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6 いつでも私には拒否権が無いようです

「先ほど、国王陛下はリン様のご様子を見に来られたのです。お支度中とは申し上げましたが、顔を見るだけだと仰られて」


はい…。でも裸なんだから部屋に入れないで欲しかったかな…。


「リン様が何も身に着けずにお休みだったので『風邪を引いたらどうする』と毛布を掛けようとしてくださったのにリン様が『寒いよう』と言いながら国王陛下に抱き着いたのですよ!」


はい…はいっ⁈ 寝ぼけていて全然覚えていません。


「私がリン様を起こそうとすると『起こしたら可哀そうだから』とそのままにリン様を外から見せないようにと天蓋まで下ろすように指示までされて…国王陛下は本当にお優しい方なのに、リン様はまるで暴漢に襲われたような対応をされたのですよ」


 …申し訳ございませんでした。でも、寝ぼけている間の行動なんて知らないもん。

 エイダはまだプンプンと怒っている。


「あの…お怒りはもっともなのですが、私…そろそろお洋服が着たいのですが…」


 私はベッドの上で正座をさせられたまま怒られている…裸で。

 毛布をかぶっているから寒くはない。でも、この下は素っ裸ってどんな痴女だ。

 ぅう…反省したからお洋服を下さい。

 私が涙目で懇願するとやっとエイダは留飲を下げてくれた。


『でも、今日はもう国王陛下に会いたくない』と言ったとたんに、また目が吊り上がる。


 エイダは本当に国王陛下を崇拝しているんだな…。


「だって、無礼なことしちゃったし、裸で抱きついて困らせたでしょ?顔を見たら恥ずかしくて死んじゃうもん」


「国王陛下はきっと気にされませんよ?早めにお詫び申し上げた方が傷は浅いのではないですか?」


 …うん、そうかもしれない。でもね、あの国王様はエイダが思うような優しい人物では絶対にない。

 私の顔を見たら嘲笑われて他の二人の前で辱められる。

 それだけは避けたいんだ…あの二人が聖女様に決まるまでは、彼女らに敵意を持たれたくないのだ。女の嫉妬は怖いからね。


「エイダ…お願い。今日だけ…今夜だけだから、ね?」


 涙目でウルウルしたら『今夜だけですよ』と国王陛下に報告に言ってくれた。

 よし、エイダは泣き落としに弱い!


 ルンルンしながら部屋着に着替えて夕飯を頂く。うーん、今夜のディナーも最高!

 タンドリーチキンは皮がパリパリで肉汁が溢れる最高の焼き加減だし、ジャガイモのムースもこれまた美味い!国王様さえいなければ王宮の生活は最高なのにな…。

 お腹いっぱいになって、少し眠くなりながら明日からのことを考える。


 …この世界に来てから四日が経った。

 向こうの世界と同じ時間の流れだとすれば、私が忽然と姿を消したことは当然判っているだろうし、捜索願が出されている頃だろう。

 …家族が心配しているんだろうな…。そう思うと寂しくて涙が出そうになる。

 でも帰れない以上はここでの自分の居場所を作るしかないし、きっと家族もそうしろって言うに決まっている。

 明日は、早起きして国王様に謝りに行ったら、シャール先生にリーチェス王国の言葉を教えて貰って、それから王宮の中を案内して貰おう。そう思いながら眠りについた。


 翌朝、私は予定通りものすごく早い時間に起きることが出来た。エヘン!有言実行!

 でもエイダが来る前に、この世界に来る前に着ていた服に着替えて準備していたら、怒られて脱がされたけれど。


「王宮の中を異世界の服で歩けば、目立ちすぎます。いくら王宮が安全だとはいえ、誰に目を付けられるか判らないんですよ?聖女様を利用しようと誘拐を企む貴族だって少なくはありませんから」


 そんなに危険なの?じゃあ、余計に聖女様になるのは危ないじゃない…。


「じゃあ、これから国王陛下に謝りに行くから目立たない服を出してくれる?」


 そう言うと、エイダは心底嬉しそうに準備してくれた。


「動きやすいドレスにしましたからね。あとはお化粧をしましょう」


 そこまで必要か?と思ったけれどエイダが嬉しそうだから我慢して彼女のしたい様にさせる。

 …今までわがまま言って困らせていたしね。


「それでは、国王陛下の私室へご案内します」


 やり切った!という笑顔を見せる彼女に案内されて王宮内を歩く。

 初日以来の部屋の外は、相変わらず広い。一人だったら絶対に迷子になる自信がある。

 私はエイダに置いて行かれないように速足でついて行った。


「国王陛下…聖女様候補のリン様をお連れしました」


 エイダが、無駄に重厚な扉の前でノックすると、中から執事らしき人が現れる。

 その人と何事かを囁き合うと、エイダは私に頷いた。


「ここからはリン様にのみご入室が許可されました。国王陛下はまだお休み中ですので、お静かにお入りください」


「ええ~…まだ寝ているんだったら帰りたいな。特に急ぎの用事でも無いし…」


 そうごねてみたけれど、エイダも執事さんも笑顔で無言を貫いている。

 …あ、これ拒否権無いやつですね…。 

 渋々、少しだけ薄暗い部屋へ足を踏み入れると、後ろで扉が閉められた。

 ヒイッ⁈び、吃驚した。帰りたいけど出してもらえそうも無いし、恐る恐る奥へ進む。


 私の部屋の倍はありそうなベッドルームに、奥には扉も付いている。書斎も別とは贅沢ですね…書斎なのか知らないけれど。


「あの~…国王様…まだお休みですよね?」


 小声で少し離れた所から天蓋の閉まったままのベッドに声を掛ける…無言だ。

 今度はベッドの横に少し離れて立ってから同じことを繰り返した。…やっぱり返事は無い。

 これってやっぱり寝ているんだよね?でも、寝息すら聞こえないってことは無人なのでは?

 …誰もいないところに話しかけていたとしたら私ってば恥ずかしい


「誰もいないんですか?…開けちゃいますよ~?」


 そっと天蓋に手を掛けて隙間から覗こうとした瞬間、奥から伸びてきた腕に引っ張られて倒れこんだ。


「今度は朝から寝込みを襲いに来るとは本当に大胆なやつだな。…そんなに私に抱かれたいのなら早く言えばいいものを」


 お前こそ居るんだったら返事しろよ!と言いたいリンだった。



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