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9 国王陛下は嫁が選べないそうです…

「ねえ、エイダ。この宝石って何なの?」


選定の後は各自部屋へと戻った。

なんで最初は全員同じ透明な宝石だったのに、今は色が変化しているのか、水晶玉では何で私の時だけ変化しなかったのかとか色々聞きたいことがある。

でも、エイダに尋ねたら「前回の選定は50年以上前の話ですよ?私が生まれる前のことまで分かりません」と一蹴されてしまった。そりゃそうだよね。


「でも、その宝石は恐らく魔宝石の精度を高めた結晶ではないかと思われます」


…結晶?それにしては大きくないですか?私の疑問にもエイダは当たり前のように答えてくれた。


「先代の聖女様がお亡くなりになられた後、リーチェス王国では確実に聖魔力が枯渇していくことは分かっていましたから。その時から長い年月をかけて魔宝石の結晶を準備していたようですよ」


「でもさ、今回は3人も呼ばれちゃったけれど、毎回そんなに来るものなの?」


「その辺はちょっと、私には解りかねます。ただ、呼ばれてくるのは多量の魔力量をお持ちの方のみだと。それに、呼ばれた方はリーチェス王国の鉱脈に選ばれた方なんだと伺っております」


「鉱脈に選ばれるって…?勝手に好みの女性を見つけて異世界召喚させているわけ?」


 馬鹿馬鹿しい話だ。鉱脈に好みもへったくれもあるものか。そう思っていた私にエイダが頷く。


「王家の一族はリーチェス王国の鉱脈から生まれたという言い伝えがあります。ですから、国王陛下と鉱脈とは愛する者の波長が同じだと。…そうでなくては国王陛下が聖女様と愛し合ったときに聖女様の聖魔力を鉱脈が受け入れることも出来ませんから」


 …マジか…?でも、そうなると国王様に奥さんを選ぶ権利は無いんだな。

 鉱脈が選定したらそれが嫁です、さあ子作りしろって言われる訳だし…。

 好きな人がいても正妃には聖女様を据えなくちゃいけないのなら、側妃とかにするのかな。ちょっと可哀そうかも。

 それが判ったからと言って私にはどうしようもないんだけれど、少しだけあの意地悪国王が可哀そうに思えた。

 まあ、まなかちゃんもシホちゃんもきっと国王様を大切にしてくれるさ。そのうち勝手に愛も芽生えるだろう。

 そんなことよりも…私は自分の首からぶら下がっているペンダントを見下ろした。


「ねえ、エイダ、私のペンダントの色が変わっているんだけど理由を知らない?」


 その答えは彼女にも判らないらしく首を横に振られた。


「でも、まだまだ選定は続きますし、今後変化しないとも限りませんから。今は気になさらなくって宜しいのでは?」


 そうか…今日色が変わったからと言って今日聖女様が決定する訳じゃないんだ。

 …じゃあ、気にするだけ無駄かな…?


 エイダにお願いして私は王宮の蔵書庫へとやってきた。…だって一人じゃ迷子になるんだもん。

 一週間経っても覚えられないのは王宮の間取りが悪いのであって、私が方向音痴な訳では無い事を主張したい。

 リーチェス王国の言葉はすんなりマスターできたのに、この入り組んだ構造のせいで何度も上下したりグルグル回されるから方向感覚がマヒするんだよね。


「こんなに判りにくい間取りだと勤めている人たちだって大変じゃない?」


「賊が真っすぐに国王陛下の私室へたどり着けないように敢えて入り組んだ構造になっているんです」


 文句を言ったらエイダに返されて納得した。ソウデスヨネ…盗賊とか暗殺者対策か~…。

 私の世界ではそんな危険はなかったから考えたことも無かったよ。


 無駄話をしつつも蔵書庫の前に来ると、警備の人に許可書を見せる。


「私は入室の許可を得ていませんので、ここでお待ちしております」


 エイダが扉の前で頭を下げたのには焦った。


「え?でも時間が掛かるかもしれないし…ずっと立っているのは大変だよ。中に…」


「いいえ。国王陛下の許可がございませんから」


 …すごいな…。使用人の名前も覚えていない意地悪国王様なのに、こんなに忠誠を誓ってくれるなんて。

 本人は性格悪いけれど、周りには恵まれているよね…と失礼なことを思いながら扉を開ける。


 …扉の向こうは見上げるほどの本棚と蔵書で埋め尽くされていた。

 す、すごい!こんなに沢山の本があるなんて…!私は実は読書が大好きだ。

 三度の飯よりも本が好きで、没頭すると寝食を忘れて倒れることもあるくらいに本の魅力に取りつかれている。ここにはまだ読んだことの無い英知が溢れていると思うだけでよだれが出そうだ。

 だから、久しぶりに嗅ぐ、この少し独特のかび臭い本の匂いに大興奮してしまった。


 あああ…最高!ここにベッドを持ち込んでこの部屋で生活したい!

 ハアハアと鼻息も荒く本棚に突進するとつい本に頬ずりしてしまう。傍から見たら変質者なんだろうが、私の愛は止められないのだ!

 当初の目的も忘れて、文字の早見表を片手に翻訳に没頭してしまった。


「あの、リン様…?シャール先生がいらっしゃる時間ですのでそろそろよろしいですか?」


 エイダから声を掛けられてやっと我にかえる。…ええ?もう3時間も経ってる⁈


 でも…まだ本を読み足りないし…。グズグズしていた私を「本の持ち出しは出来ません!また明日連れてきてあげますから」とエイダは無理やり部屋へと連行したのだった。

 あああ…私の本が…。


 しょんぼりしてシャール先生にそのことを話す。


「リン様は本当に書物が好きなのですね。それでは私が町で話題の恋愛小説でもプレゼントしましょう。どんな話が好みですか?」


「私が読みたいのはこの国の歴史の本です。特に史実に基づいたものが読みたいんですが、先生はお持ちですか?」


「うーん…庶民の識字率が高くない以上、せいぜい貴族のご令嬢が読む恋物語しか手に入らないね。私で判る範囲でなら教えてあげられるけれど」


「ざっくりとした説明で構いません。この国の成り立ちとか、魔宝石の取引相手国とか過去に周りの国々との軋轢があったのかとかを知りたいだけですから…」


 単純に雑談のつもりだったのでウッカリ口を滑らすと、シャール先生の目が鋭く私を見つめた。


「リン様はそれを知ってどうするつもりなのかな?まさか、どこかの国に亡命…もしくは密航しようとか考えていないよね?」


 私を見つめる目には既に優しさも無く、嘘を見抜こうとする視線が痛い。

 …まさかこんな雑談から逃亡計画が漏れるとは思っていなかった私は大いに焦る。拙い…何とか誤魔化さなくては。


「そんな訳ないじゃないですか。第一、国王陛下が一生衣食住を面倒見て下さるのに、わざわざ苦労したい人間はいませんよ~」


 背中に冷たい汗が流れるが、ここはしらを切った方が勝ちだ。

 わざとらしかろうが、言い抜けるしかない!必死にアハハと笑い続けているとやっとシャール先生の視線が緩んだ。


「そう、ですよね。失礼なことを申し上げました。明日はお詫びに下町で大人気のお菓子をお持ちしましょう」


 先ほどとは打って変わって穏やかな口ぶりにホッとしつつ今日の勉強会はお開きとなった。

 ふう…何とか誤魔化せたようだな…。


お読み頂きありがとうございます。

本編が完結したらルカ国王視点も書こうかと思っているのですが…蛇足かなと悩んでいます。

宜しければ、感想から読みたいか否かを教えて下さると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読ませて頂きました。個々のキャラクターや世界観がそれぞれ生き生きしているので情景が思い描きやすいです。特にヒロインの考え方や行動が面白く毎回笑いのツボにハマってます。また、ぜひ国王陛下…
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