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43 ルカ国王の拗らせ物語③

昼過ぎまでタップリと可愛いリンを間近で堪能できたせいか、非常に気分がいい。

これならば、彼女が私の気持ちを受け入れてくれるのもそう遠くは無いだろうと思っていた矢先に、エイダとシャールから報告があった。


「リン様が聖女様以外の異世界女性は市井でどうやって暮らしているのかに興味をお持ちです」


「…リンは非常に好奇心が強い。だから自分以外の者がどうなるのかを知りたいだけではないか?」


「…ですが、生活基盤のみならず家賃や物価、金銭面での保証はどうなのかまで調べていらっしゃいます。…さらに蔵書庫では近隣諸国の現況も調べているご様子。…多分、王宮を出て行くための準備を進めていらっしゃるのではないかと…」


そう言ってエイダが差し出したのは小さく折りたたんだメモだった。

拙い字で近隣諸国の情報が書かれている。


「こちらはリン様が異世界で着用されていた洋服のポケットから発見しました。見つからないように隠されていましたので、脱走を諦めてはいないと思われます」


…あれ程傍に寄り添い、構い倒しても逃げ出そうとするのなら、彼女の心を手に入れるのにはこれ以上、どうすれば良いのだろう?取り敢えずリンには気づいていない様に振舞うということでエイダに指示を出した。

本当に彼女は今まで会ったどの女性とも違う。

規格外過ぎて手に負えないが、絶対に手に入れると決めたのだ。

…今できることはスキンシップだけだしな…ため息を吐きながらリンの元へと向かった。




翌日、執務室にリンが現れた。二人の候補は公務の邪魔ばかりするので、宰相に出禁にされているが、リンは別だ。

…もしかしたら私が恋しくて会いに来てくれたのか…?

そんな思いは早々に打ち砕かれた。


突然、彼女が王宮の外に出たいと我が儘を言い出したのだ。

そんなこと当然受け入れられないので即座に却下する。

聖女である彼女は自分の価値を知らないが、外見からもこの国の人間では無い事が判る。

欲にまみれた貴族に誘拐され身代金を要求されることもあり得るし、暴漢に攫われ奴隷として諸国へ売り飛ばされる危険だってある。

王宮の中ですら貴族の入って来られない場所のみに限定して生活をさせているのにリスクが高すぎて外出など許せる訳が無かった。


「エイダと一緒に街へ出かけてアクセサリーやお洋服を見たいんです‼ほんの数時間で帰ってきますから出かけてもいいですよね?」


「だからダメだと申しているだろう。くどいぞ」


「王宮にばっかりいるから息が詰まるんですよー‼私は買い物に出かけたいんです」


「では、王宮に商人を呼んでやるから好きな物を買うが良い。宝石でも、ドレスでも…」


「違―う!私は町へ行きたいんです!買い物なんか別にしたくないけれど、外出がしたいって言っているの!」


「何でそんなに我が儘ばかり申す。聖女候補は王宮で大人しくしているものだぞ」


何度宥めすかしても彼女は執拗に外へ出たいと言い続ける。

…どうしてそんなに私から逃げようと必死になるのだ?イライラが爆発しそうになった時、彼女の方も限界だったらしくとんでもない事を言いだした。


「じゃあ、聖女様じゃ無いと判ったら王宮を出ても良いんですか?後、どれくらい我慢したら市井で暮らせるのか教えて下さい」


お前が聖女じゃ無くなる事など…私から離れる事など未来永劫許す訳が無いのに。

私の傍に居るのがそんなに我慢ならないのか?…私はどれ程嫌われているのだ…。

絶望に目の前が真っ暗になった。


「いい加減にしなさい。私を本気で怒らせる前に諦めろ」


それだけ言い放ち、彼女の反論を待たずに会話を打ち切った。

これ以上離れたいと言われたら耐えられる自信が無かったから…。


「国王陛下、リン様も王宮の中ばかりではストレスが溜まってしまうのは仕方ありません。…せめてもう少し譲歩されてはいかがでしょうか?」


宰相も気がかりなのか、ためらいがちに口をひらいた。


「だが、今の彼女は飛ぶ鳥と同じだ。一度飛び立てば二度と鳥かごへは戻らないだろう?」


「…確かに。リン様はかなり破天荒な女性ですからな。だからこそ魅力的ですし、閉じ込めたいと思われる陛下のお気持ちも分かります」


「今夜、改めてリンと話し合ってみようと思う。…確かに私も少し意固地過ぎたようだ」


「それでは恰好から入るのは如何ですか?リン様に可愛らしい夜着を贈ればきっと喜ばれますし、陛下も仲良く話が出来るかもしれませんぞ?」


  夜着か…。リンが今直用しているのは裾が長めのシンプルな物だ。

 …確かに可愛らしいリボンの付いた物ならばリンも喜ぶかもしれないし…まあ、私も嬉しい。


「いい助言を貰った。早速手配して今夜にでも贈ろう。彼女も少しは素直になるかもしれないしな」


「良いご報告をお待ちしております」


 宰相から良いことを聞いた私は早速エイダに“リンに似合う可愛らしい夜着を贈れ”と指示した。

 どんな服であってもリンは可愛いが、それが私の贈った物であれば着ている姿を見たいと思うのが男だろう?

 今夜こそ彼女とゆっくり話し合いをして、王宮の外に出るのは危険なことや、私がリンを大切に思っていることを伝えよう。

 そして彼女が気持ちを受け入れてくれたその時は…そんなことで頭がいっぱいで、その後の公務は捗らなかった。




 夜半過ぎに執事もエイダも下がらせた後、気持ちが昂り過ぎたため、もう一度一人で風呂に入った。普段ならば執事に任せるが少し一人になりたかったからだ。

 …今夜こそ彼女に思いを伝えると思うだけで緊張する。…他国の王族と話す時ですら緊張などしないのにこの動悸は何なのだろう?

 夜着を着て彼女の部屋へ入る。今夜はバリケードも無くすんなりと扉が開いた。

 …彼女の心もこのくらい簡単に開けばな…そう思いながらベッドへ入ろうとすると彼女がいないことに気が付いた。


「リン…?何処にいるのだ?」


 バスルームやベッドの下、カーテンの裏まで確認して慌てて外へ出る。


「お前たち!聖女候補のリンを見なかったか⁈」


 警備兵も、執事も誰一人リンが外に出たのを見た者はいなかった。


 …まさか…ジワリと嫌な予感が胸に広がる。

 異世界から召喚した彼女が元の世界に戻る可能性は低いがゼロではない。

 自分の手の届かないところへ行ってしまったとしたら…。いや、まだ誘拐・拉致をされた可能性も捨てきれない。


「聖女候補のリン・イチノセが行方不明になった。直ちに緊急配備し身柄を確保せよ。全ての門を閉ざし、人の流れもチェックするのだ‼」


 近衛兵に指示し、エイダにも念のために騎士としての任務を兼務させた。

 万が一にも彼女を傷つけるような輩がいた時には容赦しない。…絶対に。


リンが脱走した時、ルカの方ではこんな大事になっていたんだよ…というお話しでした。

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