黄金を運んだヒトダマ
昔……信州の北安曇に働き者の息子と娘がおった。親自慢の息子と娘じゃった。しかしは流行病で両親も娘もいなくしてしまった。息子は独りぼっちとなった。
そんな息子……八兵衛はある日黄金の小判がたくさんある夢を見た。
八兵衛はそんなことあるもんかと思いながら農作業を放置して夢に出た小判が出た場所にやって来た。鍬で掘ってみると……なんと本当に出た!!
あまりに信じられなく八兵衛の者に小判の事を知らせた。
村人はその小判が八兵衛の物だと分かっていながらこっそり掘ってみた。すると黄金も小判もみんな人魂となって空へ飛んで行ってしまったのじゃ!
その話を聞いた八兵衛はまだ黄金のかけらが残ってるのかもしれぬと思い掘った場所に行ったが何も残って無かった。
八兵衛はがっかりして帰った。
帰ったあとになんと座敷に黄金が飛び込んでいた!!
「な……なんじゃ!?」
その黄金はやがて八兵衛がよく知るものになった。
――八兵衛……すまんな。お前だけ苦労かけて。
――兄ちゃん、ごめんね。
――八兵衛……せめてと思って夢をみさせてあげたかったの。
「そうか、その気持ち、気持ちだけ受け取るよ。みんな!」
――そうじゃない。この話を全国に伝えるのじゃ
八兵衛は父の話に耳を疑った。
――この話を元に神楽や絵にしていけば、お前さん大儲けじゃ。それが本当の「黄金」の意味じゃ!
やがて人魂は空へ飛び立った。
八兵衛は家族の言うとおりに話を日本全国に伝えるべく近所の和尚に伝えた。八兵衛は文字が書けぬので和尚が口伝を元に書き上げたのじゃ。
こうしてこの話は『安曇の人魂』として神楽でも錦絵でも有名となり安曇の宝となり文字通り村人に小判が舞い込んだのさ。
~めでたし めでたし~
『ある男が、夢で黄金の在り処を見た。行ってみると見たままの場所があるので喜び、村人に話した。村人がこっそりその場所を掘ると、土中の黄金は火の玉となって飛び去った。男が行った時には黄金は無く、がっかりして帰ったが、座敷に黄金が飛んできていた。』
最上孝敬「家の盛衰」『民間伝承』日本民俗学会 1950年 pp1-6.
元引用:『北安曇郷土誌稿』7輯
これは安曇に伝わる人魂伝説を創作したものである。