52 愛しの君は私の腕の中で眠る
※誤字報告ありがとうございました。
やっとリンに…彼女に想いを告げることが出来る。
だが、リンはまだ怯えているのではないか…?
エイダはリンが夜着を纏って私を待っていると言っていたが、本当だろうか…?
ソワソワしながらも公務を終え、自室へと急いだ。
扉を開けると、ベッドの上に毛布をすっぽりと頭まで被ったリンが私を見て微笑む。
「国王様、お待ちしていました」
そうは言うものの、何故だかソワソワしていて挙動不審だ。顔も赤いし、風邪だろうか?
「何でそんな恰好をしているのだ?寒いのか?」
尋ねても彼女は“心配いらない”の一点張りでこちらを見ている。
「あの、聖女様は結局誰に決まったんですか?」
リンは心配そうな顔で私を見ているが、お前が聖女だと告げる前に彼女から今の気持ちを聞きたい。
「それより、お前は私に話すことがあるのではないか?先ずはそちらを聞かせてくれ」
しばらく迷った後、彼女の口からはセオドア王子に騙されてしまったことの詫びが告げられた。
自分が愚かにも騙されたせいで、私に不利益を被らせたと悔やんでいるようだ。
「一生、王宮で働かせてもらって、騙された分の損失を…少しでも魔宝石の鉱脈代として返したいと思っています」
その言葉に一瞬で思考が停止した。…一生…王宮で…私の傍で働く?
「ルカ様が望むなら、私は何だってやります。体力には自信がありますから精一杯ご奉仕しますから…」
もうこの決意だけ聞けば私には十分だった。
別に彼女から金銭的に返して貰おうとは思っていないのだから。
言質を取った以上は彼女も私から逃げないだろうし、精一杯(体で)奉仕してもらえるなど…まあ、うん…内心嬉しいしな…。
「お前の気持ちは判った…。それでな、聖女の事なんだが…」
だが、私の言葉を遮るように、いきなりシホとトーマの恋仲を認めろと言い出したのには驚いた。
あれ程私室で大人しくしていろと言ったのにも関わらず、彼女達は情報の共有を行なっていたという事か?私の言うことを聞かないにも程がある。
しかも彼女の中ではどうやらシホが聖女であり、私と結ばれるというシナリオが出来上がっているらしい。
…私の事を愛しているくせに、どうして彼女は他の女と私を婚姻させようとするのか…全く理解できない。
泣きながらシホの事は諦めろ、替わりに自分が一生王宮で働くからと喚くリンに私は問いかけた。
「お前は一体…なんの話をしているのだ…?」
トーマと彼女を引き合わせたのは私だと告げると、彼女が“寝取られ趣味”があるのかと言い出したのには思わずイラっとしてデコピンをしてやった。
「違うわ!この馬鹿め‼聖女候補の選定中に、シホがトーマのつがいであることが発覚したから引き合わせたまでよ」
マナカも貴族との縁談の準備を進めているし、シホもトーマに嫁ぐことになる。
だから安心してリンは私のモノになれ…そう言いたいのに、彼女は微妙な顔をする。
「ルカ様…。大変ですよ?ルカ様のお嫁さんがいません‼ってことはもう1回異世界から聖女様を呼ぶんですか⁈」
どうしてそうなる⁈ 思わず「こいつは本当にバカなのか…?」と呟いてしまった。
もう良い。リンには逃げ道を塞いでから真実を告げようと諦めた。
「…とりあえず、お前にはこれから一生王宮で働いてもらうことになる。最初の1か月は無休で当然外出も禁じられる。その代わりと言っては何だが、お前には一生、三食昼寝付きで衣装と住居も与えよう」
リンの顔が驚きで一杯になるのを見て、これは食いついてきそうだな…と内心でほくそ笑む。
「それで良ければお前の気が変わらないうちに契約を結びたいのだが」
コクコクと頷くリンは私が騙そうとしているとは微塵も考えていないようだ。
…セオドア王子に騙されたばかりだというのに…本当に学習しない娘だな。
「先ほどの条件が明記してあるだけだ。私はこの後、非常に重要な公務がある。さっさとサインしてこちらへ寄越せ」
迷うことも無くリンが署名すると契約書と隷属の指輪が連動して輝いた。
何が起こったのか判らずポカンとする彼女にやっと真実を告げる。
「これは私と婚姻を結ぶ、婚姻証明書だ。これから一生私の傍で可愛がってやろう」
“私の愛する聖女様”と囁きながら口づけを落とすと真っ赤な顔で抵抗された。
「確かにお前に無理強いしたことは認めよう。だが、婚姻証明がある以上、私たちは夫婦なのだ。もう我慢したくない…」
つい本音が零れてしまっても、彼女はどうしても私の説明を聞くまでは嫌だと拒否する。
曰く、自分が聖女だから国の為に自分を好きになったのかと…。
これには答えに困ってしまった。最初からリンの姿しか見えないくらい彼女を求めていたから。
聖女だからか否かと聞かれても答えようがない。
「まったく私を見もせず、避けるわ、嫌うわ、悪口を言うわで…あげくに逃亡まで図ろうとするとは思わなかった。歴代で一番困った聖女だったな」
私の彼女を想う気持ちは伝えた。
だから、今度は彼女自身が私の事をどう思っているのかを知りたい。
リンは私の気持ちをかみしめるように、ゆっくりと話し始めた。
“この世界に来て、自分の力で生きたいと思ったこと、人の役に立つ仕事がしたかったこと、そして、私から離れるために王宮を出たかったこと…。”
「…それほどに私から愛されるのは嫌なのか…?」
しかし、彼女は“違う”と首を振る。
「私がルカの事を好きになっちゃったから…聖女様とルカが愛し合うのを傍で見ていることが苦しくて我慢できないと思ったから離れたかったの…」
「…お前が…嫌だと言うから触れないように我慢したというのに…?」
「うん…。だって私以外の人を抱くくせに、私に触れるなんて我慢できないもの…」
「…お前自身が聖女なのに、お前は自分にヤキモチを焼いていたのか?」
「絶対にシホちゃんが聖女だと思っていたから。ルカがシホちゃんに触れて微笑むたびにイライラしてこんな自分が嫌いになりそうだった」
リンが私を好きで、ヤキモチを焼いていたと…胸にじんわりと熱い想いがこみ上げる。
心が満たされるとは…こういう気持ちなのだろうか。
そのまま彼女が体に巻き付けていた毛布をはぎ取ると、リンはあられもない姿で恥ずかし気に俯いた。
あまりにも煽情的な夜着…これを着て女性がベッドで待つ意味など一つしかない…。
愛を囁きながら彼女の柔らかな躰に手を伸ばすと、リンが耳元で“ルカ…大好き”と小声で囁く。
「…私の全部をあげるから、ルカの気持ちも全部欲しいの。聖女じゃなくて、ただのリンとして愛してくれる…?」
それ以上煽られたら、彼女が止めてくれと泣きわめいても止めてやれる気がしない。
噛みつくような口づけでリンの口内まで舌を侵入させると彼女の全てを奪うように蕩かしていく。
激しく唇を奪うとぐったりしたリンを組み敷いた。
「もうすでに、私の心はお前のモノだ。…ああ一度愛するだけでは終われる気がしない。このまま、私の気が済むまでお前を離してやれそうもないな」
「あの…私、初めてなので…そんなに長い間は無理かと…」
オロオロしても可愛らしいその姿に加虐心までが掻き立てられる。
「あんなに私を煽った責任を取ってもらうだけだ。それにあのオールヴァンズの王子いわく、『世界は概念で繋がっている』そうだぞ。お前の聖魔力がこちらの世界を癒し、潤せば、異世界のお前の国にも癒しの力は降り注ぐ。だからお前が私を愛すれば愛するほど、異世界のはやり病も癒される可能性はあるな」
だから、お前は私をたっぷりと愛せばいい…そう囁きながら、私は最愛の聖女と結ばれる幸せを噛みしめた。
実は聖女召喚の儀式が行えるのは、生涯に一度きりなのだ。
国王として即位した以上は必ず行わなければいけない儀式にも関わらず、確実に聖女に愛される訳でもないこの儀式は、国王としての資質も問われているのかもしれない。
リンを手に入れた今となっては笑い話だが、聖女に愛を返されない国王は資質無しとして幽閉され、第2王子が即位する可能性もあったわけだ。
腕の中に眠るあどけない彼女にそれを告げることは生涯無いだろうし、もし彼女が私から逃げ出してもきっと捕まえて私の元に縛り付ける。
すでに心まで彼女に捕らわれてしまった私は、永遠に聖女様の愛を所望し続けるのだから。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これからも、不定期ではありますが番外編も投稿…するかも…しれません。
次回作でもお会いできることを心よりお待ち申し上げます。




