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41 ルカ国王の初恋⑥

「リン様がやはり聖女様で間違いないようでございますね」


エイダの言葉に頷く。だからこそ彼女の傍にエイダを置いたのだから。


「私の方でもリン様のお気持ちが国王陛下に向くように畳み掛けてみますが、陛下ももう少し女性の気持ちを察するようにしていただきませんと心は掴めませんよ?」


…そう言われてもどうすれば良いのかまったく分からないのだが。


「先ずは傍へ行ってお話しなさってください。触れ合いこそ距離を縮める第一歩ですわ」


「…贈り物でもした方が良いか?宝石とかドレスとか…」


「ダメですよ。そんな物をリン様が喜ぶとは思えません。逆に“王宮から逃亡するために売り払って資金にしよう”とか言いだしかねませんよ⁈」


 それは…あり得そうな話だな。


「だが、リンの前に出ると照れてしまってつい憎まれ口をたたいてしまう。それでも傍に行きたいのだから困っているんだ」


「国王陛下は初恋を拗らせていますね…。とにかくたくさん触れ合いましょう!そこから愛を育てないと何も始まりませんよ‼」


 確かにエイダの言うとおりだ。…今度こそ、少し素直になってリンと話してみるか。

 イソイソとリンの部屋へと向かった。…それなのに…。


「今日は選定もしたし、疲れちゃったんだもん。お願い~!国王様と気詰まりなご飯をするのは嫌なんだもん」


 部屋に入ってそんな風にリンが騒いでいるのを聞いたら無性に腹が立った。


「ほう…。そんなに気詰まりなのか。私と食べることか?それとも着替えることがか?」


 イライラして聞くが、彼女は突如現れた私に動揺しているばかりで質問に答えようともしない。


「あの二人はどうしたんですか?毎日公務にも侍らしているって聞きましたよ⁈今も国王様を待っているんじゃないのですか?」


 あの二人…?ああ、勝手に執務室に居座っては邪魔ばかりするせいで宰相から執務室を出禁にされた女性二人の事か…侍らしているとは人聞きが悪いな…。

 イライラしたので、前回のように顎を引き上げて、私の方を向かせる。

 …相変わらず触り心地が良いな…。


「私と食べるのが気詰まりなのか、着替えをするのが気詰まりなのかを答えろと言ったのだが?」


 ムニムニと頬を触りながら再度問いかける。あ…コイツ目を逸らした…。


「そんなの着替えることに決まっているじゃないですか!私も今日は蔵書庫で汗をかきましたし、埃まみれなので。着替えると1時間はかかるので、今日の夕食は一人、部屋で頂こうかな~と思っていたんです!」


 本当は私に会うのが面倒だと思っていることが判る。

 リンが明らかに私を避けているのが腹立たしい。


「ご用件が無いようでしたら、そろそろ離していただけませんか?あんまり顎をムニムニされるとよだれが出ますよ」


 さっさと帰れと目で訴えられたのも許せない。

 何で、彼女はこんなに頑ななのだ?エイダも触れ合えと言っていたし、彼女にキスしたくて堪らない。

 思うより先に口づけして、唇も舐めあげた。


「よだれを零すと言っていたから舐めてやっただけだ。私は親切だろう?」


 そう言って手を離そうとした瞬間、顔面に枕を投げつけられた。

 まさか女性から攻撃を受けるとは思わず、まともに喰らってしまう。

 その上腹を蹴り飛ばされ、床へ倒れ込んだ。…彼女は本当に規格外だ。

 あまりにも驚き過ぎて動きが止まると、更に毛布まで被せて視覚まで奪われる。

 …こんな攻撃慣れをしている女性がいるのか?貴族のご令嬢では見たことも無いが、もしかしたらリンは異世界の暗殺者だったりするのか?

 …結局扉を出た所でエイダに取っ掴まった彼女を見て、それは無いなと理解したけれど私の淡い恋心は粉々になった。

 エイダに説教を喰らっていても彼女は不貞腐れたままだった。

 …これは少し、強制的にでも私の傍に置くしかないようだな。


「いいのだよ、エイダ。きっとリンは恥じらいのあまりちょっと強めに行動してしまっただけだと判っているから」


 エイダに目配せして、彼女を私の部屋へ連れ込む算段をする。


「それでね、リンは少しだけ面倒くさがりのお嬢さんみたいだし、今日から私の私室の奥の部屋で寝泊まりしてはどうだろうか?あそこならば、わざわざ私も移動せずにリンの顔を見られるし、リンの好きな蔵書庫も近いだろう?」


 そう言いながら無理やり担ぎ上げる。もう、出来ない我慢をするのは止めた。

 彼女が私から逃げようとするのなら、私は彼女を物理的にも閉じ込めてしまえば良いだけなのだから。


「エイダ…助けて…」


 リンの言葉にもエイダは手を振りながら『私も後で参りますからね』と爽やかに答えた。

 ねぇ、判っているかい?もう逃げ道は無いんだよ。


 王宮内を歩く私たちの姿をギョッとした目で皆見るが、誰一人声を掛けては来ない。

 余程私の形相が恐ろしかったのか、関わり合いになりたくなかったのか…。

 しばらくジタバタと暴れていたけれど、疲れたのか大人しくなったリンを私の私室に降ろす。


「あれ?私…牢屋に入るんじゃないの?」


 またおかしなことを言うけれど、愛する女性を牢なんかに入れる訳がないだろう。


「お前はすぐに逃げ出す癖があるようだから、ここで私がしっかりと監視することにした。勿論部屋は別にしてやるが、今度逃げようとしたら同じベッドで寝かせるぞ」


 これだけ脅せばさすがの彼女も顔色が変わった。


「この待遇に不満があるなら、今からお前を無理やり抱くぞ?そうすれば国王の子を孕んでいる可能性があるお前は、逃げれば王位継承者の誘拐罪で指名手配されることとなるからな。…お前が聖女だろうが、そうじゃなかろうが、あの二人の機嫌さえ取っておけば国は安泰なのだ。お前はここで私の性欲のはけ口になりたくないのであれば大人しくしていろ」


 余程怖かったのか、真っ青な顔で頷いている。

 少し可哀そうだが、先ほどの様子を見る限り甘やかすといつ逃げ出すか判らないから仕方がない。


「私室での私は国王陛下という敬称を必要としない。私のことはルカとでも呼べ」


 ついでに名前で呼んでほしくて命令口調で言ってみたが、疑問形で”ルカ様で?“と言っている。

 …まあ、今はこれでいいか。


「ここがお前の部屋だ、不満があればエイダに言うが良い。他に質問はあるか?」


 キョロキョロと部屋を見回す彼女が可愛くて少し揶揄いたくなった。


「お前は汗臭いぞ。さっさと風呂に入れ。…それとも私と一緒に入りたいのか?」


 私の言葉に真っ赤な顔で奥にあるバスルームへと逃げ込んだ彼女を見送ってから自室へと戻った。


やっと部屋に連れ込めました(笑)

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