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あだ名

作者: 雉白書屋

 夜。駅が町に吐きだす人の数も少なくなってきた、この時間帯。

僕は一人、レジでボーッと立つ。店長はどっか行った。どうせ飲み屋だろう。

ワンオペ。しんどいけど、まあ、このコンビニは客入りが少ないから平気と言えば平気。

 客は一、二、三、あと一人はトイレで合計四人。

うん。いつものメンバーだ。毎晩この時間帯に会する言わば常連組。


 雑誌コーナーで立ち読みする『ピチデブ』

 ピッチリしたTシャツを着て時々、力こぶを作っては

自分でそれを眺めて悦に浸っている奴だ。

多分、筋トレしているのだろう。毎回、サラダチキンなどを買っていく。

 でもアイスも毎回種類を変え買っていくから

その腹はいつまで経っても凹まないままだ。


 化粧品コーナーをうろつく『細眉』

 ドラッグストアなどに行けばいいのに

なぜかコンビニで化粧品を買っていく不気味な見た目の女。

 スーツを着ているから会社帰りなんだろうけど、その眉。

見る度に細くなっている気がする。それに顔の所々が病気みたいに白い。

多分、ファンデーションの塗り方が下手糞なんだろう。

まだ化粧初心者で、コンビニ以外で化粧品を買うことを思いついていないのかもしれない。


『残心』オールバックの薄くなった白髪の爺。

 杖をつき店内を歩き回っては時々、杖の先っぽで商品に触れるクソジジイだ。

 初めて見た時は当時、ハマっていた映画の影響か

往年の殺し屋、実は強いお爺さん、達人、なんて勝手に妄想して

ワクワクしていたけどその股間部分を目にして一気に冷めた。

カーキー色のズボンに黒い染み。残尿だ。だから残心というわけ。


 最後の一人は『トイレ王』

 入店と同時に、トイレに直行する会社員風の男。

いつも長い。大体、二十分くらいトイレの中に籠っている。

だがまあ、滅茶苦茶に汚していくわけじゃないからマシな方だ。

 ジジイの杖の件はともかくとして、他の連中もまともといえばまとも。

 年齢確認した途端ブチ切れる瞬間湯沸かし器ジジイに

 箸を多めに要求するだけじゃなく、購入品と関係ないスプーンまでよこせと宣う強欲ババア。

 イヤホンで大音量で音楽を聴いたまま聞き返してくるバカ。いやほんとバカ。

今ここにはいないけど、コンビニに来る客の中にはこういった……あ、客だ。


「いらっしゃいま――」


「金出せ、金」


 はぁ……これもよくいる。ぶっきらぼうな言い方をする客。

『○○ください』って敬語を使えないものかね。

 それに帽子にサングラスにマスク。まるで強盗みたい。

あだ名はそのまま、ごうと……強盗!?


「え、あ、あの、う……」


「金!」


 どうしよう、あだ名は……いやいやいや、そんなこと考えている場合じゃない。

いや、でも何を、どうしたら、ああ、包丁が、誰か、誰か助け……


 あ、ピチデブ! その自慢の筋肉で……駄目だ、アイツ目を逸らしやがった!

 細眉は……いない。隠れたのか?

 ……あ、残心! そう、そのままこっちへ来てくれ!

おおお、まさか本当に実は最強爺だったりして、そうその杖で……あ、あ、駄目だ。

ズボンの染みが大きく……


 ――ジャアアアアァァァ


 豪快に漏らし、じゃなくこれはトイレの水の音!

 出た! トイレ王だ! アンタなら何とかしてくれるだろう!? 王だろ王!

……クソが! 戻りやがった!


「何をボケっとしてんだ! 金! さっさとしろ無能!」


「あ、あう」


 ――ピュイユイユイユイユイユイ!


 何だこの音!? 警報音? でも僕は何も……


「クソッ!」


「え、あ……」


 音に驚いた強盗は何も取らずに出て行った。

 そして……棚の陰から現れた細眉。

手間取りながら、手に持った防犯ブザーを解除した。

 そうか、彼女のお陰だったのか……。

 僕を見てニッコリと笑う細眉。ははっ何だよ、よく見ればちょっと可愛いじゃないか。


「だ、大丈夫でしたか? 鼻クソ沢さん」


「はい、ありがとうございま」


 え、鼻クソ沢?


「災難だったのう。チビヒジキ」


 ち、チビヒジキ?


「ふぅー、驚きましたね。まあ、助けようとはしましたけどね。

あ、警察呼んだ方がいいですか? テカツブさん」


 テカツブ……


「あ、あの……トイレお借りしました。青ひげプレッツェルさん……」


 青ひげプレッ、え? どういう?


 ハッと顔を見合わせた四人。

 あー、と声を漏らし頷き合うと仲良く店を出て行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] むかぁ〜しバイトでコンビニ夜勤をしていたので懐かしかったです(笑)
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