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7 国王陛下は寝起きが悪い…のか?

ベッドの上で、私は何故にルカ国王に抱きしめられているのだろうか…。

今度はドレスを着ているとはいえ、国王陛下は薄い夜着しか纏っていない状態。

その上、起き抜けのせいか目つきもトロンとしていて色っぽいし、はだけた胸元に、私の顔が密着しているから心臓に悪い。どうしろって言うのだ、この状況を!


「私のことを昨夜は随分と罵ったくせに、朝になったらお前が寝込みを襲うとは…。リンは行動に一貫性が無さすぎる」


そう言うと、私の耳をチロリと舐めて「それとも、私を振り回すのが目的か?」とニヤリと笑う。


体に響く声と、名前の呼び捨てに思わず顔が赤くなる。


「いえ、あの昨夜は私が寝ぼけて国王様を抱き枕にしたとエイダに怒られまして…お詫びに伺ったのです」と言うと、「エイダとは誰だ?」と返された。


「私のお世話をしてくれているメイドさんの名前ですよ?知らないんですか?」


「…知らん。お前はいちいち使用人の名前を覚えるのか?暇なやつだ」


「私が雇っている訳じゃないですし、彼女のことが好きなので。名前で呼ぶのはおかしいですか?」


「…使用人は名前を憶えているのに私のことはなぜ名前で呼ばない?」


「…国王様は国王様でしょ?不敬にあたるなら国王陛下って呼んだ方が良いですか?」


そう答えると、表情が一層険しくなった。…この人は寝起きが悪いのかもしれないな。

いちいち機嫌が悪くなる。


「そんなわけで、昨日は嫌な気分にさせてごめんなさい。…あの、お詫びも済んだので、そろそろ離していただけませんか?」


おずおずと言ってみるも「まだ詫びがすんでいないだろう?」と腕が緩む気配は無い。


「…うーん…おかげで風邪を引かずに済みましたとか?もう、お話しすることは無いですよ?あんまり時間を掛けると、皆さんが心配して入ってきちゃいますから…」


「私が良いと言うまではアイツらは入ってこない。安心しろ」


いやいや、安心できないし。…むしろ不安しかないわ。

身じろぎしながら、国王様を見上げると、私を見ていたらしき彼と目が合った。


…この人って本当にきれいな顔立ちをしている。

金色のサラサラの髪も、青い瞳も…いいなイケメンは。生まれた瞬間から人生勝ち組確定だもん。

さらに国王様なら富も名誉も約束された常勝人生間違いなしだ。あの二人も聖女様になりたいって張り切って当然だよね。ボーっと見とれていると、国王様もそのまま私を見ていた。


…何だか観察されているようで居心地が悪い。

フッと私を抱く腕の力が緩んだ隙に抜け出そうと国王様の胸に手を当てて力を込める。

直接触れた素肌の感触が、掌にじんわりとした熱をもたらして少しだけときめいた。


私の表情の変化に気づいたのか、今度は彼も上体を起こしてから私を引き寄せると口づけされた。

何度もついばむようなキスを繰り返されているうちに、昨日の彼の作り笑いを思い出す。

…きっとこれも聖女様になった時、誰も逃げ出さないようにするために事務的にやっている行為なんだ。

…そう思っただけで急速に心が冷えた。


「…私たちは聖女候補であって、まだ聖女様じゃないんだよ⁈あなたの奥さんじゃ無い!もし他の二人が聖女様なら不貞行為だよね!たとえキスだけだとしても、私なら絶対にお断りだよ⁈」


唇が離れた瞬間を逃さず、とっさに彼を罵倒する。離れた唇には彼の温もりがまだ残っていたけれど、それには気が付かないフリをした。

私の激しい罵倒に、一瞬にして彼から全ての表情が抜け落ちる。

…もしかしたら彼を…傷つけたのかもしれない。


「…そうか。お前からの詫びは受け取った。…もう戻れ」


それだけ言うと、彼は私を離して、自分もバスルームへ消えていった。

しばらくして、中から水音が聞こえてきたので慌てて退散することにした。

今度は痴女扱いされたらもう生きていけないからね。


外で待っていたエイダに顔を見せると「陛下はどうされたのですか?」と執事を呼ぶ。

執事がバスルームへ消えていくのを見て『お世話しているのは男の人だったんだ』と何故だかホッとした。…まあ、私には全く関係ないんだけどね?


「陛下にご意向を確認しました。リン様はもうお帰り頂いてよろしいそうです。聖女候補様全員と朝食を取りたいと仰せでしたから、是非ご準備ください」


国王様の執事は淡々と用件だけを伝えている。…確かにそれが仕事だろうけれど、感情を表して貰えないと取り付く島もない。

私はエイダと共にそのまま無言で部屋へと戻るしかなかった。


「それで、国王陛下とはどの様なお話があったのですか?」


部屋へ帰るとエイダからまた詰問を受ける。…あれ?主従関係がおかしいような…?


「うーん…国王様は寝ていて、ベッドにいたから近くまで行って謝ったよ?」


「お顔は見ていないのですか?聞こえていなかったのでは?」


「いや…顔も見たし、聞いていたと思う…よ?寝起きでボーっとしていたけど」


…肝心な部分を誤魔化そうと思うと、人はどうして挙動不審になるのだろうか。

そんな私に気が付かないはずもなく、エイダの視線が鋭くなった。


「ベッドの陛下の顔を見てお話しされただけにしては時間がかかり過ぎていますよね?それに、陛下は寝起きの良い方です。ボーっとしていたなど…作り話では無いですか?」


「いや、本当に目つきがトロンとしていたし、抱かれた時の体温も高かった…か…ら」


…しまった…。つい口から出てしまった。


「国王陛下に抱かれたと言うのは…つまりそういった行為をされたという…」


「待って、待って!違うよ!ただ抱きしめられただけなんだよーっ⁈」


 …結局、洗いざらい吐かされた私は涙目だったけれど、エイダはものすごくご機嫌になった。


「さあ、リン様。国王陛下とのお食事の準備を致しましょう」


 そのまま私は朝から風呂へと放り込まれたのだった…私の人権って…(涙)



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