 そして魔王城(仮)についた。


「うわ、普通の家だ……」

「本当だ」

「ねえ、ルカ。本当にこれが魔王の城?」

「うーん、近くの街で買った地図にはそう書いてるけど……」

「うーん、そもそも地図に魔王の城が書いてあること自体おかしいんだよねぇ。こればったもんかなぁ?」

「でもこれしか地図なかったし、元々ダメ元で来るつもりだったんだから……、すいませーん!」


 家の近くで騒いでいると、魔王城(仮)から肩まで銀色の髪を伸ばした美しい男性が現れた。


「うるさいですよ」


 それだけ言うとドアを閉めて鍵までかけられてしまった。家の中からは女性の声とドアノブがガチャガチャいう音が聞こえてきた。先ほどの男性と揉めているよう感じだった。


「もう、お客様に失礼よ。どうぞ入って?」


 そして出てきたのは、長い黒髪と深い緑色の瞳を持つ綺麗な女性だった。ただ、足が不自由なのか杖をついて歩いていた。


「アナ、駄目ですよ。僕がやりますから……」

「だって貴方に任せると無視しちゃうでしょう?」

「しませんよ」

「さっきしていたでしょう?優しく対応してあげてね?」

「僕はアナ以外には優しくしたくないのはわかってますよね?」

「ちょっ!だ、だめよ!!子どもの前で!……ごめんなさいね。さあ、二人とも中に入って?」


 アドリアとルカは顔を見合わせて魔王城(仮)へと、足を踏み入れた。


「こんにちは、私はえーと、ま、魔王の妻のアナよ」

「初めまして、アドリアといいます。神殿に勤めています」

「僕はルカ、森番をしています」

「それで二人はこんなところに何の用かしら?」


 魔王(仮)の妻、アナに紅茶と菓子を振る舞われ、アドリアはこれまでの経緯を説明した。


「まあ、こんなところまで大変だったでしょう」

「いえ、でもここにもないとしたらどうしたらいいのか……」

「そうね。まずは魔王様のお話聞いてから考えましょう?その時は私も協力しますからね」

「ありがとうございます」


 長い溜息をついた魔王様がルカに話しかけた。


「それは結構な獲物ですね」

「え?あ、ああ、譲られたものなんですが使い勝手が良くてずっと使っているんです」

「いや、もう一つの方です。これまでに僕も色々見てきましたが、その剣はとても美しくて、私には禍々しいものですね」

「あ、ああ、これは最近手に入れたものであまり使い勝手は良くなさそうで……」

「使命が頭に鳴り響きませんか?頭の中で………」

「っ…………」

「ル、ルカ……?」


 アドリアは、少し様子がおかしいルカに声をかけようと手を伸ばすが、それはアナに阻まれてしまった。


「大丈夫よ。あの人に任せてちょうだい?」

「え?でも、ルカ大丈夫?」


 アドリアに話しかけられて、ルカは淀んだ目でアドリアを見つめ返す。そしてその手には愛用のサバイバルナイフが握られていた。


「アナ、少し離れて。ねえ、ルカ君?その剣は腰に下げているだけでも大変そうですね。それに飲み込まれないようにしているのも限界じゃないですか?」

「い、いや、……アドリアがいればアドリアのためにこれをここに、アドリアの仕事がこれのせいでアドリアが……」

「何となくわかりました。貴方はアナと同じなんですね……。……愛する人のために何かを犠牲にできる強い人だ」



 そこには愛用の剣を左手の甲に刺したルカがいた。



***



 数ヶ月前。


「何?この剣……」


 自宅の机の上には、ルカが愛用している剣とは似ても似つかない短刀がおいてあった。無骨な短刀ではあるがその掬の先には綺麗な宝石が幾つか括られていた。


 森番をしているルカの家には、アドリアか森狼のアリーしか来ない。


「アドリアは刃物苦手だし、アリーでもないだろうし」


 どうにかして厄介払いしようと剣に触れた途端、頭に何かが嵐のように入ってきた。


『魔王を殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』


 思わず片膝をつき、胃から突き上げてくるものを飲み下した。そして原因となったであろう剣から手を離そうとしたが離れることはなかった。


「なんだ、これ。呪いの剣か!?神殿で解呪してもらおう……」


 そして神殿に足を運ぶが結果は散々だった。


「おぉー、君が今代の勇者か。おめっとさん」

「おめでたくない。なんか怨嗟みたいな声聞こえるし、離れないし」

「めでたいよ!まさか剣にのまれない勇者がいたんだからね」


 そういうとアドリアがあの上司はやばい、といつも話している上司が和かに話し始めた。


「君には大変申し訳ないんだけど、その勇者の剣を持って魔王様のところに行ってほしいんだ」

「え?」

「いやいや、それね。君もわかったかと思うんだけど、人が扱えるもんじゃないのよ。神殿が一生懸命封印して守っていたんだけどね。勇者のなんか、波動を感じるともう一目散に飛んでっちゃってさー。勇者愛されすぎで怖いのよ。一途と思えば可愛いのかな?魔王様が昔同じような物を処分したっていうからこれも処分しようかなーってお願いしようとしてたところなんだ。それ離れないだろう?」

「はい……」

「魔王様には話しとくし、謝礼金も出すから、ね?ね?おーねーがーいー♡」

「……正直意識がもってかれそうで、いつまでもつかわからない……」

「んー、じゃあ、アドリアも一緒にならどう?」

「……頑張れるかも」

「さすが愛の力!!若者!うらやま!!一先ず、解呪はできないし場合によってはアドリアにも影響が出るかもしれないから、簡易の封印をするよ。そしてアドリアには悟られないように」

「事情は説明しない方がいい?」

「この勇者の剣の恐ろしいところは、勇者だけではなくその信奉者や仲間にも影響が出てきてしまうところなんだ。アドリアが君を勇者と認識して仲間意識をもつと、勇者の剣の精神支配の影響下に入る。それは君が体験した物よりは優しい物だけど、普通の人には耐えられないよ」

「じゃあ、全く別の案件として魔王様に会いに行くということか」

「ふっふっふっそれに関しては妙案があるから、心して聞くが良い」


 ちょうどアドリアが勇者の剣の所在確認に出立した後だからできたことだった。どうせ勇者の剣がないと報告に来るから、アドリアを言いくるめて、勇者の剣を探すという体で魔王城に向かわせればいいと。



***



「勇者の剣って呪われてるの?」

「……正確に言えば違います。祝福です。昔はこれで問題なかったんですよ。仲間の意識も一つになるし、それ以外に囚われることもありません。集中して魔王退治に取り組めますから」

「今は違うんですか?」

「私たちの力が錬金術よりになりましたからね。昔は魔術や精霊よりだったから取り込まれることもなかったんですよ。魔王は選定会議で選ばれるようになりましたしね」

「選定会議?」

「その話はしたくありません」

「………ちなみにその剣はどうされますか?」

「女神に返します。迷惑なものばかり残して……」


 アドリアは魔王と話して迷惑な勇者の剣のことを何となく知ることができた。魔王は、この呪いの勇者の剣を作った女神に返すと言う。その女神はだいぶ昔に力を使い果たし、微睡んでいるといわれているが、時々泡沫のように現れると言う。


「それは上司に報告してもいいですか?」

「大丈夫ですよ。こちらからも手紙を出しておきます」

「ありがとうございます」


 アドリア達は、ルカが手当を受けている客間にいた。アドリアはルカのことが心配で、そこを離れるのを嫌がったからだった。ルカは相当な力で左手をサバイバルナイフで貫いていた。骨まで貫通している傷ではあったが、当のルカはそれをすっきりした顔で見ており、アドリアと魔王の妻のアナが慌てて血相を変えていた。


 勇者の資格を待つルカでさえも、勇者の剣を握るとそれに意識を持っていかれそうになると言う。そしてそれは魔王城に近づく毎に発作のように大きくなっていった。握らなくても、腰に下げているだけでも発作のように襲いかかられるほどだった。


 魔王のすぐ側に行くと、今まで以上の声が聞こえて、ルカは意識をもっていかれそうになった。ただその時アドリアの声を聞いて意識を保てたという。


「アドリアは命の恩人だ」

「どういたしまして。でも、その手大丈夫?」

「うん、思ったより痛くないし、魔王様の魔法で動き自体は問題なくしてもらっているから」

 

 魔王様は回復魔法が得意ではないようだが、骨以外は治してもらうことができた。ただ、骨だけがまだ癒えてはいなかった。そのため痛みを緩和する薬と熱を下げる薬をもらって、一度自宅近くの治療院に行くようにと言われていた。


「ルカの手が良くなるまでお世話しに行くね」

「ん………え?」

「手、不自由でしょ?ご飯作ったりとか身体拭いたり?トイレ……はどうしよう?」

「え、ちょっいやいや。…………夢か?いや、そんなバカな。一人でできるから!」

「え?痛み止めは明日には切れるって、そうしたら痛みと熱で動けなくなるって言ってたよ?」

「でもアドリアには面倒はかけない!」

「私今回のこともそうだけど、ずっとルカに迷惑かけて面倒見てもらってるところがあるか、何か恩返しがしたいんだ」

「あー、それなら、そうかー、うん、返してもらうのはいまじゃなくていい」

「え、じゃあ、いつ?今じゃないの?恩ばかりが積み重なって天にまで届きそうだよ」

「いや、でも。ん、まぁ、手が治ってからでも………。そしたら一緒にご飯食べて、ね、ね、寝たり??んん、ん、お風呂とか……??」

「顔赤いけど大丈夫?」

「だ、大丈夫だから!!」


 魔法陣の準備ができたようで魔王様が錫杖で床を叩き知らせてきた。


「陣の中へ。教会に直接送ろう」


 言外にさっさと帰れと念を込められているなと感じながらも、二人は魔法陣の中へ入る。


「ルカ君は今日中に治療院へ行って下さいね。アドリアさんは身体に気をつけて」

「はい、ありがとうございました」

「これも何かの縁だから、何かあったらまた来てね」


 そう言い、二人は陣から教会へと転移した。


「あいつら、また来るだろうな」

「何かあればくると思いますよ?」

「あー、いや………勇者の剣、複数あるはずだから。あいつらがもってくるだろう」

「え?」



***



「いやぁあっ二人ともよくやってくれたねぇ」


 アドリアの上司は、二人が勇者の剣を魔王様に渡したことを聞き、ルカには依頼達成のための礼金を、アドリアには特別手当が支給されると話した。


「今代の魔王様は賢者だからか、ちょっと気難しいけど君達なら上手くやってくれると思っていたよ!アドリアはあれだろ?ちょっとネガティブにならなかったか!?お前は自己肯定感低いからな!ちょっと成功体験重ねて自信つけろ!欲しい物手にできないぞ!!」

「ぐぬっそんなこと言わないで下さい!……そんなことより私、休みなしだったからちょっと2、3日休みたいです!!」

「おうおう、7日間は休んでよ!!」

「え!?嘘!本当!?」

「もちろん!!だって、ふふ、またお願いがあるからね」


 二人は嫌な予感がした。とてつもなく。


「君たちには簡単なことだよ」

「……内容伺っても??」

「勇者の剣は後十本くらい?あるんだ!それも全部魔王様のところに持っていって欲しいんだよねー」

「「え?!」」



おわり


 





読んでいただきありがとうございます。



ここでの錬金術は科学と魔術の複合体的な?ものと思ってください。


 


余談

魔王は魔物や魔族の統制に必要な存在だから、選定会議なるものが存在する。これは昔の魔法によるもので条件を満たした人たちが参加する。その条件は魔王交代のたびに変更される。


今代の条件は

・少し常識がなくても、複数の相手を押さえつけられる力とメンタルがある

・種族に拘らない

・嫁溺愛(執着でも可)

・嫁生きており、嫁に愛されている 


ちょっと前に開かれた魔王選定会議(強制参加)

リザードマン「俺魔法からっきしだし、性格的に無理かな、前やったし」(泣きたい)

吸血鬼「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」(失禁するよ?)

魔族「面倒くさ」(強制送還された人)

獣人「我はやらぬ。人の子は寿命短いから一度やってもいいのでは?」(新入り)

賢者「………星を大地に降らせてもいいって聞こえた」(呪文詠唱)

リザードマン「のおおおおおおおおっ!!おい余計なこと言うな!!死にたいのか!!!あいつまじでだめなやつだから!魔族より話合いにならねぇからな!無詠唱でいきなり魔法ぶっぱなすからな!!」

魔族「…………話は聞く」

リザードマン「いいように曲解するだろう!だまっとけ!!」

獣人「人の子は難しいな。我の伴侶は人の子だがきちんと話は聞けるがな。品種の違いか?まぁ、嫁は可愛いぞぉ。早う帰りたいなぁ。そもそも魔王選定会議って何なんだ?不参加と言ったはずなのに、何故かここにいるし。訳がわからぬ」

リザードマン「俺だって嫁いる!!不参加いって不参加できるなら皆そうしてる!!俺だって結界張って皮膚爛れながらも聖域作って籠城してたんだよ!!あああああ!!常識が通じないのは部下だけにしてくれ!!」

賢者妻アナ「魔王って何するの?」(何故か同伴)

 

その後アナのおねだり?「魔王様ってかっこいいね?」で賢者が魔王を引き受けた。

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