46 ルカ国王の聖女に捧ぐ想い①
私のベッドの上で彼女を膝に乗せる。
触り心地を堪能していると、撫でまわす手を止めろと怒られた。
…少しぐらいは良いと思うのだが。
「ルカ様とは一度、じっくりお話しなければいけないと思っていました。私たちの元いた世界では、恋人になるまでは過度なスキンシップはしません。ですから、今のようにルカ様に口づけされるのも正直困ります」
…そうか…彼女の中ではまだ私の存在は恋人では無いということだな。
「今さらですけれど、この国に私たちが呼ばれた経緯や理由、そして私たちが出来ることをルカ様の口からお聞きしたいのです。ルカ様のお考えや、ルカ様のご家族についても私は何も知らないのですよ?ですから、国王様の口から語っていただきたいのです」
確かに彼女とじっくり話す機会はほとんど無かった。
リンがそれを求めているのなら答えてやりたいと思う。
…だが、ただ話すだけでは私たちの距離が縮まらないではないか。少しだけ触れ合いを要求してみるのも良いか…。
「私もそれほどに暇では…どうしてもと言うのなら、やはり同じベッドで眠りながら話すのが一番であろう」
「じゃあ…エッチなことをしないのなら、一緒に眠ります」
まさかリンが同衾を拒絶しないとは思わなかった。どこまで許されるか試してみよう。
「どこまでなら、しても良いのだ?お前の基準が判らない」
「じゃあ、キスぐらいなら…してもいいです。」
「お前から寝ぼけて抱きついてきたらどうする?私のせいにされても困るが」
「…じゃあ、体を触ったり抱きしめたりも大丈夫です…」
本当に彼女は無自覚なのか?ここまで許すのなら絶対に私の事を好きだと思うのだが。
「…判った。では今夜から早速一緒に休むか。リンがどうしてもと言うのなら仕方ないからな」
思わず顔が緩みそうになってしまう。なんだ、もっと前から話し合えば良かったのだ。
王宮の中庭での捕り物は小一時間ほどで終結した。
エイダから賊についての報告を受けると、やはり下級貴族が絡んでいるらしい。
「全ての賊は確保し残党もいないようです。聖女候補様の二人もお怪我も無く無事です」
そう言って下がるエイダをリンがボーっと見つめていた。
「エイダって、本当に騎士様なんだ。カッコいいし…お嫁さんにしてほしい…」
何でエイダ?私の方がお前を大事にするのに…
「エイダは女だぞ?」
そう言って思わず口づけするとリンは恥ずかしそうに俯いた。
「もちろん、エイダが女性なのは判っていますけれど素敵すぎるんだもん。…あ、ルカ様も金髪に碧眼で外見は精霊とかみたいで素敵ですよね~」
その言葉に思わず笑みがこぼれた。何で妹姫と同じことを言うのだろう。
私に兄妹がいたことを話したらリンは嬉しそうに聞いてくれた。
第2王子のトーマも、妹姫のエンネルも離宮で暮らしているので、さほど身近に感じないがリンは私と妹姫の性格がそっくりだと喜んでいた。
…私は妹姫ほど執着が激しくないと思うのだが…?
さらに今は亡き両父母の事まで尋ねられた。
両親は、はやり病で他界したことを告げると悲しそうな眼をして“寂しいね”と言う。
「人の寿命は神にしか決められぬ。寂しくても仕方の無い事だ」
出来るだけ感情を抑えて話したつもりだったが、少々感傷的になっていたのだろうか。
私の頭を撫でながら彼女が笑顔を見せた。
「よしよし、いつもお仕事頑張って偉いですね。リンお母さんがいい子いい子してあげます」
そう言って抱きしめられると心の奥の方から温かいモノが溢れだしてきた。
まあ…別に私はマザコンでは無いし、リンに母親を重ねているつもりはない。
それでも彼女の労わってくれる気持ちが嬉しかった。
「あんまり無理をしないで時には休んでね。お母さんはいつもルカを見ていますよ」
チュッと音を立てておでこにキスされる。
私の聖女様は私の感傷まで癒してくれるのだなとほんのり心が温かく満たされたのだった。
話し合いをした日からリンとは同じベッドで眠るようになった。
軽い触れ合い程度なら許してくれるので、聖魔力が足りないとごねれば口づけも出来る。
もちろん濃厚な口づけを頂くのだけれど。
以前よりもずっとリンは素直に私の傍に来るようになった。
ただやり過ぎると怒りだすのでさじ加減が難しい。
躰を抱きしめるのは良いが、胸を揉むのはダメらしく怒られたので“寝ぼけたから”と誤魔化したら不問になった。…今後はもう少し攻めても良いかも知れない。
飽きることなく、毎晩話をしていると彼女の気持ちが少しだけ理解できた気がする。
確かにいきなり異世界に飛ばされて王宮に閉じ込められていれば不安にもなるか…。
執拗に外の世界を見たがったのも、自分が今いる場所を目で見て知りたかったのだと悟った。
現在リーチェス王国では王家の魔力と繋がる魔鉱脈があり、魔宝石の産出量の増減に関わっていることや、王位継承者の魔力だけでは維持できないため、現国王陛下の魔力量と同じだけの聖魔力を持つ女性を異世界から召喚することも説明した。
特に聖女は、互いの魔力を交わらせ、鉱脈の活力とすることも重要だが、王家の子孫を残すという意味でも重要な存在だということもリンにはしっかり理解してもらいたい。
私の子供をリンが生むということ…本当にここは重要なのだ。
「でもさ、もし聖女様に選ばれた人が国王様の好みじゃなかったら…それでも結婚するの?」
リンは不思議そうに尋ねるが、私は“もちろんする”と即答した。
「聖女に選ばれるのは、魔鉱脈が自分にとって必要な聖魔力を保持していると全身全霊で欲している者だからな。国の為にも娶るのは必然だ。…それに魔鉱脈と国王とはやはり波長と言うか、好みが同じでな。大概は問題も無く国王は聖女に溺れてしまう」
だからお前に溺れているのだと遠回しに伝えているのだが、鈍い彼女は気づかない。
「ただし聖女はその法則に縛られている訳ではない。やはり聖女側にも愛してもらわねば婚姻は難しくなる」
そこまで言えば、自分以外の女性は魅了されているのだし、聖女は自分だと気づくかと思ったが、リンは全くそんなことは思わないようだ。
「うーん。でもルカ様だったらきっと大丈夫だよ!まなかちゃんもシホちゃんも既に国王様にメロメロっぽいから‼私が保証するよ」
何の保証なのか…ここまで鈍いとむしろ感心する。私はそっとため息を吐いた。
しばらくして3回目の聖女選定の儀式が行われた。
リンのペンダントは前回よりかなり鮮やかなブルーに染まっている。
確実に彼女の気持ちが私へと向いていることを喜びつつも、聖女候補のシホが第2王子トーマの番いであることがここで発覚した。
まさかの異世界に番いがいてそれを引き寄せた運にも驚くが、こうなるとシホの扱いが難しくなってくる。
今迄の聖女選定の儀では恐らく水晶玉がトーマの番いだと判断し、彼女の聖魔力は奪っていないと思われる。
私の魅了を解き、彼女とトーマを自然な形で出会わせるのにも理由付けが必要だ。
元々聖女候補として異世界から呼んでいる以上は、聖女候補達は国王のモノとして王宮に留め置かれてしまう。それゆえに離宮に住むトーマとは接点が無いのだ。
下手にシホだけを王宮から連れ出せばリンが大騒ぎして、自分も出て行くと言い出すのは目に見えている。…それだけは避けたい。
私は突如降りかかった難問に頭を抱えた。
来週中に完結する予定です。長々と書いてしまいましたが、あと少しお付き合いくださいませ。




