48 ルカ国王の聖女に捧ぐ想い③
オールヴァンズ王国の王太子ご一行が到着した。
噂通り、赤髪にルビーのような鮮やかな瞳の美しい青年が爽やかに微笑みながらこちらを見ている。
後ろに並ぶグリーンゴールドの髪、エメラルドの瞳を持った少女のような外見の少年はリアム第2王子だろうか。…成程、確かにエンネルが好みそうな儚げな外見をしている。
「私はリーチェス王国の現国王ルカ・アーロ・リーチェスと申します。オールヴァンズ王国の王太子様方に置かれましては、お忙しいところ本日はわが国に足をお運び頂き感謝します。オールヴァンズ王国のような大国と違い、我が国は田舎ですから珍しい物もございませんが、ぜひ滞在をお楽しみ頂きたい」
私が口上を述べると赤髪の青年は手を差し出してきた。
「私はオールヴァンズ王家のセオドア・フォン・オールヴァンズです。急な訪問にも関わらず、このような場を設けて頂き感謝いたします」
微笑んではいるが、目は油断なくこちらを観察している。…食えない男だ…。
「私はオールヴァンズ王家の第2王子リアム・ジョエル・オールヴァンズと申します。この度はルカ国王陛下の妹姫で在らせられるエンネル王女との婚約をご報告に参りました」
少したどたどしいが,しっかりした口上で挨拶してきた。
…やはりこちらのグリーンゴールドの髪の少年がエンネルの相手で間違いないらしい。
幼い頃から精霊だの、美しいモノに目が無かった妹姫だから外見が不細工だったら政略結婚だろうと承知しないのではないかと危惧したが、どうやら好みのタイプと婚約できたらしい。
…しかし婚約をして一番幸せな時だと思うが、それにしてはリアム王子の顔色は冴えない。
やはり強行軍で疲れているせいなのだろうか。
「リーチェス王国の魔宝石の鉱脈などもお二方には御覧に入れたい所ですが、どうやらお疲れのご様子。本日は王宮でごゆっくりお休み頂ければと存じます」
「お気遣いに感謝します。…王宮で、互いの利になる貿易についてのお話しも進めさせていただければ嬉しいですね」
セオドア王子は暗に魔宝石の流出量を自国にとって有利な条件で寄越せと告げているようだ。
…ここはじっくりと討論が必要なようだな。
高貴なる者たちは腹の中を探り合いながら、笑顔で王宮へと向かったのだった。
王宮に到着すると、二人の王子たちは暫しの休息を取りたいと部屋に引きこもってしまった。
…予定では会談をして王都の案内をする計画だったので、勝手な予定変更には業腹だが大国相手では不平も言えない。
宰相に本日の警備体制を変更するように連絡してから執務室へと向かう。
正直、体の疲労が激しいのでこのわずかな休息時間は嬉しい。
…本来であれば気を張り詰めてあの抜け目の無さそうな王子たちの相手をしなければいけないところだったのだから、むしろ僥倖とも言えるだろう。
少しだけでも仮眠を取ることに時間を使うことにした。
それからの一週間はひたすらに精神の削られる毎日だった。
オールヴァンズ王国では魔宝石を使い、我が国特有の湯を沸かすことが出来る風呂の文化も取り入れたいからより多くの魔宝石を流通させてほしいと打診があった。
だが、いくら友好国とはいえ、一国にのみ融通をしては近隣諸国との友好関係が崩れかねず、簡単には受け入れられない。
「我が国の産物を欲していただけるのはありがたいお申し出ですが、やはり諸国との均衡というものがございます。それに、近年では魔宝石の産出量も減少の一途を辿っておりまして、なかなかご要望にお答えするのは難しいかと」
「ご無理を申し上げるつもりはありません。…ところで、本日、王宮内で毛色の変わった子ネズミを見つけました」
ディナーの席でも相変わらず胃の痛い話題が続いている…うんざりしつつも、これも外交だと愛想笑いで会談していたところ、いきなりセオドア王子が話題を変えてきた。
…毛色の変わった子ネズミ…?それが異世界の女性を比喩しているということが判り、内心の動揺を悟られないように続きを促した。
「毛色の変わった子ネズミに手でも齧られましたか?」
「いいえ。その場は怯えて逃げられてしまいましたが、なかなかに興味深い存在でした。もしかしたらあの子ネズミがルカ国王陛下の大事なペットかと思いまして」
…この男はどこまで判って言っているのだろう?
恐らく、王宮のどこかでリンと出会い、異世界から来た女性だということを悟ったはずだ。
その時、リンから何かの話を聞いて、私が彼女を束縛していることに気づいたのか…?
「…セオドア王子は、自国に大層お気に入りの女性がいらっしゃると聞き及んでおります。そのため、今回はお傍に侍らす花を用意しませんでしたが、それでは不服でしたか」
「とんでもない。私は愛する婚約者を悲しませるつもりはありませんし、その心配はご不要です。もちろん人の大切なペットに手出しをするつもりもありませんからご安心を」
…本当に食えない男だ。
リンに手出しはしないから魔宝石について譲歩しろとジワリジワリと追い詰めてくる。
…こんな王子に惚れられている婚約者の女性は、この執念深い男から逃げることは出来ないだろうな。…まあ、リンにさえ手出しをしなければ構わないが。
「最終夜のダンスパーティーには大勢のご令嬢も集まります。そこでセオドア王子のお気に入りの花が見つかることを祈っていますよ」
「フフ…私の愛する花以上の女性が見つかるとは思いませんが。…それでも素晴らしい夜になるよう期待しております」
胃がキリキリと痛むようなディナーはこうして終了したのだった。
セオドア王子再び登場です。…なんか、腹黒キャラを書くのが楽しくて(笑)
ルカとセオドアはこんな攻防を繰り広げていたんですよという補足ですね。




