45 ルカ国王の拗らせ物語⑤
翌日からリンは全く口をきかなくなった。
一緒に食事をしていても、話しかけても一言も喋らない。
もしかしたら他の二人に贈っていた宝石の話を聞いて羨ましくなったのかと思い、沢山のドレスや宝飾品を贈ったけれど、開封すらしないとエイダから報告を受けた。
本当にお手上げだ。
こんな騒ぎがあっても2回目の聖女選定の儀式はやってくる。
結果として、前回より若干色づいたリンの魔宝石はほとんど変わらないままだった。
やはり彼女の私に対する想いは友人の域を出ないらしい。
魔宝石の色がどんなに隠そうとしても想いを暴いてしまうからそれは間違いなく事実だ。
だが、残された時間はあと数週間しか無い。
口すら聞いてもらえないこの有様では彼女は私を絶対に拒むだろう。
私は頭を抱えたのだった。
「…いい加減に口をきかないか」
あれから数日が経ち、嫌がるリンを無理やり執務室に連れてきた。
不貞腐れて口はきかないが大人しく私の膝枕で本を読み続けている。
「まったく、強情だな。お前が欲しいと言ったから宝石もドレスもくれてやったし、あれから無理やりお前を抱こうともしていない」
そう言っても聞こえないふりをしてソッポを向いている。
「どうしたらお前は機嫌を直すのだ?…なんでも叶えてやるから口をききなさい」
その瞬間、ガバリと体を起こして私の顔を真正面から見つめてきた。
「外へ出たい…」
やはり、それが願いなのか。
…だが少しは譲歩しろと宰相からも言われている。
「…外ならどこでも良いな? 私と、聖女候補の二人と一緒にピクニックはどうだ?それならば直ぐに手配してやろう」
そう言うと、本当に久しぶりに笑顔を見せた。
「ピクニック…したいです」
「では、直ぐに手配する。一緒に出掛けるとするか」
彼女の笑顔を見られたことが嬉しくて、弾む気持ちを隠しながら執務をこなす。
危険が無くて天気も心配の無い外出か…。やはり王宮の中庭が良いかな。
ガゼボで茶を飲み話をすれば、以前リンが言っていた女友達と出掛けたいという要求も果たせることになる。
自分の思い付きが素晴らしい物に思えてその日は一日リンを膝枕しながら公務を終えたのだった。
「いいお天気で良かったですわね、国王様」
「本当、いいお天気だわ。王宮の花も見頃で最高のピクニックになりそうですわね」
二人の聖女候補と共に王宮の中庭に来たリンは不満そうな顔でこちらを見ていた。
…もしかしてヤキモチを焼いてくれているのか?そうなら嬉しいが確証が持てない。
確証を得るためにも、興味は無いがこの二人と近い距離で会話することにしてみる。
「日差しの中で見るそなたたちは殊の外美しいな。だが、強い日差しは肌を痛める。無理はするではないぞ」
そう言いながら二人の口に菓子を運んでやると嬉しそうに頬を染めながら二人とも喜んで食べている。フム…リンは少し不機嫌になってきたようだな。
やはりヤキモチを焼いているのか?それならば自分も構って欲しいと言えば済むのに。
まあ、大勢の前ではリンが素直になれる訳も無いか。
無言で茶を飲むとリンはそそくさと立ち上がり部屋へ戻ると言い出した。
もちろん私も一緒に戻りたい。
…興味の無い女性とこんな無駄な時間を過ごすことは苦痛でしかないからな。
「私も公務があるゆえ、一緒に戻ろう。二人はこのままゆっくりとお茶を楽しんでくれ」
二人にはそう告げてリンと手を繋ぎ部屋へ戻る。
きっと彼女は感謝してくれるだろうと信じて。
「…今日はお前の要求を叶えてやることが出来たと考えても良いな?」
部屋へ戻ったリンは予想に反して物凄く不機嫌だった。
だからこちらから礼を言いやすいように水を向けてやったのに帰ってきた言葉は全く逆だった。
「…私は『外に出たい』と申し上げたのです。…王宮の中庭は外じゃありません」
またもソッポを向くリンの顎を押さえつけ、無理やりこちらを向かせる。
「…どうしてそんなに反抗的なのだ?あの二人は私に奉仕することを心から望んでいたのを見ただろう?…もしかしてヤキモチを焼いているのか?」
「全っ然‼二人とイチャイチャしていて、デレデレする国王様を見るのは楽しかったですよ?でも、私は奉仕なんてしたくないし、外に出たいだけだって話ですよ‼」
…真っ赤な顔で怒る姿はどう見ても拗ねている。
これはやはりヤキモチを焼いているのだとしか思えないのだが…本人は無自覚なのだろうか?
「デレデレなどしておらぬ。お前が行きたいと言うから忙しい公務の合間をぬってピクニックをしてやったというのに。…お前が素直に私を求め、自分から私の腕に飛び込んでくるように躾けてやろうか」
もう彼女の自覚を待っている時間は無い。
私に愛されたいと思っているのだと何度も躰に判らせた方が早いのかもしれない。
無理強いするのは可哀想だがそのうち愛が芽生える方に掛けるか…。
そう覚悟した時“ドンドン”と激しくドアがノックされると外で待機していた執事が慌てた様子で駆け込んで来た。
「大変です。王宮の庭に賊が入り込みました‼警備隊の者が向かっていますが、聖女候補様の身柄が危険に晒されていると報告がありました!如何いたしましょう」
思わず舌打ちしてしまう。
まったく…こんな時に余計な仕事を増やしてくれる。
「エイダに陣頭指揮を執らせる。私はまだやることがあるからここを動けない」
そう執事に告げ、エイダにも聖女候補の身柄確保を最優先事項だと指示した。
どうせ下級貴族が雇った賊程度だろう。
金で雇われたとすれば糸を手繰るのも難しいし、尋問する価値があるのかも疑わしい。
「捕らえられれば尋問するが抵抗するなら…構わん、殺せ」
エイダと共に執事も部屋から出て行った。
後のことは上手くやるだろうし、目下の問題は目の前にいるリンだ。
先ほどは無理強いするかと覚悟したが、いざ手を出そうとすると少しだけ戸惑う。
…どうしたものだろうか。
すると彼女がいきなり私の胸に飛び込んできたので思わず抱き留めた。
何でいきなり…思う間もなく彼女の方から口づけられる。
初めて彼女の方から求められた…感動に思わずどんどん深く口づけしてしまう。
舌を絡めて口内をたっぷり味わうとリンの口から甘い声が聞こえた。
…無理強いしなくても彼女は私を求めてくれたのだ。
これはもっと距離を詰めるチャンスでは無いか?そう感じてリンに囁いた。
「やっと素直になったな。私のベッドかお前のベッドか…どちらが良い?」
少しワクワクしながら問いかけた。
更新遅くなりました。




