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50 ルカ国王の聖女に捧ぐ想い⑤

「魔宝石の鉱脈はリーチェス王国の宝だ。それを他国の者に売り渡すことは出来ない」


そう告げてもセオドア王子は微笑みを崩さない。


「土地を売ってもらう必要はありませんよ。一部の有望な鉱脈で産出された魔法石の輸出に関する権利だけ欲しいのです」


「それでも、我が国にとっては大変な損失になる。そのような話には乗れない」


「…ではリンは要らないのですか?彼女がいなければ昨今困ることになるのは貴方の方では無いのでしょうか?」


“魔宝石のためにもリンは必要でしょう?”耳元で囁かれ、戦慄した。

まさか…この王子はわが国の秘匿事項をどこまで掴んでいるのだろう。


「まあ、異世界人がこの国に現れてからと没してからの魔宝石の産出量と、今の減少状況時に再びの異世界人召喚とくれば推察することは可能ですよ。それに、ルカ国王のご様子から彼女かなと思ったもので」


このような悪質な王子に弱みを見せた自分の失態を呪う。

…ここで断わればリンは確実にオールヴァンズ王国へと連れ去られてしまうだろう。

かなり手痛い損害にはなるが、これで手を打つしかないか…。


「判った。…貴方の要求をのもう」


「ありがとうございます。勿論タダで貰おうとは思っていません。適正な金額であれば私の私財から支払いもしますよ」


「オールヴァンズ王国の名義にしなくても良いのか?」


「ええ。私名義でお願いします。愛する婚約者と確実に婚姻する資金を用意しておく為ですからね」


床に呆然と座り込んでいるリンはショックなのか言葉も発せず俯いている。


「ごめんね、リンちゃん。君の事を利用して…でもこれも私の幸せのためだと諦めて」


美しい顔をして、平然と人を騙す…。

このような恐ろしい人物に愛された婚約者が少しだけ気の毒になった。


契約書を交わして、我々はもう一度パーティー会場へと戻ることとなった。

リンには可哀そうだが、部屋へ戻すように指示し、エイダも一緒に傍仕えにさせた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


パーティー会場では、未だ興奮冷めやらぬ人々が溢れている。


「…セオドア王子は先ほど“隷属の指輪”をリンに着けていましたが、我が国では奴隷制度は違法だとご存じですか?」


 セオドア王子は微笑んだまま答えない。

 …これは判っていてやったのだと確信した。


「あの指輪は通常の物と違い、私が改良を重ねた隷属…というよりは婚姻の指輪に近い物になります。…愛する者に着けるための指輪…私も帰国したら婚約者に贈りますが」


「…婚姻の指輪をなぜリンに着けさせたのですか?初めて会ったというのに」


「あの指輪を着けていると契約者の元から逃げ出すことは出来ません。…それだけでは無く、言霊に反応して、躰を操ることが出来るのですよ」


「…躰を操るとは…?本人の意思とは関係なく動かせるのですか?」


「ええ。契約者が“足を開け”と告げれば動きますし“腕を伸ばせ”と言えば同様に動きます。まあ、互いに愛し合っていればお遊び程度ですが、閨でも楽しめるモノですよ?」


 …この王子は本当にとんでもない腹黒だ。

 そんな…まあ、少しだけ試してみたいモノをリンに着けるとは。


「ですから、婚姻の契約を結ぶときにでも連動させてしまえばよろしいかと。魔宝石の権利を融通していただけたルカ国王に私からの細やかな贈り物ですよ」


「セオドア王子は魔宝石鉱脈の権利を手に入れてどうするおつもりだ?商売でもなさるのですか?」


 嫌味を込めて言った私にセオドア王子は破顔した。


「フフ…それも良いですね。実は私の婚約者アメリアが、民の医療に関心がありまして、温かく清潔な湯があれば民間の消毒や病気の治療にも役立てられないかと気にしているんですよ」


「それで我が国の風呂を気にされたのですな?」


「ええ。魔宝石が芳醇に利用できれば、それも難しい話では無いですし、その権利さえあれば彼女を確実に手に入れる足掛かりにできますから」


「王家の一族が商売や利益を追求されるとは…王位継承はされないおつもりですか?」


「まあ、彼女さえ望めば。でももし彼女が逃げようとしたら追いかけるためにも様々な手は打っておきたいのです。金銭面でも、商売でも」


 …この王子の婚約者の女性が少し…いやかなり気の毒になってきた。

 婚姻を嫌がったとしても、もうセオドア王子から逃げ出すことは完全に不可能だろう。


「セオドア王子は少し…執着が激しいと言われることはありませんか?」


「フフフ。ルカ国王にだけは言われたくありませんよ。」


 私の何処が、執着が激しいと言うのだ?…全く持って失礼な王子だ。


「これからも友好国として、そして同胞としてルカ国王とは良い関係でいて頂きたいと思います。兄妹にもなりますし、互いに助け合いながら国を支えていきましょうね」


そう言われてしまえば仕方がない。私はセオドア王子と固い握手をしたのだった。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 パーティーが終了する間際、トーマ第2王子が私の元へ興奮した面持ちでやってきた。


「兄上!私は運命の女性を見つけました‼」


 そうだろう、知っている…とは言わず続きを促すと、夢見るような顔で頬を染めた。


「兄上が異世界から召喚されたシホという女性です‼彼女を一目見てすぐに恋に落ちました。…聖女候補なのは判っておりますが、どうしても彼女と婚姻したいのです。お願いです!私と彼女のことを認めてください」


 …よし、計画通りだ。

 トーマは熱に浮かされた様に話しているが、今はまだ聖女の選定中で返事をすることは出来ない。


「…彼女は…シホはお前の事をどう思っているのだ?片思いでは認める訳にはいかぬが…」


「シホも…彼女も私を愛してくれています‼互いに一目惚れし、今夜部屋へ帰すのですら辛かった…。彼女も同じ気持ちだと言ってくれましたし、是非婚姻のご許可をお願いします」


 つがいだと気づかせることには成功したようだが、若い二人は性急に事を進めようとしてくる。

 取り敢えずは聖女選定の儀がすべて終了するまではシホの身柄は王宮に留めおくことと、私は決してシホに懸想しないと誓わされ、その晩はなんとかトーマに納得させたのだった。


セオドア王子は魔道具の開発も片手間でやっているのです。彼にとってはアメリアが最優先事項なので、彼女の喜ぶ顔を見たい反面、悪い事(主に閨関係)も頑張っているのでした(笑)

※前作をお読みでない方は気にしないでスルーして下さい。

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